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血税~課けた分だけ強くなるTS令嬢~  作者: サイリウム


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11/16

11:開戦ですわー!


「……アレですわね。」



地平線の先に見えるゴマ粒のような点を眺めながら、そう呟きます。


ラーフェルが上手くやったようで、あちらの出陣日時などは把握できておりました。どうやら配下の者を使ってより迅速な情報伝達を可能にしたようでしたが……、あまりにも手際がよいのであの商人が私で御しきれるのかとか色々考えてしまいます。


今はもう情報が正しかった証拠が目の前にありますので気にせずとも済んでいますが、『これ騙されてたら一瞬で終わるな』って状況でもありましたので、一安心です。まぁ戦が終わった後でもどう扱うか悩むことになりそうですが、今この場では細事。迫りくるあの軍勢を打ち倒すことに集中すべきでしょう。



「イザ、手筈通りに。」


「畏まりました。……御武運を。」


「ありがとう。」



彼女に礼を言い、走り去る彼女を見送ります。


前世に親しんだ戦略ゲームなどでは600という数字は取りに足りない兵数です。無双系であれば数分も掛からず消される数。しかしいざ実際にそれと一人で戦うとなれば、正直ちょっと絶望しかありません。スキルによって幾分か強く成り、思いつく限りの策を弄して見ましたが、どれか一つ嵌らなければ一瞬でお陀仏。絶体絶命と言う状況はこう言うんでしょうね。


……しかし、私はもとよりイザも覚悟してしまいました。私が死ねば、あの子は身を投げ打ってその相手を殺しに行くでしょう。戦いの訓練など受けていない彼女では、どのような結果になるかは明白。


なおさら、負けられません。



(ラーフェルがしたという誘導。それが嵌っていれば、あちらの想定は平地での決戦ですか。)



此方が同じ立場に立っても、その想定はおかしくありません。生前の父の性格から考えて、あの人は国家や伯爵様が主催する戦争以外自領から出ることを好みませんでした。つまり基本ゴトレヒト家単位で行う戦争は、防衛戦争。自領内での戦いになります。


その記録はあちらも持っているでしょうし、その自領内での戦闘が視認の問題からか平地に限定されていたことも知っているはず。『父がすでに死亡している』ことを知らない限り、この罠だらけの森に囲まれた街道を通ってノコノコやって来てくれるでしょう。


つまり私が勝利するには、『この道でどれだけ敵の数を減らせるか』に掛かっています。



「士気を吹き飛ばすためのモノもいくらか設置させましたが……、どこまでいけるでしょうね。」



情報によると、相手の戦力は600。そのうち農兵が100、クレーマン家の常備兵30、傭兵が70、敵伯爵家の常備兵が400程度という風に伺っています。その士気を崩壊させることが出来れば、常備兵以外を壊走させることは出来るでしょうが……、伯爵家のよく訓練された常備兵がそう簡単に逃げるとは思えません。


イザに秘密を打ち明けた時点の私で、死力を尽くして100を道連れにするのが限界。運よく常備兵以外を壊走させたと仮定した場合、トラップで仕留めるべきは300。一応そういう想定の元に策を練ってみたのですが……。本当にうまく行くんでしょうか。



「ふふ、直前にどれだけ悩んでも仕方ないというのに。……ま、やれるだけやってみましょうか。」


「ぶるるる。」


「あぁごめんなさい貴方。いえ忘れていたわけではないのよ。」



リーベラウ伯爵家に向かったときに乗っていた馬。伯爵領で用意した皮製の馬用鎧に身を包んだ彼にそう問いかけながら、首を撫でてやります。槍に剣に弓にちょっとした小道具。沢山縛り付けられて大変でしょうが、戦場で戦いたいという希望は叶えました。存分にその力を振るってくださいね。



「ぶる!」


「よろしい! では貴方? いつでも走れるように準備を。……開戦と行きましょう。」



すっと息を吐き出しながら、弓に矢をつがえます。


どうやらあちら側も私に気が付いたようで、少し内部での陣容が変わりつつあるようですが……、時間をプレゼントしてあげるほど、私は優しくありません。はしたないですがほんの少しだけ舌を出し、風を確認。ほぼ無風なことを確かめながら頭の中で慣れ親しんだ数式に数を叩き込んでいきます。


王都の学園にいたころ兵器開発に狂った友人が出来たという話をしたかと思いますが、彼女の実家はかなり太いお家でした。お陰様で私にも幾つか王都への伝手が出来、当時はあまり必要性を感じませんでしたが『職人』への伝手も手に入れることが出来ました。


当時は父の強さをそのまま継承できると考えていたため、それ前提に作らせた武器があるのですが……。まさかこんなところで使うことになるとは。



「流石にそうスイスイと引けません、がねッ!」



そう息を吐き出しながら引くのは、王都の職人たちに無理を言って作ってもらった、五人張りの和弓。調整の難しさと素材の関係から1張りしか作れなかった私の秘密兵器。かなり集中しなければ扱えませんので、今のように距離が取れている場でしか使えませんが、この圧倒的な射程は、圧倒的な利点となります。



「ㇱ!」



息を吐き出しながら、斉射。


一番先頭に立っていた装備の良い騎乗兵を狙ったつもりが、少しブレて隣の騎兵群に。少し傾けたおかげて重力にも乗ったそれは、複数人を丸ごと貫き、落馬させます。


どうやら即座にこちらの攻撃だと断じ、即座に騎馬突撃の指示に移ったようですが……。



「騎兵50ほど。……ㇱ!」



今度は水平を意識し、矢を放ち2人を貫き落馬させます。村の職人に用意させた和弓用の矢は50本ほど。頑張れば馬の彼に背負わせている洋弓用の矢も使えますが、それほど射程は稼げないでしょう。足元にある紐を再確認しながら、先行してやって来る騎馬を消していきます。



「38……、35……、32……。」


「槍ぃぃぃ!!! 構えぇぇぇ!!!!!」



矢を放つごとに、消えていくその数。そしてより大きくなってくる足音。


あえて先頭に立つ騎兵隊長らしき存在を残しながら、数を減らします。


そして。



「突撃ィィィイイイイイ!!!!!」


「今。」



完全に互いの輪郭を視認できるようになった瞬間。全速力で突っ込むよう敵隊長が声を張り上げたその時、つがえようとした矢か手を離し、足元に伸ばしてあった縄を全力で引きます。


その瞬間、解き放たれるトラップ。


限界まで押し止めらていた騎馬用のソレが起動し、偽装された地面から全てを救い上げるように、格子状に組まれた棒たちが飛び出ます。騎兵故正面からの防御は多少整っていますが、足場が崩れれば弱い。馬の足を取るどころかその骨を叩き折り確実に落馬するよう設計されたソレは、確実にその役目を果たし、後方の運よく逃れた兵以外全てを叩き落します。



(そして目の前にせり上がった地面があれば、騎馬は止まる。)



即座に軽く矢をつがえ、2射。罠で掬えなかった騎兵を処理し、落馬しまだ息がありそうな兵たちに駆け寄ります。結構な高所から転がり落ちたわけなので基本死にますが、たまに生き残る者がいるみたいですからね。適切に首を刎ねておきましょう。



「ぐッ、ぅお、ひ、卑怯者めッ……!」


「戦場に卑怯もクソもありませんわ。死んで我が家に歯向かったことを詫びなさい。……あぁそうだ。騎兵の誘導ご苦労さまでした。他にも手はありましたが、やり易かったですよ? では。」


「ぉご」



何か言おうとした騎兵のトップ、その装備からしておそらく騎士級だったその首に、剣を刺し込みます。口から血の泡を吹きながら死にますが……、騎士の名乗りを聞いてあげるほど私は優しくありません。もうちょっとスキルの倍率が高ければ相手に慈悲を掛ける余裕も出来たのでしょうけどね。


今の私に出来るのは、効率的に敵兵を殺すことのみ。生き残るための最適解を選ぶだけですわ。



「っと、流石に歩兵にも近づかれ始めますか。貴方! 行きますわよ!」


「ぶるるる!!!」



一部鉄製の盾を抱えながら前進して来る敵の手段を眺めながら、馬の彼にそう指示を出し、飛び乗ります。まだ時間はありますし、この和弓ならどんな盾でも貫いて殺して見せますが、今回は数を減らすのが目的です。馬上より矢を放ち、盾の上空を超えて後列の兵を刺し殺していきます。



「ッ。和弓はこれで弾切れですか。……まぁ騎兵は潰せましたし、ある程度兵を削ることは出来たでしょう。……そろそろ洋弓の射程。引きますわよッ!」


「ぶる!」



手綱を引きながら、彼にそう指示を送りトラップが作動しないよう街道を走り抜けます。


さて、戦の序盤はこちらの想定通り。この後も上手く行く様、神にでも祈っておきましょうか。








◇◆◇◆◇








「ご報告しますッ! シュミット殿、討ち死に! また騎兵隊生存者おりません!」


「ッ! 兵に混乱が起こらぬよう宥めろ! 重装兵はこのまま前方を警戒! 守りを崩すな! それと常備歩兵に馬と罠を撤去するよう指示! 触れる際は十分な注意を払え!」


「……シュミットが?」



飛んできた伝令にそう指示を出す騎士ベックに、信を置く騎士シュミットが死んだことを受け止め切れないオスカー。クレーマン家の軍勢は、早くも混乱状態に陥っていた。


なにせ騎兵と言えば、戦場の華である。


現代においては戦車や戦闘機などの現代兵装が登場したことでその地位を追われることになったが、この異世界に置いてその力はより盤石なものとなっている。何せ馬という人の5倍以上の質量を持つ存在が、自動車に近しい速度で突っ込んでくるのだ。掠るだけで致命傷を避けられない上に、その馬に乗った人間も攻撃して来る。人類同士の戦闘のみならず、対魔物に置いても状況を一変させる強力な兵種が、騎兵なのだ。


それが一瞬にして消滅。悪夢でしかない。



「ッ! それ以外の被害報告はまだか! 敵の姿を見た者は!」


「はッ! 第3・7歩兵小隊が敵弓兵により壊滅! 弓兵にも少なくない被害が出ています! 前列の重装兵は被害なし! また、先頭から敵弓兵が馬に乗った女という報告が上がってきています!」


「女……ッ! ゴトレヒトの一人娘かッ! ちぃ!」



たった一人の弓兵。ギーベリナによって、騎馬隊のみならず歩兵弓兵合わせて30近く消されたことに声をあげるベック。すぐさま兵たちの士気が下がらぬよう指示を出している所から解るように、戦場慣れはしている様だった。しかしそれだけで戦術・戦略をひっくり返せるわけではない。


クレーマン家の軍勢は『敵はゴトレヒト当主であるベンツェル』、『戦場は森を抜けた後にある平地』という前提で動いていた。それ以外の想定もしていなかったわけではなかったが、主力ともいえる騎兵が全滅するなど想定外もいい所。兵士の士気が低下し、しかも『おそらく超人の血を受けついだギーベリナ』まで出てきている。


さらに。



「オスカー様、ゴトレヒトは戦い方を変えて来たと思われます。おそらく単純な戦闘にはなりません。トラップの警戒をし、迂回を進言します。」



何とか感情を押さえつけながら、自身の上司にそう進言するベック。


街道の入り口ともいえる場所に設置されたこの対騎兵用トラップを考えると、平地に辿り着くまで大量の罠や伏兵が森の中に潜んでいると考えられた。そこを通るなど自殺行為であり、ただでさえ騎兵が消えたことで動揺した兵の士気が更に瓦解し、壊走するかもしれない。


しかし……。



「……。」


「オスカー様ッ!」


「……ぁ、あぁ。すまない。ベック、もう一度頼む。」



未だ動揺が抜けきれないオスカーの肩を掴み、声をあげるベック。それによってようやく気を取り直したようだが、やはりまだ同様の色が強い。長年クレーマン家に仕えて来た騎士の家系出身であるシュミットは、それまでの祖先同様幼少期からオスカーの一族に仕えて来た。


つまりオスカーからすれば、幼いころから寄り添ってくれた直臣があっけなく死んでしまったことに他ならない。本人も何とか動揺を振り払うことに努めていたが、経験不足がここで牙をむいていた。



「オスカー様、迂回を進言します。撤退も一つの手ですが、未だ相手の最大戦力であるベンツェル。ゴトレヒト当主の姿が見えません。ここで背を向ければそこに襲い掛かって来る可能性があります。ここは相手の裏をかかねばなりません。」


「……だ、だが。」


「重装兵を殿に置きながら別の道を取るべきです、距離はありますが、他領を経由するため罠に悩む可能性がありません。兵に負担を強いる策ではありますが、数を残したまま決戦に移れます。」



主君の様子に強い不安を覚えながらも、感情を押し殺し忠義のため淡々と伝えるベック。


ここで撤退を選んだ場合、兵の士気が終わり完全な壊走状態に陥る可能性が高い。しかし『移動』という名目であれば比較的士気を保ったまま動けるかもしれない、というもの。そして士気を保つことが出来れば、移動時に敵が背後からの強襲を仕掛けてきた場合、上手く対応し数を使っての包囲戦略を決めれるかもしれない。


けれど……。



「シュ、シュミットの仇も討たずして引けというのか!?」



吹き飛んだ思考を再構築するオスカーの頭に、感情が乗る。



「お、落ち着いてくださいオスカー様!」


「そも迂回してどうする! 兵たちの食、その経路! 一体どうやって確保するのだ! そのような不確実な要素を取るより、森を中を進んだ方が良いではないか!」



臣下を失ったこと、そして維持だけでも高額な騎兵を全滅させたことから既に『退けない』思考になりつつあるオスカーだったが、その言葉はもっともだった。


そもクレーマン家は、兵を十分に食べさせるだけの麦が不足している。無論ギーベリナ率いるゴトレヒト領に進攻するのに必要なだけの食料は確保できているのだが、それ以外の行動が難しいのだ。ギーベリナが侵攻を察知した直後から麦の買い込みを行い、豪商とも呼べるラーフェルがその手伝いをしたことから付近の麦の大半はゴトレヒト家へ。


つまりオスカーたちがこのまま移動すれば、途中で餓死する可能性が出てくるのだ。


そして通る道も、問題である。確かに多領の道を通れば安全にギーベリナを攻められるかもしれないが、他の領主が治める場所を通るとなれば、確実に諍いが起こる。もしかすれば玉砕覚悟で相手が突っ込んでくるかもしれないし、何かしらの策を弄されて大打撃を受けるかもしれない。


確かに目の前の明らかに怪しい道を通るよりはマシかもしれないが、失敗する可能性が高いのも事実だったのだ。ならばもう、相手の企みを打ち破る他ない。



「いや! 森の中では魔物の被害や兵の士気が維持できない! ならば……、伝令!」


「お、オスカー様! お待ちを!」


「くどいッ!」



未だその両肩をもって止めようとする騎士の腕を、払いのける。


総大将は彼であり、騎士ベックはその補佐でしかない。戦場という常に状況が変化する地において、上層部が選択をためらうのはマイナスでしかない。故に最終的な判断は全て、その頂点。クレーマン男爵家の長であるオスカーに委ねられている。


感情か、論理か。その区別を未だ付けられぬままに、彼は叫ぶ。



「槍を持つ者を前線へと送るよう各小隊に通達! 街道の地面を叩きながら、慎重に前進させよ! また罠を見つけ解除した勇敢なる者には私直々に褒美を取らせると伝えるのだ! すぐにッ!」


「は、はッ!」







〇税外小話

・現在の戦況


●ゴトレヒト防衛隊


ギーベリナ(総大将・騎乗中・射撃による若干の疲労・回復中)

イザ(補助兵・潜伏状態)


騎兵用トラップ及び、和弓を使用。超長距離戦闘手段の残弾ゼロ。

各種トラップ、カタパルト、騎乗戦闘用装備は未使用。歩兵剣問題なし、洋弓残弾50。



●クレーマン侵攻軍


オスカー(総大将)

シュミット(騎士・戦死)

ベック(騎士)


ローヴァルト伯爵家常備軍400

(重装兵には被害なし、騎兵50が全滅、歩兵弓兵に被害あり。士気は維持)


クレーマン男爵家常備兵30

(歩兵弓兵のみ、多少の被害あり。士気は維持しながらもシュミットが戦死したことで若干の混乱あり)


傭兵70

(騎兵が全滅したため、報酬だけもらって帰るタイミングを探し始めている。士気無し)


農兵100

(もう逃げたい)



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