第三十一章 第二部 情報セキュリティ
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
第三十一章 第二部 情報セキュリティ
「ねえ、最近さあ、迷惑メールが多いよね」
「そうねえ。取引のない銀行から『ログインして情報を確認してください』とか、アマゾネス名で『アカウントが不正利用された可能性があります。パスワードを再設定しないとアカウントは永久ロック』とか。
毎度お馴染みの内容で、創造性にかける文面を臆面もなく何度も送ってくる。対応するのがめんどくさい」
「パソコンならともかく、スマホなんか常時電波の送受信状態だから、セキュリティを考えたら情報の盗み見や侵入は容易いんだろうね。それなりに技術を持ってる人なら」
「だろうね。だからオレは携帯は使わない」
「スマホ、持ってるじゃん」
「あ、これ? これは家のWi―Fiでしかネット接続できない。外に持っていったら単にミュージック・プレイヤーでしかない」
「でもたまに電話してるよね、携帯で」
「あれはプリペイド携帯。必要最小限の電話のやり取りだけでしか使わない。
そもそも電話をかけないしかかってこない」
「だよねー 友だちいないもんねー」
「余計なお世話だ。大体からして長電話は苦手。電話は用件だけ言って聞けばいい派」
「わたしはきらちゃんやゆらちゃんと三時間くらい普通に話すよ。電話は現代の重要なコミュニケーション・ツール」
「なにがツールだ。三時間もダベるなんざ時間の無駄遣い。オレにはほかにすることが山ほどある」
「ダベるって絶滅危惧語だよ。
アルトもさ、ほら、最近焼けぼっくりに火がつきそうじゃん。ちゃんしたと携帯は持っといた方がいいよ」
「焼けぼっくりじゃない、焼けぼっくいです。漢字では【焼け木杭】。
未祐樹はオレの性格、知っているから電話はかけてこない。付き合っていた頃から」
「じゃあどうやって連絡を取りあっていたのよ」
「そりゃパソコンのメールとか固定電話とか。携帯だけがコミュニケーション・ツールじゃない」
「ふーん。湖底電話を使ってるんだ。それってダムの底に設置されてるの?」
「わざと言ってるだろ。ちゃんと四方八方に『私は携帯は使いません。御用の方は固定電話におかけください』と普段から宣言していれば、用がある時はみんなそっちに掛けてくる。固定電話で充分」
「でも不便もあるでしょ。SMSが使えないとアカウント登録とかできないとこ多いし。メリカルも使えないでしょ」
「メリカルは使わん。個人売買はイマイチ信用できん」
「思考が古風だね。二十一世紀なのに二十世紀人間だ」
「いいの、二十世紀で。オレが好きなのは七十年代だから。もちろん一九七〇年代のこと」
「そう。でさ、今日も行くの? スパ銭」
「今日は行かん。一日二日風呂に入らんでも死なんだろう」
「えぇえ~~~ 行こうよスパ銭。楽しいじゃん。一日でも風呂入らんと死ぬ」
「あんた死んどるやん。大体汗もかかんのに風呂入る必要なかろうもん」
「『あんた死んでるやん』は失言です。相転移と言いなさい。それに風呂に入るのは汗をかこうがかくまいがマナーです。死んだ者さえ風呂に行こうといってるのに、アルトはなんて非常識なの」
「なんでアニメに出てきそうな貴族風セリフ言ってるの。とにかく今日は忙しいから行かない!」
「じゃあわたしとゆきときらちゃんとゆら姉妹で行くから送り迎えして」
「オレはあっしーか」
「あっしーも絶滅危惧語。さあほら、用意して。行くよ!
ゆきー 準備できたー?」