第三十三章 第一部 恋愛と結婚
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
第三十三章 第一部 恋愛と結婚
私の埒外のところでお見合い話が進んでいる。
お見合いの先には結婚があり、更にその先に妊娠・出産・子孫繁栄と、それぞれの家族の血縁を存続する使命を担うのだ。
愛凜にしろきらちゃんにしろゆらちゃん姉妹にしろ、彼女たちが現実を生きた時代は『個』より『家』を優先させることが第一義。そのために望まない婚姻を迫られ、周囲の圧力に屈してとんでもないクソ野郎と縁組させられた女性も多くいるだろう。その逆も当然あったはず。
そもそもこの見合い話は、私と愛乃さんがそれぞれ一人っ子で、そのどちらもがクローバルな意味での婚意を持っておらず、このままでは双方の家の家系図が私あるいは愛乃さんの名前で杜絶する可能性が濃厚。その危機的状況を打破する意図から、それぞれのライフ・アテンダントが動き出した、と愛凜にさっき聞かされた。
日付が変わろうとしているこの時間帯は、さすがに客も少ない。
広い浴槽に首まで浸かり、目を閉じて長い時間、温湯に身をゆだねた。
愛凜たちが自分たちのことで心を砕いてくれているのはありがたいことだと思う。私たちだけではなく、命の繋がりを途絶えさせないというファクターも大きい。
しかし現代は数十年、数百年前の時代背景とは隔絶しており、価値観も大きく変貌している。
今の時代、恋愛=結婚の方程式は成り立たない。そもそも『男女』という単語さえ違和感を持つ人もいるだろう。『女男』と書いてもいいではないか、とか。
自身の性を異質と捉えている人も数多くいる。だが、いま問題なのはマクロではなく、もっとミクロの世界で生きる人間と意識体たちのことだ。
愛凜たちは婚礼ありきの思考で動いているが、それが私の意識とは相容れない。私だけではなく、もしかすると愛乃さんもそんな考えを持っているかもしれない。
まあ私はお人好しで、状況に応じて臨機応変に対応できるから、あるいは先方が前のめりなら、それに合わせていけることだろう。私だって相手の想いが重ければ、考え方が変わっていくかもしれない。全く受け入れられなかったものが、ある日突然好きになる豹変を幾度も経験している。納豆が好物になったとか、アニメなどいい齢こいたオッサンが視るべきものじゃないと固くなに拒んでいたのに、今や毎日平均三~四番組は録画している。
ただ時間がないので鑑賞することができず、録り溜めが増え続ける一方だが。
なので恋愛観も簡単に掌返しがあるかもしれない。
お見合いうんぬんはどうなるかわからないが、せっかく縁ができたのだから、もう少し愛乃さんのことを知りたいとは思う。
きらちゃんから見せてもらった彼女の写真が発端で、興味を掻き立てられたわけではない。ないっ!
お見合いいつかなあ。