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ライフ・アテンダント 人生の付添人  作者: アルシオーネM45
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第三章 第三部 実体化の実態

〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター

愛凜(あいりん) ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖

第三章 第三部 実体化の実態


 「おいしかったねー 天ぷら」

 「旨かった。ごちそうさまでした。結構なお代だったんじゃないの?」

 「ヤボなこと言わないの。そうそう、GODAIVA食べよう」

 愛凜が四越のデパ地下で買った、バレンタインなら本命贈りになりそうな、豪華チョコセットの包装を惜しげもなく破き開いて、高級感溢れる外箱に入ったチョコを取り出した。

 上蓋を開け、私の好みのホワイトチョコを取り出して

 「あーん」

 と言いながら私の口に押し込んだ。

 何とも言えない甘味とバニラ味ととろみと微かな苦味が、脳中枢の味覚快感領域を刺激して恵比須顔になっているはずだ。

 愛凜は好みのビター系をほおばって何か言っている。

 感嘆の言葉を発しているらしく「*#%で!&≒×☆●らよね」と聞き取れた。意味はわからない。


 帰りの道中は再開発後の天陣がどうなっているか、いろいろ意見を出し合って議論した。双方とも意見が一致をみたのは西日本一規模の本屋さんができるといいね、だった。

 私も愛凜も本好きで、彼女はこれまでは図書館や本屋の立ち読みで読書を楽しんでいたが、これからは私名義で通販を利用して、新刊や手に入りにくい古本を自由に注文することができる。

 私が読まない分野の書籍も本棚に並ぶので、新しい知識が身に付くかもしれない。

 私のコレクションしたものは、愛凜がすでに一度は目を通しているだろう。興味を持ったかどうかはわからないが。


 信号待ちをしている時、ふと愛凜の胸元を見るとペンダントが見えた。

 楕円形の、これといって特に特徴のない形のものだ。形は普通だが自ら水色の光りを放っているように明るい。

 「そのペンダント、綺麗だね」

 「あ、これ? きれいでしょ」

 「今日パンコで買ったの?」

 「これは前から持ってたよ。今日買ったものはバッグの中。ゆらちゃんときらちゃんにもおソロのペンダントをおみやげに買ったの。

 アルトの分はないけど、別に仲間外れにしてるわけじゃないからね」

 「いいよオレは。四人でお揃いなんてちょっとキモがられる。

 でさ、そのいま着けているペンダント、なにか謂れがあるもの? たとえば生き別れた兄上の形見とか」

 「わたしはアルトと同じ一人っ子だから生き別れの兄はいませ~ん。

 さすが小説家のタマゴね。売れてないけど想像力は逞しい。

 「売れてないは余計だ。いつか売れてやるから待ってなさい」

 「はいはい。わたしは何年何十年何千年何万年、ずっと待ってます」

 「……いまにみていやがれ」

 「このペンダントを着けてる理由、知りたい?」

 「知りたい」

 「じゃあ教えてあげよっかなー」

 愛凜が焦らしているなと思ってちらっと表情を窺うと、焦らすと言うより迷っているようだ。

 「言いにくかったら別にいいよ、言わなくても。どうせ何千年も付き合うんだから、いつか知る機会も来るだろうし」

 「あのね、このペンダントはライフ・アテンダントの証しなの。一般の意識体は持ってないわ」

 「へーそうなんだ。じゃあ身分証明みたいなものか」

 「まあそれもあるけど、このペンダントがあるおかげでハイグレードモードが使えるのよ」

 「え⁉ そうなの? それがないと実体化できないんだ」

 「いや、通常モードの実体化ならアテンダントじゃなくても可能なんだけど、人間と同一化するとなると、通常モードで集められる程度のニュートリノでは無理よ。

 ほら、実体化した時のわたしの体重は三グラムくらいって言ったでしょ。外見だけ人間と同じになる程度なら通常モードの静電気で充分だけど、ハイグレードモードだとそれじゃあ足りないわ。

 そこでこのペンダントに仕込まれているニュートリノ集積装置を起動すると、実物の人体を形成できるほど大量のニュートリノが寄り集まってきて、今みたいな姿になれるの」

 「ふーん、そうなんだ。でもなぜアテンダントだけそれが、そのペンダントが必要なの?」

 「わたしたちの仕事のためよ。クライアントになにかあった場合、たまたま家族や親族が居なくて、わたしたちが病院の先生やその他の人と対応しなければならない事態になった時、ふわふわの通常モードじゃまずいし」

 「そうなんだ。いろいろと大変なんだね、ライフ・アテンダントさんは」

 「そんなにしょっちゅうそんな場面に出くわすことはないけどね。

 むしろ今日みたいにデートしたり買い物したり、現生の世界を楽しむ機会の方が圧倒的に多いわよ」

 そう言って愛凜が運転中の私のほっぺたに軽くキスをした。

 「ち、ちょっとまったあ! 血縁関係があるから男女関係はだめだって言ったよね。よねっ!」

 「ほっぺにキスくらいなによ。アルトはそんなとこ、本当に潔癖ね。そこがかわいい」

 そう言って笑っている。なんか手玉にとられている感があって釈然としないが、まあ気分は悪くない。

 気がつくと、もうあと五分足らずで家に到着だ。それを伝えようとして愛凜を見ると、すでに姿を消していた。

 「うしろの荷物、忘れずに持って出てね」

 「はいはい」

 透明になるとどうも勝手が違って対応しづらい。

 嘆くより慣れろだな、と愛凜が昼言ったことを思い出した。

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