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ニンジャ、ダンジョンに挑む 001

「では、チュドーユドーよ。わたしとかれを、ディアギレフのダンジョンへ運んでくれるか?」


 チュドーユドーは、人型から再び竜の姿になるがその大きさは馬程度だろうか。四つの足を折り、頭を下げている。ルサルカは、その背にまたがった。ハクは、海の中からスーツケースを引き摺り出すとそれを抱えてチュドーユドーの背に乗る。

 チュドーユドーは、大きく翼を広げると荒れ狂う風を切り裂いて空へと駆け上った。空を覆っていた暗雲を突き抜けて、蒼天の下へと出る。

 軽く旋回すると、眼下に暗雲が渦巻く青空から降下して雲のなかへと再び入った。雲を突き抜けると、そこには海の上に聳える城塞が見える。


「ニンジャ・ボーイ、あれがディアギレフのダンジョンだよ」


 ルサルカが、ハクに声をかけた。

 ハクは、空の上からダンジョンを眺める。それは、少し奇妙なものに思えた。外側の城壁には幾つもの階段や踊り場が造られ登りやすくなっているのに、内側の城壁は切り立っておりまるで何かを封じ込めるために造られた城塞のように思える。


「まあ、きみの思ったとおりだよ、ニンジャ・ボーイ」


 ハクは、驚いてルサルカをみる。ルサルカは、城塞を指差す。


「見てのとおりあれは、内側から出てくるものを封じ込めるために造られた城塞だ」

「何が、出てくるっていうんだ」


 ハクの言葉に、ルサルカは笑みを含んだ言葉で応える。


「魔獣、そう呼ばれるものたちだ」

「なんだ、それは。さっきの魔王が、生み出しているのか?」


 ルサルカは、首を振る。


「いや、もっと蒼古の時代に生み出されたものたちさ」


 ハクがさらに質問を重ねようとしたが、チュドーユドーが城塞の内側にある闇に突入したため思わず沈黙する。それは、不思議な闇であった。夜の闇よりもさらに深く、目を覆い隠されたように感じる濃厚な闇である。ハクはいきなり宇宙の深淵に放り込まれたように感じ、息をのむ。

 ハクは、全身が捻り上げられるような奇妙な感覚を味あう。重力も空気も失われたように思うが、同時に自分が肉体を失った思念だけの存在になったような気がして苦痛も不安も感じない。

 闇は、唐突に終わりを告げる。ハクは、竜が薄暮の空を飛翔していることに気がつく。地上は、荒野が広がっている。周囲には岩壁が空に向かって立ち上がっており、どうやら円筒状の世界に入り込んだようだとハクは思う。

 円筒の中心には、砦のような建造物がある。竜は、砦の近くに着地した。

 ルサルカとハクは、竜の背中から降りる。


「ありがとう、チュドーユドー。きみの手を借りるのは、ここまでだ。しばらくお別れだね」


 チュドーユドーは、ひとの姿に変化すると頷く。


「わたしは、あなたがたと一緒に行くのではないのか」


 ルサルカは、首を横に振る。


「きみのように脳が五つある存在をコントロールするのは、リソースの消費が大きすぎて今のわたしには無理がある。もう少し効率のよいシステムを構築するまで、ディラックの海で待機しておいてくれ。ああ、その前に」


 ルサルカは、そっと笑みを浮かべる。


「できれば行く前に、わたしたちの服を乾かしておいてくれるかな」


 チュドーユドーは再び小型の竜に変化すると、大きく口を開く。その口の奥で、真紅の焔が輝いているのが見える。チュドーユドーは、熱風を噴き出す。ハクは砂漠を渡る風のように乾いた空気の奔流に、のまれる。

 ルサルカの黒いコートが、死の天使が持つ翼のようにはためく。ハクの海水に濡れたボンバージャケットとスーツは、瞬く間に乾いていった。乾燥機がわりに使うとは、なんと贅沢なドラゴンブレスの使い方だとハクは思う。ルサルカは、チュドーユドーに手を振る。


「礼をいうよ、チュドーユドー。また、会おう」

 

 チュドーユドーは頷くと、黒い光に飲み込まれ消えていった。後には、一枚のカードが残る。そのカードには、竜の姿が描かれていた。宙を舞うそのカードをルサルカは手にすると、コートのポケットに突っ込む。

 ルサルカは、振り返ると砦に向かって歩き出す。ハクはため息をつくと、スーツケースを引きずりながら後に続く。

 ハクは、いつの間にか隣にキラが姿を現したことに気がついた。キラは水色の唇を歪める。


「何か言いたいことがあるデスか? クソ後輩」


 ハクは、少し肩をすくめる。


「どうやらおれたちはあの砦の下にあるであろうダンジョンを攻略し、魔王と戦うんじゃあないかという想像はできるんだが」


 ハクはやれやれと、首をふる。


「どんなクソゲーだって、もう少しましなチュートリアルがあると思うんだよな。まあ、チュートリアルで殺しにくるウイザードリィよりはマシかもしれんが」


 とはいえ、廃人にされかけたから似たようなものかとハクは思う。キラは猫のように、ニタニタと笑った。


「では具体的に何を知りたいですか、クソ後輩」


 そう言われると、まあ魔王とダンジョンがあってそこを攻略することが判れば十分なのか、という気もしてくる。


「いや、まあいいよ、キラ・パイセン」


 むう、とキラが不機嫌な顔になる。その時、ルサルカが口を開いた。


「わたしたちの向かうディアギレフのダンジョンは、二百年前に漁師のディアギレフがアルフェットの海で見つけたものだ」


 ハクは驚き、ルサルカを見る。ルサルカは淡々と言葉を重ねた。


「ディアギレフは、海面に空間の裂け目があるのに気がつく。ディアギレフはトラキア領に住んでいたので、彼の村を統べる領主に報告をした。そしてトラキアから派遣された魔導師が、裂け目の奥にあるダンジョンを見い出した。だから、あのダンジョンはトラキアの管理下にあるのだが」


 ルサルカの声に、何か皮肉な調子が宿る。


「トラキアは、あれを監獄として扱っている」





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