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女子高生、賢者に成る  作者: 美女木ジャキジャキ
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プロローグ

優しい物語目指して頑張ります。





「すまないが、この国から出ていってほしい」



 目の前にいるのは秀麗な王子。隣に座るのは可憐な令嬢。

 艶やかなのに柔らかな、いいところ取りのような髪の毛が日の光を反射させているのを少女は瞬きの中で考えた。

 少女の名は、竹内良子。齢18の、明るい未来が待っていたはずの日本人である。



「はあ」



 思わず気の抜けた返事をしてしまう。

 相手は一国の王子だ。普通だったら不敬罪で打ち首になってもおかしくはない相手なのだが、良子はそれが許されていた。



 この世界でいえばほんの半年前、良子は道端に現れた。



 見慣れない上着に、膝丈という短すぎる履物の裾。見たことのない素材の鞄に、一般人は滅多にお目にかかることのできない真白な紙束。

 発見したのは町を守る衛兵だったが、そこからあれよという間に王宮へと運び込まれた。

 察しのいい人ならもうお分かりであろう、いわゆる異世界転移である。

 良子は、言葉も通じない未知なる人間に終始驚きっぱなしだった。触れるものすべてに警戒し、食事も水分も必要最低限で済ませ、ずっと顔を強張らせていた。当たり前である。急に見知らぬ文化圏に運び込まれたのだ。しかも最大の問題は、言葉が通じなかったことである。

 良子は高校の友人からおすすめされて読んだ、ライトノベルを思い出しながら悪態をついた。こういうのって普通言葉通じないの? 文字が読めないならわかるけど! と。現実は実に無情であった。



「なぜ、急に?」



 良子の背後がにわかにざわつく。

 こう見えても良子はこの国に保護された重鎮だ。それほどこの半年でやってきたことの大きさは計り知れない。



「……すまない」


求めているのはすまないという謝罪の言葉ではない。しかしなにを尋ねてもそれ以外言わなくなってしまったすまないbotさんに盛大なため息が出る。



「はいそうですか、で納得できると思いますか?」



良子は変わらぬ表情で問いかける。

 王子は少し俯いた。のっぴきならない事案があるのだろうか、きっと良子に直談判するには後ろめたい内容なのだろう。



「被害者面をしたいわけではありませんが、せめて無事に帰れるまでは面倒をみていただかないと、こちらとしては一文無しなので困ってしまいます」

「補償は……する」



 こいつ、マジのマジで無一文で追い出すつもりだったのか。

 思わず暴言が出そうになるがグッとこらえる。目の前の王子、すらっと伸びた長身に端正な肉体をしているが年下である。流石に自分より小さい子を虐める趣味はない。もちろん皮肉だ。



「ところで、そちらのお嬢さんは?」



 良子は首を傾げる。

 この場において、良子は王族を敬う必要性は全くない。それが許される身分であるはずなのに敬語を使っているのは、単なる癖と警戒心からだった。日本において王族やらなんやらは一般の前に現れることはほとんどないが、物語の中での王族というのは底が見えない印象であった。こちらも武装するに越したことはないのである。

 生活費を出してもらっている関係性なので一応王族に対し敬いの対応をしているが、そこのご令嬢に対しては別だ。親しい間柄でもないのに挨拶もなしに居座っていること自体が、この国でいう所のマナー違反である。たとえ名前を知っていようとも、王族に呼び立てられたという状況からすれば、挨拶をしないというのは絶対あり得ないことなのである。



「リョ、リョウコ殿……」



 隣にいる少女は一切話さない。

 不安げで庇護欲の沸くかわいらしい表情を隠そうとせずに王子に縋り付いている。



「そう、ですか」



 良子は一人納得した。

 後ろに控える者たちの息を飲む音がする。



「ええ、わかりました。いつごろまでに城を出ればいいのですか?」

「……へ?」



 にこりと笑いながら、しかしそのつもりだったが全く口角の上がっていない顔で問いかける。

 気の抜けた返答に思わず眉間に皺が寄るが、気にせずいい返事を待った。



「城じゃなかったですね、国でした。若輩者ではありますが少しばかり名の知れた人間ではありますので、騒ぎになったら申し訳ないです」



 目の前に置かれたティーカップを見下しながら言う。

 絶対若輩者とか思ってないだろ、という後ろからの視線は無視しつつ、良子は王子の目をしっかりと見た。



「……できれば、すぐにでも出てほしい。すまない、猶予はないんだ」

「猶予、ですか」



 冷めきった紅茶を入れなおそうと近づいた侍女に待ったをかける。



「もう出ますから大丈夫ですよ」

「しかし……」

「大丈夫ですから」



 良子は着てきた高校の制服とは違う、長い丈のスカートを抑えながら立ち上がった。



「それでは身支度をしてまいります。どうぞご安心くださいな、殿下」



 ぱたりと閉められた扉。

 最後に見たのは、泣き崩れそうな王子の顔だった。




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