第三十二章 第七部 会議は踊る
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇ゆらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇みらい ライフ・アテンダント/ゆらりの姉
〇萌絵未もえみ ライフ・アテンダント/ゆらりの妹
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第三十二章 第七部 会議は踊る
【プロジェクト×】は私に極秘で計画が練られたいたはずだが、今日はその秘密会議に私も参加させられている。なぜかはわからんが、計画が決まったのでその発表かもしれない。
「わたしたち三姉妹で色々とシチュエーションを考え、あーじゃないこれはいかんと議論を重ねてきたけど、一応結論がでたので今日はそれをみなさんにお伝えします」
やはりそうだったか。私にも聞かせるということは、ドッキリ要素はないのだろう。
「どんな結論になったの? 早く教えてよ」
「アルくんは居るのに、わたしのクライアントは呼ばなくていいの?
あ、ちなみにクライアントは愛乃と書いて『よしの』といいます」
「よしのさんにはきらちゃんの判断て伝えるなら言っていいよ。
それでは【プロジェクト×】の最終決定案を発表します。お見合いと言うことで」
「は?」
「お見合い?」
「お見合いってのはあれ? 結婚適齢期の男女が向かい合わせに座って、それぞれの両隣に親御さんが座り、向かい合わせの頂点の席、床の間を背中にした位置に立会人だか紹介者だかが鎮座して司会進行する古式ゆかしい儀式のこと」
「そう、それです。ただし親御さんは同席しないし仲介人もいません。同席するのはそれぞれのライフ・アテンダント、つまりアルちゃんには愛凜、よしのちゃんにはきらちゃんが親代わり。
タイミングを見計らって『じゃああとは若いふたりにまかせて、邪魔者は席をはずしますか』って言いながら立ち上がって部屋から出ます」
受け狙いで言っているのかと思ったが、ゆらちゃんは至って真剣な表情だ。ボケをかまそうと思ったがとどまった。
「それだとお見合い当日まで、アルトもよしのちゃんもお互い顔を合わせないんだよね。でお見合いの席で初対面。『初めまして。藤咲或人と申します。よろしくお願いします』『よしのと申します。ふつかものですがよろしくお願いいたします』て言いあうんだ」
「ふつつかものだよ愛凜。【不束者】って書くの。
なんかひねりがない企画ね」
「そう。ひねりなし、仕掛もなし。シンプルです。これ以上のシチュエーションはない。
だってふたりともライフ・アテンダントの存在を知っていて理解もしている。こんな理想的なカップルは世界人口の八十億人中でもこのふたりだけ。
そしてギョーカイ初の意識体仲介お見合いだよ!」
「あーね」
「……これだけ熱いプレゼンしてるのに『あーね』だけ?」
「そうねえ」
「ちょっとお もうちょっと反応してよ。三日三晩寝ずに考えたんだから」
「ああ、ありがとうありがとう。昼寝したんでしょ」
「昼寝はした。夕方七時まで寝た」
「午後七時は夕方って言うのかな。
それはそれとして、よしのちゃんは恋愛したい子なの? 結婚願望とかどんな感じ?」
「あの子はね、わからないんだ。ひとりで居るのが当りまえで暮らしてきたから、今さら誰かと生活を共にすることでストレスにならないか。
そりゃわたしとはうまくいってるけど、わたしは特殊な存在だから生身の人間とはちょっと感覚が違う。
ほんとうにその計画を進めるんなら、改めてあの子にあたってみるけど、答えによっては計画自体が水泡に帰すかも」
「それならそうなったで仕方ないよ。あくまで本人たちの意志が優先だから」
「あのお、その本人のひとりがここにおるんやけど」
「アルトは大歓迎でしょ。彼女ができるのよ。うまく行けばケッコンして毎晩毎晩……」
「オレはサカリのついた犬か!」
「なに変な想像してるのよ。ゆきがいるのに。毎晩毎晩オタク話に華が咲くって言いたかったの!」
「オレはオタクじゃない! ジャズは好きだがジャズ・オタクとは言わん。ジャズ・マニアだ! もしくはジャズおやじ」
「よしのちゃんもかなり変わった趣味をもってるかもよ。ねえきらちゃん」
「あの子は分類で言うとオタク系ね。コスプレとか好きそう。衣装を持っているかどうかは知らないけど」
「ほら、コスプレ好きだってよ。どうするアルト。会ってみるだけ会ってみたら? 系統的には同類の匂いがするけどなあ ふたりとも」
「どんな匂いだ。どっちにしろ先方にその気がなければ計画は無しだろ。まずその子の、よしのさんの意志を確認するべきだ」
「じゃあ向こうがOKならアルくんもOKでいいのね。今の言い方じゃ」
「いや、いやいや OKしてはいない。まずはあちらの気持ちを「良かった! じゃあとりあえずこっちは了解を得られたから、あとはわたしに任せて!」
「きらちゃん、頑張ってね。多少盛ってもいいから、アルトのこと」
「そうよきらちゃん、アルちゃんは設定に合わせてくれるお人好しなのを忘れないでね」
「ちょちょちょちょっとあーたたち、オレは「わたしもアルトの性格はイヤというほど知ってるから、そこはてんこ盛ってくれてもいいわよ。こう見えてアルトは器用でお人好しだから、言った通りに演じてくれる。お人好しだから」
「オレはお人好しじゃないぞ! むしろ究極のKYだからしっちゃかめっちゃかにしちゃる」
「じゃあこれから帰って、少しずつアルくんのいいとこを吹き込んでくる。
三日ちょうだい。それで最終判断するから」
「わかったわ。三日以上かけてもいいわよ。アルトはわたしたちが動かなければ一生ひとりなんだから」
「そうよ。きらちゃん焦らんでいいけん、ゆっくり篭絡して。で盛ったところは事前に報告してくれればアルちゃんも準備ができる」
「うん、わかった。じゃあとりあえずの目標は三日と言うことで、あとは状況次第」
「了解了解。それで行こう」
「行こう。ゆきちゃんもそれでいいと思うよね」
「それでいいと思います。よかったですね、大先生」
「よかない! そもそもオレはそのよしのって子の写真さえ見たことないぞ」
「これよ。美人とは言えないけどかわいい系でしょ。わたしの見るところ、アルくんのお好みだと思うけどな。ちょこっとロリ系だし」
「な、なんば言よっとですか! オレはロリコンぢゃない!」
「はい。いま転送したから、ふとんに入ってゆっくり見てストーリー展開してみて。
じゃあね、おやすみ」