本当の自分は
これは一人の少年と決して人間とは言えない一人の少女の物語。
ある少年は帰り道、ぽつんとした一つの公園を見た。
そこには誰の気配がするわけでもなく、ただ一つ薄紫色の自転車が佇んでいた。
その自転車のカゴの中には灰色のマスクと手紙があった。少年は誰かがこの公園に不法投棄したものだろうと思っていた。
だけれどこの少年は後に形容しがたき時間に巻き込まれることをまだ知らない。
僕は山月中学校の在校生。
名前は旬田絹春。
最近この山月中学校に進学した。友達は、まぁまぁできたと思う。
元々いた小学校からけっこう友達は別の中学校に行ってしまったけど、案外すぐに友達はできた気がする。
だけれど、僕は最近、人と接するのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。きっとそういう時期なのだろう。
人よりも言葉を吐き出すこともない昆虫に話しかけたらすることがある。自分でもけっこう恥ずかしいとは思っているのだけれど、無理にストレスを抱えるよりはましだ。
今日、僕は見つけた虫と話しながら学校から帰ってきた。家に帰ってきたら動画を見漁るのが僕の日課なのだけれど、ひとつ、ずっと目に止まっていた動画があった。それは「キョロ充」と呼ばれる人について解説したものだった。
なにか、胸の中の奥の奥で自分が突き放されたような気がした。
たしかに僕は、まわりの人の視線を気にしながら生きていたかもしれない。
けれど、こんなに突き放すように言われるとは思っていなかった。
ただの動画だということはわかっているけれど、
それが理解できないくらいに焦っていたのだろう。
この動画を見てしまった自分を恨んだ。
とりあえず、今日は寝ます。「明日には振り切れてるといいな」と思っていた。
この時間だけが、この少年が一人の少年でいられた時間だった。