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15:お邪魔しますわ~!


「悪いわね、イザ。色々と。」


「? なんのことですか?」



馬で街道、現在罠の撤去作業や死体の処理が進んでいる道を歩きながら、彼女にそう話しかけます。


あの戦の翌日。身を清めた後は最低限の指示を皆様に飛ばし、気絶するように眠りにつきました。スキルはあれど結構無理してしまいましたし、疲労も尋常ではありません。流石に連日寝続ける様な状態にこそなりませんでいたが、ある程度しっかり寝たはずなのに、まだ腕へのダメージが残っています。



(和弓とかで酷使し過ぎましたものね……。全力で剣を振るうのは当分控えた方がいいかもしれません。)



私ですらこんな有様なのです。真面な訓練をしておらず、おそらく殺しの処女をあの場で使ってしまったイザの心労は自身よりも多いだろうと思い、声をかけてみたのですが……。



「特に問題ないですよ? 元気です!」



すっごくピンピンしてるんですよね……。


少し彼女の暴走と言いますか、献身といいますか。まぁそういう部分があったのは確かでしょうが、私の為に彼女が戦場に飛び込み、オスカーの心臓と喉に刃物を突き刺したのです。私がもっと強ければ必要の無かったことを出せてしまった。手にその感触がこべりついてもおかしくないですし、主として何とか解消せねばならないと思っていたのですが……。


この反応からして、本気で気にしてませんねこの子。



(心が強いというべきか、覚悟が決まり過ぎているというべきか。それだけ忠を尽くしてくれるのはありがたい限りなのですが、少々不安ですわ。)



いくら戦場と言えど相手に後ろから近付いているのを気付かせず突き刺したのを見る限り、もしかして暗殺者とかもいける感じなのかもしれません。そんなことさせる気は一切ありませんが、もしかすると失望させたら私もグサッと行かれちゃうかもしれませんね。


たぶんそんな時は私の方に非があるので受け入れるしかありませんが……、なおさら頑張らないといけない理由が増えました。



「……にしても、皆さま快くお手伝いして頂けてありがたい限りです。流石にこの量を何とかするのは骨が折れますし、放置しすぎると疫病やアンデッドに繋がりますもの。」



そう呟きながら、声をかけてくれる村の人々。作業中の彼らに馬上から手を振ります。


通行に邪魔な罠の解除も大事ですが、死体に関しては早急に何とかしなければなりません。


この世界でも死体は病の温床で、放置して入れば過ぎ去るのを待つしかない疫病に繋がります。それに血の匂いは野生動物のみならず、魔物も呼び寄せるのです。出来るだけ早く処理し、アンデッドとして蘇らないよう浄化する必要があります。なので一か所に纏めて火をつけて焼却。その灰を聖職者に浄化して頂く必要があるのですが……。



「相変わらず本当に何考えてるか解らない人でしたわ。受け入れてはくださいましたけれど、普通に怖い。」


「今日ちょっとだけ瞳が見えてましたもんね……。」



糸目と言うか線でしかなかった彼女の眼が、ちょっとだけ見開いていたのです。口は笑ってますし出てくる言葉も聖職者として相応しいものだったんですけど、怖くて……。


と、とにかくこの件は気にしないようにしましょう! しっかりと浄化はしてくださるとのことですし!



「ですね! ……それでお嬢様? なぜわざわざクレーマン領へ? その受け渡しとかでしたら私どもにお任せして頂ければしましたのに。」


「別にそれでもいいのだけれどね? 色々と私がした方が都合がよさそうだったのよ。」



彼女が指さしたのは、オスカーの首が入った箱。


そう、今からクレーマン家にお邪魔して戦後処理に入るわけです。しかもできるだけ早く、ね?


朝起きた後、あの商人であるラーフェルを呼び出して色々と聞き出してみたのですが、ようやく今回の進攻の全貌が見えてきました。本人は『潜ませている部下の報告が昨夜届いた』とか言ってましたが、最初から把握しててもおかしくありません。私が真に進攻を退けられるか解らなかったが故に、出していなかった情報なのでしょう。


そのおかげで空白だった情報が埋まり、ある程度考えが及ぶようになったのですが……。早い話、オスカーは少々焦り過ぎたのでしょうね。


山を越えた先にあるローヴァルト家の三女を嫁にとり、それに見合った家柄になれるよう駆け上がろうとした。それで一番厄介な我がゴトレヒト家を最初に潰そうとした、って所でしょう。考え方は間違っていないのでしょうが、ちょっと事前準備が足りなかったのと、私の存在を軽視してしまった感じです。



(……ですがどう考えても、600とあの魔道具であの父を殺しうると思えません。オスカーたちが色々と楽観視していたとしても、そんな者たちに伯爵家。ローヴァルト家が支援するとは思えません。……もしやあのクソ親父の死にローヴァルト家が? 我が家のスキル継承に関しても情報が?)



……ありえないとは言い切れません。


私がもし継承に失敗していれば、600で十分侵攻が可能。この一帯である『タールリング』を武によって収めるのは十分な数でしょう。クレーマン家側に付くよう裏工作も行われていたみたいですし。不可能では、ありません。無論全て私の勘違いで、偶々うまく転がった可能性もありますが、ちょっときな臭いのは確か。


魔道具も解除には破壊するしかないと感じ破壊してしまったので解りませんが、もしかしたらかなりヤバいモノだったのかもしれません。……父の死が関わっていて、スキルの存在がバレていたとしたら。もしかしたらあの後ローヴァルト家にドナドナされててもおかしくなかったかも。


まぁとにかく、戦は終わったのです。何が起きるか解らない戦後処理、私自らしませんとね。殲滅によって武威は示せましたから、すぐにローヴァルト家が再侵攻をして来るとは思えませんし。



「にしても、どうしましょうかしら。今支配領域が増えても面倒だから要らな……。うん?」


「どうかしましたかお嬢様?」


「あれ? もしかして……、あ。」



ようやく余裕ができ、色々と思い返していたのですが。


私、ラーフェルどころか直属の伯爵家。リーベラウ家にも『ちょっとクレーマン家貰っちゃってもいいっスかー?』って言ってましたわね。ラーフェル相手ならまだ商人ですし誤魔化しは効きますけど、オスヴァン伯爵様に言っちゃった手前実行しないとまずい感じですよね。


つまり、私が『クレーマン家を吸収』するのは確定条件。


で、でも。ちょ、ちょっとどう考えても一筋縄じゃ行かない気がするんですが……。


まず『防衛』、魔物とか盗賊から村民を守るお仕事ですけど、幾ら強くなったとはいえまだまだ父には及びません。今回600に勝てたのも罠と『相手が事前に来ると解っていたから』対処できたのです。それが不定期になりタイミングが解らず、しかも支配する村が3から5に増えれば……。


ぜ、絶対に守り切れませんわ。だってメイン移動方法が馬ですし、ゴトレヒト家とクレーマン家を移動するのに結構時間がかかります。現地の兵に守らせようにも、クレーマン家の常備兵は全部殺しちゃいました。つまり未だ我が家の戦力は私だけです。冒険者を追加で雇うという手もありますが、まだ組合から連絡がないので、それまでワンマンです。終わりです。


それに『統治』に関しても問題山積みです。なにせ今回の戦争で、一杯農兵を殺しちゃいました。戦場で誰を生かすかなんて選べないので仕方なかったのですが、敗走した奴ら以外は全部殺しちゃったのです。明らかにクレーマン家の住民から恨まれるでしょうし、そんな奴が新しい領主になったとしても話を聞いてくれるかどうか。最悪税金を無視して私の『血税』デメリットが発声。即死する恐れガガガ。



(し、しかもオスカーの妻を代官として立てようにも、彼女は伯爵家の人間。いくら嫁いだとしても生まれは変わりません。)



ローヴァルト家から返還要求が来るでしょうし、もしかしたら私達の上であるリーベラウ家から『その子政略で使うからウチで預かるね♡』と言われるかも。


どっちみち私と住民の間に挟んで緩衝材の役割をさせることが出来ません。



「い、戦に勝ったのに問題しか残らないとか。これだから戦争は嫌いなんですわ~~! 死ねッ!!!」


「お、お嬢様。お口が。」


「あら失礼。」



……はぁ。まぁどっちみちやることをやるしかない、ですか。


さっさとクレーマン家にお邪魔して、オスカーの首を渡して負けを認めさせるところからしていきませんとね。








◇◆◇◆◇







「というわけでやってきましたクレーマン家! 一応この村が領都と言いますか、あちらの本邸がある村なんですよね?」


「はい、そうかと思われます! なんかダンジョンっぽいのありましたし!」



そんな会話をしながら、馬に乗り軽く村の中を見て回ります。


あの街道を抜けてクレーマン領に入った私たちは、無事その日のうちにここまで辿り着くことが出来ました。無論私はかの愛馬で、イザは他の早馬に乗って到着した形になります。……にしても馬の貴方、昨日色々あったのに今朝にはもうケロッとして飼い葉貪ってたって話ですけど、ほんとタフですね。



「ぶる!」


「ま、まぁ元気で何よりです。あの魔道具の後遺症等ないようですし。」



とまぁそんなわけで到着したは良いのですが、道中少し気になることが幾つか。


まず最初に、敗残兵の一団らしきものたちとすれ違ったのです。こちらの顔を見た瞬間に全てを捨てて逃げ出したので会話することは出来なかったのですが……、おそらく傭兵か農兵の集まりと思われます。あの街道での戦で殺し切れず逃げ出した者でしょうが、ちょっと動向を注意せねばなりません。


単なる農兵であればそのまま自身の村に帰ってもおかしくはありませんが、彼らは少々高価な武装を保有していました。クレーマン家が侵攻の折に配布した武装なのでしょうが、それを持ったまま領内をウロチョロされるのは少々不味いのです。



(武器を持って人数がいる、それだけで人は簡単に盗賊に落ちますからね。『この装備と人数があれば一山狙えるんじゃないか?』って。そのまま傭兵化して戦場探しに動いてくれればいいんですが、基本的にそういう奴らってその場で盗賊化するんですよ。)



新しくクレーマン家領も収めるのであれば、盗賊を処理し領主としての役目を果たさなければなりません。


しかし賊を討伐するには、その居場所の把握が必須。


動かせる兵が私しかいない状況で相手するのはちょっと面倒で時間がかかり過ぎる相手と言えるでしょう。これまでなら一人でうろつくだけであちらから仕掛けてくる可能性があったのですが、戦で力を見せた以上すぐに逃げてしまうでしょうし、面倒な相手ですわ。



(そして……、少し領内の様子が静かすぎるんですよね。)



道中おそらくクレーマン領内で活動する商人や、冒険者の集団を見かけたのですが、どう見ても『戦に敗けた領内にいる人間』の動きではありませんでした。クレーマン家にとって今回の敗戦はお取りつぶしレベル、我が家が『全部私のものにしますねー?』と言っても何も文句が言えないレベルの負け戦です。


つまり領主の変更が行われると言うことですが……。その地を収める領主が変わると言うことは、その地における絶対的な権力者、いわば神が変わると言うことに他なりません。民は不安で騒ぎ始めるでしょうし、冒険者は一旦その領内から離れるのが普通。商人であれば新たな商機を探すため走り回っていてもおかしくない。


しかしそんなことが一切見られなかったので……。



「もしかしたら、そういう情報を伝える兵も殺しちゃったのかもですわね。」


「……不味いのですか?」


「いーえ。でもちょっと面倒になりそう、とだけ。」



敗戦の知らせが届いていればあちらもそれ相応の準備をしているでしょうが、それがないと言うことはある程度の混乱が予想できます。権利関係の書類とが財産纏めて夜逃げされる可能性がないのはプラスでしょうが、あちらの奥方が錯乱したり、使用人が暗殺を企んだり、まだ残ってる兵をかき集めて私を殺しに来ようとしたり。


色々考えられますよね。昨日しっかり寝たおかげである程度回復は出来てますが、あちらの奥方。伯爵家のレ条を守るために数百ぐらいの兵が詰めていたらちょっと詰むかもしれませんね。流石にないとは思いますが……。



「ご安心くださいお嬢様! 毒見肉盾なんでもやり遂げてみせます!」


「……胸を張って言うことではなくて? 」



ま、成るように成るでしょう。っと。アレがクレーマン家の屋敷ですね。門番は一応いるようですし、一応そちらに声をかけてから中に入るとしましょうか。


あ、イザ。私の服装とか髪型とか大丈夫? OK? なら良かった。






〇税外小話


「そう言えばお嬢様、ダンジョンの近くを通った時ずっとそちらの方を見ていましたが……。」

「わかる? ……帰りに寄っちゃダメかしら。」

「お嬢様のものに成りますので問題はないかと思いますが……。」

「本当!? ならすぐ潜ってみましょ! 何があるのかしら! どんあ感じなのかしら! くぅ~! こんな異世界っぽいの王都で魔法を見て以来だわ! すぐ終わらせてすぐむかいましょ! ほらハリーハリー!!!」

「い、いえ。流石に後日、万全の準備を整えてからの方がよろしいかと。まだお疲れの様ですし、装備も情報もございませんから。」

「……さ、さきっちょぐらいは駄目?」

「お嬢様?」

「そ、そうよね。駄目よね。うん……。」


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