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三題噺もどき4

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくさん。



※この吸血鬼さんは納豆が嫌いです※

 


「――っ!!」


 息のつまるような思いと突き落とされるような感覚に飛び起きた。

 いや、実際には飛び起きたのではなくて、体がこわばっただけに終わったのだけど。

 勢いで飛び起きられる程の体力が今はない。

「――」

 体は未だに強張ったようなままで、何かがドクドクと鼓膜を叩く音がする。

 呼吸こそ乱れはしなかったが、酷く汗をかいている。

 変な夢でも見たのか、悪夢にでもうなされたのか……直前の記憶が混濁しているような気がする。ここがどこで現状がどうなのかが、すぐには思いだせなかった。

「――」

 部屋の中は真っ暗なままのはずだが、変に興奮したような状態の頭がおかしくなっているのか、視線の先の窓の外の遠くの更に遠くの景色が見えてきた。

 遠視なんて疲れるだけだし、今の時代たいして使い物にもならないのだから、抑えていたのに。その景色の中ではこの国のどこかの人間がせかせかと働いていた。……国内に抑えられているだけマシなのか。これはこれで力の衰えを感じてしまう。

「――」

 まぁ、招いている現状も、衰えゆえかもしれないと考えると、この体でも老いには勝てないと言うことなんだろう。

 先週末あたりからの不調の延長というか、あれはまぁ、不調でもなんてもないのだけど。どこかしらの不具合は合ったのかもしれないし。

「―…」

 少しずつ落ち着きを取り戻しつつ、視界を抑えていく。

 瞼を閉じても見えると言うのは、まぁ、慣れはしたが疲れるものだ。

 意識的にシャットダウンすることは出来るが、そこまでの余裕が残念ながらない。抑えることで精一杯な感じだ……ほんとに体力が衰えている。

「……」

 一応、吸血鬼という身の上のはずなのに、熱にうなされることがあるとは思ってもいなかった。それなりに病気に対する免疫的なものはあるはずなんだけど、それもこれも体力の衰えなのだろうか。もう数えることもしなくなったほどに年を重ねてはいるけれど……。

「……」

 ジワリとかいた汗が、冷えた空気にさらされて、体の熱を奪っていく。

 それがとても心地いい。冷やすことはあまり良くないが、溶けるのではないかと思う程に熱をもった体は、体力と気力とを根こそぎ奪っていく。

 これでもマシになった方なんだが……。

「……」

 まだ少し記憶が混濁しているが、それを意識的に考えないようにする。

 今はあの頃ではないし、あの国ではないし、あの人たちはもう居ない。

 ここには、アイツしかいない。アイツと私しかいない。

「……」

 閉じていた瞼を開き、天井を見上げる。

 真っ暗とは言え、性質上暗闇でも視界は良好である。

 見慣れた天井を見やり、少しほうと、息を吐く。

「……」

 壁にかけているはずの、時計の針の音が聞こえてくる。

 部屋の何かが軋むような音がする。

 アイツが居るはずの鳥籠の中が、空になっているのが見える。

 誰かが廊下を歩くような音が聞こえる。


 ガチャー


「起きましたか」

 光の漏れる廊下から、ノックもせずにドアを開けたアイツは、いつもと変わらぬ表情でそこに立っていた。

 キッチンにでも立っていたのか、エプロンをつけている。

 少々眩しい光に、思わず目を細めそうになる。

「……おきた」

 後ろ手にドアを閉めながら、こちらへとやってくるのを確認し、視線を天井に戻す。

 ……なぜだか、何かが溢れそうになった。

「熱はさがりましたかね」

 そういいながら、ひたり、と触れる手のひらの冷たさに、なぜか安堵を覚えた。

「気分はどうですか」

 そういいながら、覗き込んでくるそのいつもの顔に、なぜか安心した。

「……」

「……ご主人?」

 やはりまだ、本調子ではないのだろうか。

 体が思うように言うことを聞いていない気がする。

「……おまえ、てがつめたいぞ」

「あぁ、それはすみませんね、食事をつくっていたもので」

 そういいながら離れていく手を、名残惜しく思うなんて。

 そんなことは、ないはずなんだが。

「……食べられそうですか」

「あぁ、いただこう」

 まだ少しだるいような体を起こし、一息つく。

 ……風邪なんてひくものではないな。





「全く、いい歳して雪遊びなんかするからですよ」

「……うるさいおまえだってはしゃいでたくせに」

「……納豆お食べになりますか?」

「……いらん」












 お題:時計・溶ける・夢

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