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ライフ・アテンダント 人生の付添人  作者: アルシオーネM45
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第三十二章 第一部 福岡県民は急に振られても不自然な方言しか出ません

〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター

愛凜(あいりん) ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖

〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人

〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘

〇きらのクライアント

第三十二章 第一部 福岡県民は急に振られても不自然な方言しか出ません


 「だだいま。あら? 愛凜の楽しい仲間たちは?」

 「もう帰ったわよ。みんなそれぞれ忙しいの」

 「ゆきちゃんおかえり。どうだった? 昼間の大学は」

 「さっき帰ってきました。昼間は若い人たちばかりで、夜学とは違って活気にみなぎっていました。

 もっとも講義は二の次で、サークル活動に燃える学生もたくさんいましたが」

 「まあそれも、将来社会に出たら何か役に立つと思うよ。

 夜学はサークルないの?」

 「昨日見た限りでは、サークル的なことをやっている意識体はいなかったようです。

 それはそうと、何かまた企画してるんですか」

 「企画? なんか計画してたっけ」

 「きらさんやゆらさんが、プロジェクトをどうのこうのって言いながら帰って行きましたよ」

 「愛凜、何か知ってる?」

 「へ? プロジェクト、いや、わたしは知らんです。ゆきの聞き違いじゃなかですか」

 「なんだ、そのしゃべり。福岡出身のアイドルが急に博多弁でしゃべってくださいと振られて言うような、不自然な福岡弁。だいたいそんな話し方する時はなにか企みを隠している時だ。白状せえ」

 「だからなんもなかですち言うとりまっしょうが、しつこかですばい」

 「これは確実に怪しい。まあ愛凜のことだから間を置かずして口を割るだろう。カマをかけたらポロっと」


 翌日とその次の日、きらちゃんは自分のクライアントの日常を探るべく、クライアントが出勤のため家を出てから帰宅するまで、うしろにくっついて観察し続けた。もちろん姿を消して。

 想像通り、会社ではまじめに自分の職務をこなし、昼は持参の弁当を休憩室で食べる。一緒に昼食を摂ったり、休み時間を過ごすのは決まって同じ課の女子ふたりとだ。クライアントも含めてこの三人が会社内の仲間であるらしい。

 たまにこのメンバーで仕事終わりに外食して帰るようだが、それは月に一度か二度程度。通常は定時に上がって買い物をし、午後六時半までには帰宅する。

 部屋には小説や雑誌、DVDなども何点かあるが、ジャンルに一貫性はない。

 ネットを長時間見ることはないし、テレビドラマにもチャンネルを合わせることはない。ニュースやドキュメンタリーは興味があるようだ。

 寝るのはだいたい毎日午前〇時過ぎ。朝七時に起きて八時に家を出る。その繰り返し。

 日々の単純な時間の流れの中で生活していくことが、きらちゃんのクライアントにとっては幸せな生き方なのだろう。

 帰宅して、同じ部屋の中できらちゃんは彼女の二日間の行動を思い起こしながら、愛凜たちにどのように報告するか考えていた。「きっと面白味のないレポートになるだろうな」と考えている時

 「ね、なぜ今日と昨日、わたしについて来てたの?」

 クライアントが言った。きらちゃんはまさか自分へ向けられた質問とは思いもしていない。

 電話でもしているのかと目をやると、スマホを手にしている様子はなく、そのスマホは数メートル離れたタンスの上で充電中だ。ハンズフリーで話しているのでもない。

 「ねえ、そこにいるんでしょ? わたし気づいてるのよ、あなたの存在を」

 きらちゃんは状況が把握できず、ただ茫然と成り行きを見守っている。

 姿が見えているはずはない。身体の一部分が実体化していることもないようだ。

 「やばいなあ。カマかけてるのかな。それとも本当になにか感じ取っているかも」

 どうしたものか考えあぐねていると

 「返事してよ。姿も見せられるなら見せて。わたし、別に怖がらないから」

 このままシカトウを通してもいいが、もしかしたらこの子もアルくんと同じように、意識体を認識できるタイプなのかもしれない。

 迷い続けていてもどうしようもない。ええい、ままよと

 「どうしてわかるの」

 とついに声を出してクライアントに話しかけた。

 「ギャーッッッ‼ やっぱりなにかいる どーしよー」

 クライアントは完全に怯え切っている。

 「怖がらないって言ったじゃん!」

 と、これは声に出さずにきらちゃんは思った。

 「ちょっと、落ち着いてちょーだい。わたしはあなたに危害を加えるような者じゃないから」

 そのきらちゃんの言葉を聞いて、彼女は両の掌で耳を塞いだ。悪霊の声を聞きたくないらしい。

 これは直接頭の中に話しかけるしかないな。

 「あのね、わたしはあなたの守護霊みたいな存在なの。だから、お願いだから冷静になってちょうだい。あなたが落ち着いたら姿も現すから」

 しばらくうずくまって固まっていたクライアントの子は、漸く顔を上げ、掌耳栓を開放し、その場に女の子座りをして、きらちゃんがいると思われる辺りに視線を向けてじっとしている。どうやら守護霊と向き合う覚悟ができたらしい。


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