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2:使いもんにならねぇですわ!



「あぁ、ギーベリナ様! ご機嫌麗しゅう。本日はご足労頂き、誠にありがとうございます。また、この度はお悔やみ申し上げます。」


「ご丁寧にありがとうございます、ユリア。」



イザを教会の前で待たせ、誰も入ってこないようにお願いした後。中へと入ってみれば迎えてくれる女性が一人。そう言葉を送れば、細い目をより細くして微笑みを返してくれます。


彼女の名はユリア。イザと同じように、私と同世代の女性。


確か数年前にこの男爵領で教会を仕切っていらっしゃった司祭様が亡くなり、その後釜に『司祭代理』として収まった子だったはずです。確かお忙しくて正式に司祭になる試験などを受けれていないという話ですが、その能力は確かであり、慈悲の心を持つお優しい方だと伝え聞いています。


実際、父が死んだ直後に『け、継承できるスキルの存在は聞いてましたが、その内容どころか継承方法すら聞いてないのですが!? このままじゃ全部失伝して詰むんですが!? 我が家終わっちゃんですが!? なんで急に勝手に死にますのォォ!!!』と泣き喚きそうになった時、ひそかに継承法を知っていると教えてくれたのも彼女になります。



(故に、強い感謝を抱いているのは確かなのですが……。)



ちょっと、浮かべる笑みが不気味過ぎるといいますか。何考えているか解らない人なのであんまり信用しきれない方がいいと考えてます。普通に後ろから刺されそうで怖いです、はい。


ま、まぁ仕事はしてくれるでしょう。十分すぎる量の倍近くを寄進しましたし。



「それで……」


「あぁ、ご安心を。既に準備は整っております。人払いも済んでおり、先ほど再確認を行いました。……以前お伝えしたように、司祭様から口伝にて継承の法を教わっております。その通りに用意したので、問題はないかと。」



そう言いながら彼女が案内してくれるのは、教会の奥。


この世界の唯一の神である女神さまの像がある場所が、ここ。あまり豊かではない男爵領の教会ということでこの建物自体かなり質素なのですが……、この女神像だけは、周囲から浮くほどに豪華に作られています。これも信仰の表れということなのでしょう。


そしてその真下に置かれるのが、父の棺桶。魔法に関しては門外漢なので全く解りませんが、確か腐敗が進まないようにユリアが処理を施してくれたものです。



(スキルの内容もですが、継承の方法すら私に伝えずに死ぬとか本当に……。でもまぁ、父が死ぬ直前まで。いえ、死んでまで口にしなかった理由も理解できますが。)



耳元でユリアがささやいてくれる内容。儀式の手順を頭に入れながら、父への恨み言がつい漏れ出てしまいます。理解はできますが、感情ではどう足掻いても無理です。遺体でも一発ぐらい殴っておきたいと思わせるなんてよっぽどですよ? しませんけども。


……『スキル』という存在は、非常に強大な力です。


過去父に叩き込まれ結局退学する羽目になった王都の学園で、ソレについての様々な話を聞きました。想像の力を、現実に叩き落してしまう力。時を操ったり、不死の肉体を手に入れたり、全てを切り刻んだり。戦場に置いて、一人で数万を消し飛ばしてしまえる可能性があるのが、『スキル』です。


けれどこれは、完全に運次第の力になります。


どんなスキルになるのかも運で決まり、そもそもスキルをもって生まれるかも完全なランダム。遺伝など一切関係なく、人によっては『常に姿勢がとても綺麗になる』という使い道がよく解らないスキルを授かることもあるそうです。多少は便利かと思いますが、戦闘などに扱えるかと言うと、少々難しいのも存在すると言えるでしょうね。



(だからこそ、継承出来るとなれば。『使えるスキル』を一族で持ち続けることが出来るのならば。皆欲しがるでしょう。)



故に我らは、その『スキル』そのものを秘匿することに致しました。


いわば、『私本当はスキル持ってるけど、これは秘密! 外向きにはただの常人で通すよ! 何も持ってないよ! あ、でも生まれつき力とか凄いよ! 生まれつき強いの! 不思議だねぇ!』という形です。


完全な運で決まるものを、確定させることができ、強力なのです。確実に皆がスキルを欲しがり、何が何でも手に入れようとするでしょう。故に最初から存在を否定し、特殊な遺伝という形で収めてしまう。そもそもスキルという不思議な力や、魔法があるのです。そうありえない話ではありません。


故に私も、スキルの存在を公言することは父から暴力によってこっぴどく教えられておりました。そしてその存在が露見せぬよう、スキルを継ぐまで外で戦うことも。なので父が最後まで私にその内容を語らなかったことも、継承法を『神への誓約によって完全に秘匿できる』教会に預けたことも理解できるのですが……。ま、もう恨み言を言っても遅いのですが。


んん、話を戻しましょうか。



(そしてソレ、スキルが一族のものであれば。私は、このゴトレヒト家に生まれた娘として、守り続けねばなりません。)



いくら口を閉ざしていても、何代もスキル持ちが当主を担い続ければ、どれだけ愚かな者であろうと勘付きます。それが継承しているのか、もしくは確実にスキル持ちの子を産む方法なのか、我らが言うように本当に遺伝なのか。


外から見れば解らないでしょうが、確実に『魅力的』に見えるはずです。


そして魅力的ならば、奪ってしまえばいい。何が本当だろうと、奪った後に確かめればいい。事実我ら一族の歴史は、何度もそのような敵に狙われたと聞きます。けれど未だこの力を一族が持ち続けていると言うことは、そのすべてを跳ね返してきたと言うことに他なりません。



(しかし、強大な存在になり過ぎれば敵は集まり強大なものに成ってしまいます。……父は強かったですが、頂点ではありません。私も、スキル極められたとしても同様でしょう。)



王家に忠を尽くし『奪うよりも利用した方がいい』と思わせ、周辺には『そも戦いを挑めば負ける』と思わせる。暴力の人ではありましたが、父はその辺りのバランス感覚が優れていたのでしょう。ならば私も、そうならねばなりません。


秘密と受け継いできた力を守り、次代へとつなぐ。民に安寧を届ける様な名君になりたいと思うのが私個人の望みなれば、この継承が一族の義務。これまで連綿と血を繋いできた祖先に、私に再度命を与えてくれた一族に、礼を尽くし責務を果たすのです。


ま、まぁ私TS勢ですので、お婿さん探しどころか、可能ならば男性ではなく女性とお付き合いしたいのですが……。


こ、子供のこととかは一旦置いておきましょうか、はい。



「手順は、以上になります。またこの内容は神の名の下で秘匿し、この男爵領に勤める司祭が継承して参ります。継承が成った後、再度神前での宣誓をさせて頂きますのでお立合い頂けるでしょうか。」


「もちろんです。」


「ありがとうございますギーベリナ様。では……。」



そう言いながら礼をし、離れていく彼女。


さて……、手順は教わりましたし。初めて行きましょうか。


ユリアが教えてくれた手順に則りながら父の亡骸へと近づき、この世界での聖句を唱えていきます。そして手を伸ばすのは、父の胸元。鍛えられており、無駄に大きな体。結局一度も殴り返せずに死んでしまった父親。恩よりも恨みの方が多いのは確かですが……、やはり肉親。思う所はございます。


貴方はそんなこと考えてもいなかったでしょうが、一応父の娘として。次代のゴトレヒト家の当主として、為すべきことを為し、次の当主へと継いでいくことを誓いますわ。



「我が名はギーベリナ・ゴトレヒト。ベンツェル・ゴトレヒトの娘であり、次の当主となるもの。我らが祖が神から賜ったその力。今もう一度我らに授け給え。」



シスターから教わった通りの言葉を口にし、そう強く願った瞬間。






『んぁ? あぁはいはい継承ね。ってまた面白い子。んじゃ特別に解りやすくアップデートしてあげよ。さすが私、やさしさ満点。あ、ソレ癖強いけど頑張ってね~。』





「…………は?」



一瞬だけ聞こえる、聞いたこともない女性の声。


そして直後に父の身体が金色に輝き始め、自身が伸ばした手へと収束していく。


感じるのは、途轍もなく大きな何か。


まるで体が張り裂けんとするほどの衝撃と、ほんの少しの暖かさ。


何が何だか全く理解できずにただその力が流れ込んでくるのに耐えていると……。ゆっくりと収まって行く金色の光。


気が付けば先ほどまで流れ込んでいたはずの力が消え、あるのは強い充足感。



「これが、スキル。」



まるで自身の肉体が進化、先のステージへと上り詰めたかのような感覚。


暴力の化身であった父の力が、今は私の手の中に。この身は女ですが、やはりまだ心は少年なのでしょう。途轍もないワクワク感が、体に広がっていきます。アレですかね、少年アニメみたいなすっごい戦闘とか出来るようになるんですかね!


ん~~! やっぱりこういうの好きですわ~!!!



(ですがあるのは充足感だけ。あの声も謎ですが、体が軽くなったりとかそういうのは……?)



そう思った瞬間、目の前に生み出される青い板。


半透明で、“よく見た”ことのあるソレ。前世の記憶を元に言うなれば、創作の世界などでよく言われるステータス画面のようなもの。恐る恐るそれを触ってみれば……、とある文字が、“日本語”で、表示される。




『血税』




「血……、いえ。スキルの名前。いや税?」



日本語表示を疑問に思いながらも、再度それをタッチしてみれば『血税』の文字が右上へと移動し、その下にいくつもの文字が展開されていきます。クッキリと見えるもの、そして半透明になっているもの。おそらく使用可能かそうでないかを表しているのでしょうが……。


今後自分の力と成りうる『スキル』です。自然とその文字に目を通していくのですが、とある一点で、目が留まります。というか読み直します。




①【歳入加護】

その年の税収総額に応じて強化されるよ♡ つまり税を集めれば集めるほど強く成れるよ♡ 倍率は自分で使って確かめてね♡ あ、それと脱税されたり虚偽申告されたらペナルティとして税収が途轍もなく減るよ♡ 減った分は最終日に文字通り“血”で支払ってもらうから覚悟してね♡


現在の強化倍率:1

(税収ないよ♡ 領主ですらないぞ♡ 不適合者は即死だけど、初年度だから許してあげる♡ 感謝してよね♡)


②【納税審問】

誰が悪いことしてるか解るよ♡ 嘘発見器♡ 税金のことだけしか解らないけど、便利だよ♡ でも雑魚当主にはまだ使えませーん♡ 金貨100枚納めてね♡


③【祖霊召喚】

お家に縁のある死人を霊として呼び出せるよ♡ でも雑魚雑魚当主には過ぎた力だから、使わしてあげませーん♡ 悔しかったら金貨10,000枚納めてね♡




そう。強化倍率、1。



「…………は?」



え、なにこのふざけた文章。と、というか1? 何が? は? あと血で支払ってもらう? 税収が減る??? 即死??? は?????




『私が男爵になったことを祝い、今年は免税する』




……あっ!!!


つ、つまり……。今の私ってさっきと何も変わってないってコトですか!?


あ、あんまりですわ~~~~ッ!!!







◇◆◇◆◇






「お、お嬢様? 本当に大丈夫なのですか? こ、これお茶と茶菓子です。お祝いなので砂糖沢山入れてます! 元気出ますよ!」


「あ、ありがとうイザ……。わ、私。シスターに変なこと言ってませんでしたよね?」


「大丈夫かと思いますが……。すっごく心配されてました。何か不都合があったのでは、と。」



そ、それはいけませんわね。『継承自体』は問題なく済みました。非があるのは色々伝えずに死んだ父です。ご不安を感じさせてしまったのならば、弁明せねばなりません。信用しきれない方ですし、後ろから刺されたり急に破門されては困ります。後で謝罪の手紙と品を送らなくては……。



(で、でも。今はちょっと後回しでもいいですよね? ね?)



一族の『スキル』が判明した後。私は上の空と言うか、ずっと頭が真っ白でございました。


けれどそんな時こそ思考が回ると言いますか、危機的状況故に回ってしまったかと言いますか。もうどんどんと『私のスキルが少なくとも今年一年使い物にならない』ことに対するデメリットが浮かび続けたのです。もうソレを考えると頭が痛いというか、もう何も考えたくなくなるというか……。


い、いえ! これでも今日から男爵なのです! な、何か対策を考えなければッ!



「イザ、悪いのだけど……。」


「はい! 部屋の外で控えてますので、何かあればお声がけください! お嬢様みたいになんでもは出来ませんが、お力になります!」


「ありがとう、助かりますわ……。」



何とかして思考を纏め対策を練らなければとイザに退室を求め、その後姿を眺めながら頭を回します。


そう、この『ゴトレヒト家』の唯一の戦力ともいえる私が、『このまま』なのは非常に不味いのです。



「戦力が、戦力が私しかいないとか! クソ親父ィ! 恨みますわよッ! 幾ら秘匿事項だからって、継承者にヒントの一つも残さないとか頭狂ってるのですかおバカッ!!!」



もう今年丸々免税するって言っちゃったでしょうが! 領民喜ばしちゃったでしょうがッ! ここから『やっぱ辞めまーす。税金払ってくださーい。』とか言えるわけないでしょうがッ!


そんなのしたら信用が一気に崩れ去るどころか全部崩壊しますわよッ! 上げて落すのはほんとにダメなんですよッ!? そういうことし続けたら革命一直線なんですわよ!? ただでさえ父の不満が溜まってたところに上げて落すとか最悪ですわ! 絶対ソレしたら断頭台に上がるのは私の首ぃ!


イヤです! まだ死にたくないですッ!!!



「しかもぉ、しかもぉ!」



崩れ捲くっている口調と思考を整えることすらできないままに、もう一度頭の中で『スキル』を念じ、眼前にあの青い画面。おそらくスキルなどに関するデータなどを表示する板を覗き込みます。注目するのは、おそらくこの『血税』というスキルの根幹に位置する力。【歳入加護】のデメリットの部分。


『あ、それと脱税されたり虚偽申告されたらペナルティとして税収が途轍もなく減るよ♡ 減った分は最終日に文字通り“血”で支払ってもらうから覚悟してね♡』というところ! “血”で支払うってさ。文字通りってことはさ。マイナスになり過ぎたら死ぬってことですわよね。全部の血を抜かれて死ぬってことですよね。



「というかその後の倍率の所に、『税金集めないなんて領主じゃないよね♡ 領主じゃなかったら死ぬべきだよね♡』みたいなこと書かれてますしッ! そも何なんですかこのふざけた説明文はッ! なんか慈悲で生かされてますけど! 生かされてますけど! もう詰んでるようなもんですわコレッ!!!」



机を思いっきり叩きつけながら、そう叫びます。


本当にイヤですが……。この詰みを解消し、生き残るために父のような圧政を再度始めるという手があります。だって父が圧政を続けた結果が、あの強さなのですから。結果は証明されているのです。


ですがそれをしてしまうと、どこかで領民たちが反発して来るでしょう。彼らも限界ですし、一度上げて落すわけですから不満もなおさらでしょう。納める税を誤魔化したり、反乱を企んだりするかもしれません。そして彼らが納税を渋ると、おそらく脱税カウントになり私が弱体化します。途轍もなく、です。というかおそらくマイナスに振り切って私が失血死します。そして失血死しなくても私が弱体化した時点で反乱起きて断頭台行きです。



(あぁ、父が税をちょろまかした者を切り殺していた意味が理解できてしまう。脱税されるぐらいなら切り殺して『課税対象』を『なかったこと』にしながら、周囲へ納めることを強要できますもんね……。)



単なる圧政では、無かったのでしょう。


このスキル、説明はしてくれていますが肝心の『倍率』が一切不明なのです。父が最初から圧政を敷いていた……、いやあの人ですからその可能性もありますが、もし試行錯誤した後の圧政ならば、その多くの税収は一種のセーフティだったことになります。


つまりちょっとの脱税で、税収が消し飛び、血を徴収されて死亡する。その減少率は途轍もないものなのでしょう。元々私が想定していた低めの税収では……



「い、一撃ですべての血を持っていかれて即死するかも。」



全身の血が抜けていくような感覚。そんなこと起きていないハズなのに、恐怖のせいかどんどんと体温が下がって行くような気がします。


あぁ、どんどん父が暴力による圧政を敷いていた意味が理解できてしまいます。それでも色々やり過ぎだった気もしますというか、確実にやり過ぎていたとは思いますが、脱税なんかすれば殺されるって思わせればそんなこと誰もしませんものね……。


い、いや! 現実逃避してる場合ではありません!



「し、しかし! このままでは。私が『このまま』だったらッ!」



この世界は、本当に力のない者に対して厳しいのです。


まず魔物という敵。種類にもよりますが、まず訓練していない人間では倒すことなど不可能でしょう。最弱のスライムとか単体のゴブリン程度なら追い返せるかもしれませんが、討伐は不可能です。そして上は、天井なし。幸いなことにこの辺りはそこまで強い相手が出てくることはありませんが……。私一人でなんとかなる様な相手ではないのです。



「群れで襲撃しかけてくるとか、変に頭使って来る個体もいますし……ッ!」



そして、私以外の貴族たち。


一応同じ王の元に頭を垂れている仲間ではあるのですがが、常に蹴落とし互いの領土を奪い合おうとしている連中です。こっちから攻める理由も気もないとしても、このゴトレヒト男爵家が父の時代に比べて大幅に弱体化したと知れば、確実に殺しに来るはずです。


だって絶対、私達が継承スキルを持ってるってバレてるんですもの! クソ親父もお爺様もひいお爺様も! それ以前のご先祖様たちもスキルを継承してきたんですし! 周りも絶対『ん? あいつらずっとスキル持ってね? せや! なんか弱体化してるし奪ったろ! 戦争じゃ! 攻め込め―!』ってなりますもん! バレてなくても結局弱体化してたら攻め込んできますしッ!



「ヤダァ! このままじゃ絶対負けますのぉ! 勝ち筋なんてありませんのぉ!!!」



無論、今年一年。『血税』による今年度の強化倍率が終了するその日まで我らゴトレヒト家が弱体化していることを隠し通せれば話は別ですが……。この一年間で戦争が起き、国王陛下から参戦を求められればそっちで終わります。陛下からのお咎めを避けられたとしても、戦功をあげられなければ『弱くなってね? じゃあせめて領地切り取るべ!』になっても可笑しくありません。



「ど、どっちも対処できる気がしねぇですわ! というか隠し切れたとしても魔物が無理ですわッ!。アイツら好き勝手攻め込んできますし! 野生動物みたいなもんだから、そもそも攻めてくるタイミングなんて解りませんわ! ヤバいですわッ! あぁぁぁぁああああ!!!!」



何度も言いますが、この領地に兵士などいません。騎士もいません。戦力は私一人です。


そしてその一人も、あんまり頼りになりません。父に扱かれたので私も戦えなくはないですが、それでも常人の域を出ていません。前世に比べれば格段に動けますが、十体以上の魔物の群れがやってくれば簡単に殺されてしまうでしょう。


つまりたった一人で男爵領の全て。三つの村を守るとか不可能です。


無論急いで徴兵し、とりあえず数を用意することはできなくもないでしょうが……、彼らはただの農民です。おそらく民に力を持たせることをよしとしなかった父は、領民に対する訓練など一切行っていませんでした。


つまり真に戦力になるまで途轍もない時間が必要。多い時では週一で魔物をが襲って来ることを考えると、絶対に間に合いません。というか練兵途中で戦線に出す羽目になり、全員殉職する気しかしません。そして兵が死ねば、その背後の民が死に、その村が終わります。



「え、これ……。詰んでる?」



何をどう考えても、現状で勝ち抜く方法は思い至りません。


こ、このままでは先祖伝来の領土を荒らされ、家は没落し、私も死ぬか誰かの孕み胎に……!


い、嫌ですわッ! せっかく、折角父から解放されて色々自由に出来る男爵になったんですよ! 理想の領主様ムーブ出来るってウキウキしてたんですよ! スキルでちょっと俺tueeみたいなの出来るかな、って考えてたんですよ! なのに! なのに!



「これも全部クソ親父のせいですわ! 急にぽっくり逝きやがってッ! 何も伝えず趣味三昧とか本当にいいご身分……、趣味?」



父の趣味は? 美術品蒐集。


それで美術品は? 作品に寄るが高値で売れることもあり、貴族同士の交渉の手札にもなる。


金は天下の周り物であり、額さえ揃えれば何でも交換できる最強の手段。


つまり?



「使えるッ! コレ! これですわ! イザッ!」


「あ、はいお嬢様!」



金です金! しかも一定額集めれば一番怖い脱税対策もスキルで補完できますわ!



「すぐに商人、いや使用人を集めなさい! 父の遺品整理をしますわ! その後は商人を! 父と親交があった者を連れてきてくださいなっ! 売っぱらって金にして色々買い込みますわよッ!」


「かしこまりました! ……あ、あの、それと。何か叫んでいらっしゃいましたが」


「忘れなさい、いいですわね?」


「あ、はい。」




〇税外小話


「イザ、さっき持って来てくれたお菓子の砂糖。どうしたの?」

「はい! 厨房にあったのを使わせてもらって、作ってきました! お嬢様が甘いものお好きなおかげで、私達もそのお零れを預かれる! ほんとありがたいかぎりです!」

「まぁ『前』から酒煙草より甘味でしたからね。父もコレクション見ながら酒と共に嗜んでいたようですし。……それよりも料理長が『砂糖の量が減って来たから次の仕入れまで勝手に使うな』と言っていたはずですが、許可は取りましたの?」

「…………ぁ。どうしましょうお嬢様! 使い切っちゃいましたッ!」

「大人しく絞られてきなさい。」

「ひゃぅぅぅぅ!!!」



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