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ライフ・アテンダント 人生の付添人  作者: アルシオーネM45
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第三十二章 第二部 上野紀

〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人

〇きらのクライアント

第三十二章 第二部 上野紀


 クライアントはきらちゃんと相対の位置に座っている。視線をしっかときらちゃんに向けて。

 「見えてるのかなあ…… 判断しづらい」。きらちゃんは迷っている。姿を消したまましばらく対話するか、実体化してファースト・コンタクトを試みるか。

 とりあえず立ち上がり、彼女の周りを何度か周回したり、自分の指先を彼女の瞳の一センチ手前まで近づけてみたりしたが、彼女は微動だにしない。

 どうやらきらちゃん自体は見えていないようだ。恐らく声の聞こえる方にその存在がいると思って視線を向けているのだろう。

 改めて彼女の視線の先に移動して質問してみた。

 「ねえ、あなたはいつからわたしの存在に気づいていたの?」

 「はっきり記憶はしていないけど、多分小学生の頃からなんとなく感じていた」

 「それは何かいるというような雰囲気として? それとも物理的に?」

 「どちらも。夜中で真っ暗なのに白い影が見えたとか、冷蔵庫を開け閉めする音がしたので見に行くと誰もいなかった。でも牛乳の量が減っていた」

 きらちゃんは意外とズボラなところがある、と愛凜から聞いたことがある。

 相手が子どもと思って気を抜いていたのかもしれない。

 「で、あなたはそんな現象に遭遇してどう思ってたの?」

 「たぶん霊がいるんだろうなと感じていた。子どもの頃ってそういう存在に、怖さと憧れの混ざった意識があるでしょう。それがわたしにもあった」

 「そういったものが存在していると、今も信じている?」

 「信じるも何も、いまこうやってその存在と会話しているじゃない。あなたが霊じゃなかったらいったい何者?」

 「いま生きている人たちの概念で言えば、わたしはいわゆる『幽霊』ね。

 昔はあなたと同じように生きた人間として生活していたけど、生物学的に死亡した後は意識だけ残って、あなたたちと同じ時空に存在し続けているの」

 「じゃあわたしに見える形で姿を見せることはできないんでしょ?」

 「できるわよ。説明すると長くなるからそれはまたいずれ話すけど、もし姿がある相手と話す方がいいなら、実体化してもいいわよ」

 「……どんな姿で出てくるの? ゾンビみたいな?」

 「いや、いやいやそんなんじゃない。あなたたちと同じ、普通の人間の姿」

 彼女は黙り込んでしまった。死んだ人が目の前に現れるのだ。やはり恐怖感が先に立つ。

 しばらく考えていたが、意を決して

 「じゃあ姿を見せてください」

 きらちゃんは困った。いざ実体化するとなるとどんなコーディネートを選択すればいいのかわからない。なにしろ相手にとっては初対面だ。最初の印象が相手に与える影響は大きい。

 いろいろ迷ったあげく、二十五歳くらいの女子が地元の大規模ショッピングモールに出かける時のようなカジュアル系にした。すなわち、秋色系統のセーター、スカート、髪色とメイクである。手作り和食弁当の色合いを想像してもらえば判り易いだろう。

 秒変では衝撃度が高いだろうから、ゆっくりじわじわと実体化していった。

 しかしそれはそれで不気味だったらしく、彼女の表情に驚愕の色が現れていくのがきらちゃんにもわかった。

 きらちゃんの頭のてっぺんから正座した膝頭まで、舐めるように視線を移していくクライアント。

 しばらく対峙したまま時間が過ぎたが、想像していたようなホラー系ではなかったので、少し安心したのだろう。彼女の方からしゃべりかけてきた。

 「あの、初めまして。わたしは上野愛乃こうずけよしのです。知ってると思うけど」

 「初めまして。わたしは通称『きら』。本当の名前は『上野紀』と書いて『こうずけきの』。あなたと同じ苗字」

 「え⁉ それって偶然?」

 「偶然じゃない。『うえの』さんは沢山いるけど『こうずけ』はそうはいない。あなたからすると随分むかしの親戚です」

 「じゃあわたしのご先祖ってこと?」

 「そう。でも肉体と分離してから齢はとってない。実際に生きた年齢の範囲内で姿を変えることができるの。

 わたしは大体いつも二十五歳くらいで過ごしている」

 「じゃあわたしにとりついた浮遊霊や、このアバートの部屋の地縛霊じゃないのね」

 「違うちがう! わたしはあなたのライフ…… あなたを見守る役割の存在」

 「ちょっと、もう少し詳しく、わかりやすく説明してください」


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