根暗冒険譚:火炎窟の変異魔獣
「浪漫の探求者」外伝「知られざる星天の遊興世界」より
皆さん、どうも。根暗之未婚(写本)です。
今日も今日とて、やっていきます『星天エクスペラ』。
まずは、前回までのあらすじから。
――珍妙生物トレイシー・サークスに誘われて、冒険者団『浪漫の探求者』とともに臨んだ、海底洞窟の強襲戦を越えて、存在の格が凄く上がった『蛮勇士団』の僕らは、ナギの街の冒険者団の中でも有数の実力者集団とみなされるようになった。団長の『寡黙番長』ヴァンは、晴れて妖霊級に認定され、僕――『暗黒術師』ネクラモヒカンは、鋼級、霊銀相当に。
これで僕も、陰の実力者か。なんてね。
それにしても、装備の力って、偉大。あの大蛸の化物からのドロップアイテム、『獲星の墨袋』から錬成した魔導書『深淵歩き』の力で、水系統の魔法はもちろん、闇の触手の召喚とか、冥い系統の魔法への適性が跳ね上がっている。これで名実ともに、暗黒術師って感じ。
以上、前回までのあらすじ。そして、今は別属性のダンジョン攻略に出向いて、より戦力を増強しようとしているところ。
今回のお伴は、同輩の『先駆者』ショウと、『浪漫の探求者』の見習いくん。見習いくんの名前は知らない。等級ないし。
両方NPCだし、気兼ねがないね。ソロプレイにも優しくて助かる。
水属性――正式には水天の属性が強く影響を与えるのは、炎天の属性らしいので、やや背伸びして火焔窟に足を運ぶことになった。ナギ周辺の果て、魔界の地に寄る場所だ。
その道すがら、街を外れた程近く。穏やかな風が吹き抜ける、平和な街道にて。
「もしもし、そこのあなた。よろしければ、占っていかれません?」
そう言って僕を呼び止めたのは、フードを目深に被った、真っ黒な女だった。名前は、分からない。イベントシーンに出てくる固有名のないキャラクターは、別に珍しいものではないけど、この女は実際には名前付きだというのが、直感でわかる。今は、単に「胡散臭い占い師」と表示されているが、きっと重要なNPCの一人なんだろう。
「占うって、何を?」
「そうですねぇ。何でも構いませんが、例えば――あなた自身の不満足の解消の一助であるとか。ご自身が特別なものであるという、確固たる自認を持ちながら、いまいち特別には成り切れないあなたが、この架想星天において、ひとかどのものと成れる道筋を示す……というのはいかがです?」
そんな提案、NPCにされてもな。いや、NPCだからこそか?
何にせよ、今みたいに、ぼちぼちやっているくらいが、僕には丁度いい。そもそも、所詮はゲームの中の話だし、そこで大成したところでなんなのか、とも思う節もある。
「そういうのは、間に合ってるよ」
「そうですか。ならば、あなたが現に存在しているところでの、あなた自身の望みについて占う、という方が良いのかもしれませんね。種倉有羽様」
その瞬間、被ったフードの奥底から、煌々と金色に輝く、おぞましいギョロ目の眼光が、こちらを射抜くのを感じた。しれっと僕の本名を口にしたこいつは、ゲーム内の僕ではなく、明らかに視点を意識して向き直り、こちらを凝視している。その理外の振る舞いに総毛立つ。
「あら、人違いでしたか? これは失礼いたしました。……ええ、あなたは『蛮勇士団』の暗黒術師様でしたね。存じておりますよ。最近は随分と、躍進しておられるご様子で」
目線をネクラモヒカンに移し、くすくすと不気味に笑うこの女は、どう考えても普通のものではなかった。ゲームのシステムとかでなく、僕自身の正気度が削られていくのを感じる。あまりにも趣味の悪い演出だ。なんなんだ、こいつは。
「……何が目的だ?」
「目的、ですか。そうですねぇ……。……面白そうでしたので、様子を見に来ただけですよ?」
絶対、嘘だ。ただ様子を見に来た、というわけじゃない。こちらをからかって笑い者にする、そういう魂胆が見え見えだ。これだから、陽に属する連中は、気に食わない。
「ふふ。察しの良い人は、嫌いではありません。可愛げはありませんが、それでこそ、わたくしも遠慮なく干渉できるというものです。次元を隔てて星天に在るという、ただそれだけの事実を、何ら根拠なく自身が上位存在であるという理解に紐付けられる――その認識を少々くすぐるだけで、接続者たちはとても面白い反応をなさいますからね」
ひたすらに意味深に、メタな事を言う。不安を煽るようなことを言っても無駄だ。ゲームの中の登場人物に過ぎないお前が、実際に何をできるっていうんだ。
「一体、何をするつもりだ?」
「あら。わたくしは、何もいたしませんよ? あなたは、ただそれが可能であるというだけで、誰かに悪意をもって接するのですか? 随分と趣味のよろしいこと……」
上品そうに口に軽く手を当てながら、不思議そうな仕草でこちらを見ている。その言葉は、額面通りには到底受け取れない。何の意味もなく、そんな事を言うわけがない。
「ふふ。うふふ。もちろん、信用などなさらなくて結構。偉大なる星晶に誓って、わたくしはあなたを害しません。……それでも、その言葉を信じることは、あなたには出来ないのでしょう? あなた自身の不信があなたを害することを、あたかもわたくしの干渉であるかのように思い込む――わたくしは、その無様を見たいのですよ」
「性格が終わってる」
性格が終わってる。なんだこいつ。
フードの女の口から、不快なニヤつきが消えた。少しは真面目に話す気になったのか?
「……これだけは、言っておきますが。あまり露骨に喧嘩を売られると、しっかり買いますからね、わたくし」
「自分から絡んできておいて、それは通らないだろ」
「強者というのは、そういうものです。いくらでも、経験はあるでしょう?」
知ったような口でうそぶく女は、またニマニマと不快な笑みを浮かべ始めた。その目は、ずっと見開かれたままで、変わらない。全てを見透かすような強烈な視線に、凄まじい居心地の悪さを感じる。
……ああ、よく分かってるさ。陽の連中は、いつもそうだ。大人しく陰に潜む、気弱で善良な弱者を、どこまでも食い物にする。その傲慢が、気に入らない。
「お前の挑発には乗らない」
「ええ。それが賢明でしょう。喧嘩を買うにしても、せめてもう少しは強くなっていただかなくては、こちらとしても張り合いがありませんからね。妖霊にすら至らない、塵芥の如き霊の分際で、わたくしに立場を弁えない口を聞くようであれば、捻り潰しますよ」
本当に、なんなんだこいつは。立場を弁えていないのはどっちだよ。お前、そんな強くないだろ。不気味ではあるけど、それだけだ。感じ取れる存在の格は、全く高くない。
「まぁ、そんなことはいいのです。折角の機会ですよ。何か聞いておきたいことはありませんか?」
唐突な話題の転換に、ついていけない。これだけ露骨に不信感を煽っておきながら、どうして付き合う気になるというんだ。
「遠慮しておく」
「あら、欲のないこと。では、わたくしが言いたいことを言うだけ言って、帰りましょうか。……成程、成程。『臆病な自尊がもたらす消極、不利益に繋がる卑屈と他責を生む。其は善良に非ず。真の善良とは、傷付き、傷付けることを恐れても、ただ善きことを為す意志の力である』とのこと。心当たりがあるのならば、気を付けてみても良いのかもしれませんね?」
まるで、他人からの伝聞を伝えるように、腹黒女は言った。全部お見通しだ、という態度が気に入らない。本当に、心底から忌々しい女だ。
「……そんなことは、分かってる」
「然様ですか。ええ、もちろん、わたくしといたしましては、どちらでも。それでは、ごきげんよう。賢しらな地球人」
優雅に一礼をする腹黒女から、さっさと目を背ける。
関わり合いにはならない方がいい。そう思う。
「どうしたっすか? 暗黒術師」
道行きに同行していた、先駆者がこちらに問いかけてきた。
「どう、かぁ。何のこと?」
「いや、なんか難しそうな顔してるなって」
ふむ。心当たりが特にない。
確かに、直前までは考え事をしていた気もするけど、具体的に何を考えていたのかは、さっぱり覚えていなかった。きっと、別に重要なことではないのだろう。
「そう見えたなら、何かはあったかもしれないけど、もう忘れちゃったよ」
「ふぅん……? ま、そういうこともあるかもしれんすな!」
傍らに、見習いくんが腕を組んで何か考え事をしているのが見える。
取り敢えず、話しかけてみようか。
「何か気にかかることでもあったかい?」
「……いや、何でも。……少なくとも、脅威ではねえらしいしな」
なんだよ、意味深なことを言うじゃんか。
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遠路はるばる辿り着いた火焔窟は、非常に効率の良い狩場だった。海底洞窟の龍宮で、雑魚の蛸足どもを蹴散らした爽快感を思い出す。
しかし、見習いくんは凄いな。誰も気にかけないような、低価値の雑多なドロップアイテムも含んで、全部きっちり拾っている。アイテムインベントリに収納上限がないのかと疑うくらい、取り敢えず拾っているみたいだ。
……こういう振る舞いもあって、『浪漫の探求者』は『ごみ拾い』と呼ばれていたんだろうな。凄く分かる。
「ショウ、前方少し先に落石罠だ。警戒して進んでくれ。マークはしておく」
「了解っす!」
おまけに、探知周りの能力も非常に高い。いつもなら、先駆者が罠に引っ掛かるのを団長がカバーして事なきを得ていたのに、今日に限っては一度もそうはならなかった。今日は団長がいないからどうなることかと思っていたけど、割となんとでもなりそうだ。
最奥手前の休憩地点で、軽く談笑する。
「いやー、ザッくんは頼りになるなぁ!」
「……まぁ、そうかもな。ショウはもうちょっと、周囲に目を配る方がいいと思うが……」
先駆者は前しか見てないしね。対して、見習いくんは少々過剰なくらい、周辺に警戒しているようだ。死んだとしても再発生する世界観で、命の価値が安いこの世界において、ここまで慎重な彼は、非常に珍しいタイプであるように思う。
「仲間を信用してるんすよ。先駆者は罠を踏む! 寡黙番長は俺をかばう! その間に、術師が敵を倒す! 嗚呼、美しき助け合い!」
いや、確かに普段からそんな感じだけどさ。
可能なら、罠は解除か回避かしてくんないかな。無理か。無理だろうな。
「ヴァンさんは今日は居ねえ。そもそも、独りのときはどうすんだよ」
「言っても、独りでダンジョンアタックなんて、普通しないっしょ? もしかして、ザッくんも妖霊級、目指してるんすか?」
そうなんだよな。敢えて独りで挑む必要なんて、普通はない。
妖霊級への認定の条件には、単独でのダンジョン攻略の実績も必要だけど、別に難易度の指定はないし、簡単なところに行くだけでもいいはずだ。それこそ、チュートリアルダンジョンでもいいだろうし。
「……ああ。いつになるかはわからんが、そのつもりだ」
「おお……! あのビビりのザッくんが、立派になって……! 今夜はお祝いっすな!」
「うるせえな。安全重視だ、ってずっと言ってんだろうが」
「でも、そっかー。俺も頑張ろ。また一緒に認定受けに行くっすよ!」
「一人で行けよ……」
和気あいあい、といった様子だ。
その輪に入らない自分の存在が虚しい気がしなくもないけど、相手はプレイヤーキャラじゃないしな。それが普通だ。
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火焔窟の最奥には、事前情報の通りに火精サラマンデルが……いなかった。
「何だ、あいつ……?」
代わりに、大きな陸亀のようなやつがいた。体高は、現実で言えば5メートルくらいだろうか。いかにもボス敵って感じのサイズ感。爬虫類繋がりか?
名前は『大陸亀』。……例によって、癖のある読みだな。tortoiseだろ、陸亀は。その甲羅には、水晶のようなものがたくさん生えている。見るからに、防御力が高そうだ。
見てわかるのは、それくらいか。何にせよやっぱりまずは挑んでみないと、何もわからないな。
前衛二人に囮をやってもらいながら、後衛として攻撃の準備に入る。
「一意専心、穿て『貫穿水釘』」
牽制に放った魔法攻撃は、着弾の間際で不可視の障壁に弾かれた。
なるほど、そういうタイプの奴ね。出力次第では通るのか、それとも魔力による干渉全般が通らないのか、どっちだろうな。後者だとしたらほぼ詰みだけど。
僕の魔法攻撃を受けて、明らかに敵視がこちらに向いたのを感じる。亀のイメージとはかけ離れた、高速の突進が、ついでに先駆者を巻き込みながら、こちらに迫る。
強かに打ち付けられ、脆弱な暗黒術師は一撃で『戦闘不能』となった。先駆者も同様らしい。
文字通りの壊滅状態。こういう状況に陥ると、やっぱり盾役って大事なんだなって実感するね。
――ああ、今回の挑戦は失敗か。あと何回か試して、どうしても無理そうなら撤退かな――
「暗黒術師ッ!」
見習いくんが叫びながら、こちらに何かを遠投している。
……これは、『生命の水薬』? 遠隔でのアイテム使用までできるなんて、本当に便利さが凄まじいな、見習いくん。
NPCが、そんなことをする場合もあるのか。なんて気前がいいんだ。普段携行してないから、あんまり詳しくはないけど、気休め程度の効果じゃない、即効性のやつ、あれ単価5万くらいした気がするんだよな。簡単なクエストの報酬金が精々2千もいかないことを考えると、そんな気軽に使うものじゃないと思う。
「試したいことがある! 一瞬でいい! こいつに拘束、仕掛けてくれねえか!?」
「え? ……まぁ、別にいいけど……?」
雑魚はともかく、ボス敵に対する拘束、基本的にほぼ効かないんだよな。効いても、ほんの一瞬だけ……それこそ、3秒くらいしか持続しない。
……意味があるとは思えないけど、ポーションの代金とでも解釈しておこう。それじゃ、流石に貢献が安過ぎるか。
「それじゃ、いくよ。『命渦より縋る渇望の腕』」
魔力を媒体に、冥府から再現された亡者たちの腕が、陰鬱に響く怨嗟と嫉妬の音をあげながら、亀の四足に纏わりつく。どうやら、ちゃんと効いてはいるらしい。そもそも抵抗されたらどうしよう、と思っていたが、一安心だ。
既に動き出していた見習いくんは、地を駆る獣のような身のこなしで、素早く亀の足元に潜り込むと、差し出した手元に小さな火を生み出したらしい。あれは、『発火』か? なんでまた、そんな微妙な初級の魔法を……?
「ガアアァァッ!」
バインドの解けた亀が暴れ、見習いくんが吹き飛ばされる。
亀の咆哮の中、微かに何かが割れるような音が聞こえた気がした。
「ぐっ……まだまだァ! 行くぞ、ショウ! お前も働けッ!」
ポーションを自分に使い、やや遠くで転がっている先駆者にもまたポーションを投げながら、果敢に亀に立ち向かっていく。本当に大盤振る舞いだな……。そこまでされたら、雑に失敗しにくいじゃないか。
「……人づかいが、荒いっすな。ザッくんは……。……行けるぜ俺ァ! うおおおぉッ!」
「あくまで囮役だ! 回避重視な! 期待はしてねえけど!」
まぁ……うん。彼は、他人の話を聞かないからね。
見習いくんも、よくわかっている。
「暗黒術師! 火力はお前頼りだ! きっと、今なら通る! ありったけをブチ込んでくれ! だが、そう長くは保たせられねえ!」
「う、うん……」
なんという、露骨な持ち上げ。……いや、まぁ単純に事実でもあるか。役割的にも、僕が主要火力要員だし。
何にせよ、時間はもらったんだし、最大火力を目指そう。
目下一番適性の高い、水天の属性に全力を注ぎ、魔力を練る。
どうせ、ここが終点だ。最悪、失敗したとしても、再発生時には全快するし、折角なら、残り全部使っちゃえ。
時間にして2分程度の、それでも戦闘中にかけるには十分に長い準備時間をかけて、全力の召喚術を発動する。
「大海より来たれ、水天の化身!『召喚式:克己獲星』!」
亀の上空に描かれた、どこまでも深く冥い青の陣から、再現された大蛸の化物の肉体の一部、力強い腕の一本が、ぬらりと姿を見せた。目も付いていない、ただの腕の一本なのに、威厳たっぷりに周囲をぐるりと睥睨するさまが見て取れる。
――アア……アアア……! 忌々しい、陸の卑小な芥どもッ! 深遠なる大海の威光に平伏せェッ!『獲星撃』!
虚空に憤激の叫びが響いたかと思うと、遥かより降り注ぐ流星の如き、高圧高速の一撃が、亀を貫いた。……爆音を伴う凄まじい衝撃に、前衛二人も吹き飛ばしながら。ごめんよ、巻き込んで。
辺りに鳴り響いた爆音の余波で、耳がキーンとする。
舞い上がった土埃で、状況は何も見えない。
何にせよ、その場に動くものは何も残っていなかった。
「……やったか!?」
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無事、やれてました。フラグじゃないよ。
亀からのドロップアイテムは、甲羅と水晶。水晶の方は沢山あったから全員で分けて、甲羅は見習いくんにあげた。色々世話になったしね。
だけど、気になることもある。
長い帰り道の半ばで、直接聞いてみることにした。
「……ねえ、見習いくん。君は、どうしてあの局面で『発火』を選んだんだ?」
もっと強い魔法を使うべきだった、とかそういう話ではなく。
火焔窟の魔獣には、炎天の属性の攻撃はほぼ通らない。それは、見た感じで誰にでもわかることだ。あの亀だって、特に炎天が弱点だったということはないはずだし。
「……なんで、か。……まぁ、あの部分にだけは火が有効なんじゃねえか、と思ったんだよ」
「なるほど……?」
記憶を辿ってみる。何か、そんな判断ができるような理由は考えられるだろうか。言われてみると、あそこには何かがあったような気がする。
……腹の下にあったらしい、魔力障壁を生み出す器官。その器官に、既に過剰に蓄えられていた炎天の魔力にさらなる負荷をかけ、容量を超えさせた、というわけか。そう聞くと、合点が行く。
だけど、だからこそ腑に落ちない。その振る舞いは、僕らと同じ、メタ認知に由来する直感だった。それが有効であるという確信を元に、機構として設計された正解を、適切に選び取っている。あまつさえ、プレイヤーの僕もすぐには気付かないようなことを。
「……君は一体、何者だ?」
世界の仕組みを深く理解し、過程を飛ばして正解に辿り着く力。ゲームプレイヤーにとっては当たり前の「それ」も、現に世界に生きる者にとっては、紛れもない異能の一つと言えた。
「……俺は、『浪漫の探求者』の見習い、ザック・バーグラー。それ以上でも、それ以下でもねえよ」
……そこに欺瞞があるのかは、わからない。
元々『星天エクスペラ』は、普通のゲームじゃない。もしかしたら、当事者として世界を見るからこそ、知れる何かがあるのかもね。
「そっか。これからもよろしく。君の冒険を応援してるよ」
「……おう。……ありがとう……?」
疑問符の付いた言葉で、返された。
まぁ、礼を言われることではないと思う。正しい反応と言えるだろう。
そこに潜む本質が何かはわからないけど、わからなさこそ、楽しめる。
何にせよ、僕はこれからも、楽しく傍観させてもらうとしよう。
種倉有羽は、星天を覗く窓が、星天から覗かれる窓にもなり得ることを、認識していなかった。特に知る必要もないその秘密は、これからも知られることはないだろう。
『深淵歩き』効果:正気度の低下を低減
克己獲星の怨念が宿る魔導書。深淵の狂気に向き合う方法を教え、深淵に潜む者を従える力を与えるとされている。
『魔力喰いの水晶』
魔力喰いの大陸亀から採れた水晶。周辺から魔力を吸い上げ、蓄える性質を強く宿している。
『魔力喰いの甲羅』
魔力喰いの大陸亀を守っていた甲羅。非常に堅牢であることに加え、魔力による干渉の影響を低減する力の残滓が感じられる。