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ライフ・アテンダント 人生の付添人  作者: アルシオーネM45
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第四章 第一部 ウィンウィン

〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター

愛凜(あいりん) ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖

〇ゆらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人

〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人

第四章 第一部 ウィンウィン


 明け方五時近くまでファミレスで過ごし、オールする客には慣れている店員さんがにっこり笑って送り出してくれた。

 車が私たちの住む地域に近づきつつある。ルームミラーで確認すると、私以外はすでに透明化していた。

 ゆらちゃんを家の近くで降ろし、しばらくその場で待機して、彼女が無事室内に入ったことを知らせる合図を待った。

 私にはわからないが、愛凜ときらちゃんには見えるゆらちゃんのOKサインを確認して出発。

 同じようにきらちゃんも彼女の自宅付近で降ろした。

 彼女の一家は早起きで、この時間帯は弁当作りに励む奥さんを残し、だんなさんは朝のランニングに出かけているはずなので施錠は解除されているだろう。

 一応三百メートルほど離れた町道に車を止めてきらちゃんからのサインを待つ。

 三分ほどして愛凜のスマホに彼女からのRAINが届いた。

 「きらちゃん入れたみたい。さあ、わたしたちも帰りましょ」


 車を車庫に入れ、玄関の鍵を開けて中に入る。愛凜が持つバッグが宙を飛んで私についてくるのが可笑しくも不気味だ。

 部屋に上がってテーブルを隅の方に押しやり、手っ取り早く着替えて即寝態勢の準備完了。

 愛凜はパジャマ姿になっている。就寝する時は一応パジャマに着替えるのか。

 「寝る時はパジャマ着るんだ。で、どこで寝るの?」

 「それは言えません。おやすみ」

 そう言って消えた。

 「おやすみ。明日は……もう今日か。昼まで寝るから起こさないでくれよ」

 「わたしも昼まで寝るわ。起こさないでね」

 「どこで寝てるか見えないのに起こせるかよ」と小声で悪態をついた。

 「こっちは見えてるから、早く目が覚めて退屈になったら起こしてあげるね」

 ……何か言い返す気力も最早ない。寝ようねよう。


 二時間くらい寝た頃だろうか。感覚ではそのくらいしか時間が経っていないと思ったが、時計を見ると十時を過ぎている。内線のコール音で起こされてしまった。

 「はい」

 少し不機嫌に答えると父だった。

 「玄関に大きな届け物が来とうぞ。『学術書』と書いてある。発送元は【腐れ姉妹書店】。大きなバラの花のステッカーが貼っちゃる」

 「あ、ああわかった。そりゃ資料やけん、そこに置いちょってよか。

 取りに降りるけん」

 そうだった。ゆらちゃんのお姉さんが集めた、百冊を超えるBLコミックをうちで預かることになっていたのだ。

 人目の少ない早朝に、姉妹三人でえっちらおっちら運んだのだろうか。であればゆらちゃんは今朝、家に帰るなり寝ずに箱詰めし、姉と妹を叩き起こして運搬を手伝わせたに違いない。

 まだはっきりしない脳を覚醒させ、急いで下に降りて荷物を見た。

 シャレなのかマジなのかわからないが、ダンボール箱側面に貼付された巨大な薔薇の花びらのステッカーが、暗に中身がなんなのかを受取人に伝えている。

 見た目にかなりの重量であることを予想させるが、ひとりで持って上がる以外ない。

 腰に急激な負担がかからないよう静かに持ち上げ、ジーンズのベルト付近に箱の下側の折り目が引っかかるように乗せる。そして一段ずつゆっくり昇り、なんとか部屋に運び上げることができた。

 部屋に入ると愛凜が起きてきて、いま持って上がった箱をまじまじと見ている。

 「この中、全部BLコミックなのかな?」

 「そうだと思うよ。すごい重かった」

 「どこに置くの」

 「とりあえずこのまま押入れにでもしまっておこう」

 「だめよ! ゆらちゃんたちが読みに来たら失礼じゃない」

 「じゃあどうする。どこに置く?」

 「本棚でしょ。ほら、こっちの部屋の棚、余裕があるじゃない。ここに並べるの」

 「並べるのって…… まるでオレのコレクションみたいじゃないか」

 「いいじゃない、空いてる場所なんだから。ほら、箱を開けて本を出して」

 仕方なく言われる通り、本を取り出して愛凜に渡した。愛凜はそれを丁寧に本棚へ巻数の若い順に並べていく。

 時々「ほー」と唸っているのはエロマンティックな表紙の構図に感心しているのだろう。

 私はあえて表紙・背表紙・裏表紙を見ないよう愛凜に手渡している。


 「ほら、きれいに並んだでしょ。ここまで揃うと壮観よね。

 タイトルだけ見てても面白い。それだけ読んでも内容が推測できないものから、あからさまに主張しているものまで多種多様。アルトも見てみてよ」

 「オレはいい。そっちにはできるだけ行かない」

 「もー そんな意地張らないの。ほら、こうやってこのタペストリーをかけとけば、タイトルが隠れて見えないよ。

 それにしてもなによこのタペ。こんなの持ってるからロリって言われるのよ」

 「あのね、このタペは神絵師の梱江田りん子先生作の限定品だぞ。もっと大事に扱いなさい。

 それにオレのことをロリって言ってるのは愛凜だけだろ。あのふたりは愛凜のRAINを読んでおれがロリ好きだと思い込んでいるだけじゃん。妙なプロパガンダは拡げないでくれ」

 「でも好きなんでしょ、ロリ系」

 「ノーコメント」

 「ほら、肯定した! 別にわたしだったら正直に言っていいんだよ。変身してあげるから」

 「ノーコメントっつったらノーコメントです」

 昼まで寝るつもりが、すっかり目覚めてしまった。愛凜も同じだろう。

 「ゆらちゃん姉妹。確か今日も立ち読みに行くって言ってたよね。また買ってくるかもね。そうしたらコレクション増えるよ。いいねアルト、お金使わず書棚が充実していく」

 「……もうどーしよんなかねー」

 「しょんなかたい。でもアルトの小説のネタになるかもしれんよ。そうなったらそれこそウィンウィンでよかやんね」

 「愛凜もけっこう方言しゃべれるね」

 「それはそうよ。わたくし、生まれも育ちもここですから」


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