第三十一章 第一部 スーパー銭湯とディズニーランドの比較考察
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第三十一章 第一部 スーパー銭湯とディズニーランドの比較考察
「ちょっと出てくるから、いるものがあったら買ってくるよ」
「どこ行くの?」
「スーパー銭湯」
「スーパー銭湯? なんで家のお風呂に入らんの?」
「バーナーが壊れているらしい。戦闘機のアフターバーナー並に噴かれたら、どこまで飛ばされるかわからんから修理してもらう。しばらく家風呂は使えんかも」
「スーパー銭湯わたしも行く。ゆきも行こう」
「スーパーと言ってもそんなにスーパーじゃないよ。ちょっとしたゲームセンターと飲食ができる程度。浴槽はそこそこ広いし露天風呂やサウナ、電気ピリピリ風呂もある」
「おもしろそうやん。行きますいきます。ゆきどうする?」
「せっかくのチャンスだから、社会勉強の一環で同行します」
「じゃあバスタオルと身体洗い用タオルを持っていかんと。あと必要なものがあれば持参が原則。それから入浴料はひとり五百円」
「えー 五百円は高い! 別府の公営温泉の安さとは段ち」
「そりゃそうだ。公営じゃないし、なにせスーパーだから」
「仕方ない。五時間くらい浸かって元を取ろう」
「好きにしなさい。風呂は当然ながら男女で分かれているから、入浴したら別行動」
「ゆき、サウナ入ろうサウナ。それと電気ウナギ風呂」
「電気ウナギ風呂? それヤバいんじゃない。わたしたちはともかく、人間は壊れる」
「ねえアルト。なんで電気ウナギ風呂なんてあるのよ」
「誰が電気ウナギと言った。電気ピリピリ風呂です。人の言うこと、よく聞きなさい」
久しぶりに来たこの銭湯、よくコロナ危機を乗りきったものだ。まあ、この辺りではスパ銭がここだけだから、強者の常連がコロナなど関係なく来場していたのだろう。ここでクラスターが発生したという情報はこれまで聞いていない。
一時間ほどゆっくりと過ごし、風呂上りは古式にのっとってコーヒー牛乳の立ち飲み。
特に飲みたい訳ではないのに、なんでいつも買ってしまうのだろう。
むしろ強炭酸のコーラ系を飲む方がスカッと爽やかだろうに、自然と乳飲料の自販機前に行って【ニシラク】のコーヒー牛乳ボタンを押すのだ。脳に刷り込まれた慣習なのだろう。
浴場から出て休憩スペースに向かう。愛凜たちの姿はない。
暇つぶしのクレーンゲームで千円以上散財して収穫無し。
むかしはゲームセンターと言えばフリッパーピンボールが花形だったが、現代は太鼓叩きや格闘/戦闘系テレビゲームが主流。ブロック崩し、ギャラクシアン、テニスなど、私世代が親しんだゲームはほぼ絶滅しているようだ。
麻雀系は生き永らえているようだが、残念ながら麻雀そのもののルールを知らないので遊べない。
それから飲食エリアで待つこと二時間、やっと愛凜母娘が【女湯】の暖簾の向こうから出てきた。
それから今度は彼女らのゲームタイム。母娘ふたりして次々とUFOキャッチャーの景品をゲットしている。
そのあと太鼓を叩きプリクラを撮りビールを呑み唐揚げを食べ、やっと帰る気になった。
きっかり五時間、入湯料分以上のリラックスと満足感と抱えきれない景品を手にしてスパ銭を後にした。
「ゆきちゃんどうだった? 初めてのスーパー銭湯は」
「おもしろかったです。ディズニーランドよりずっと楽しめた」
「ゆきちゃん、ディズニー行ったことあるの?」
「ないです。でもディズニーには銭湯ないだろうから絶対スパ銭の勝ち!」
「じゃあディズニーランドは行かんでもいいね」
「ディズニーも行きたいです」
「でもスパ銭で大満足なんだろ?」
「はい。ですがスパ銭にはミッキーがいません。ミッキーにはいつか、なんとしても会わねば」
「愛凜は?」
「ミッキーに会いに行くことは女子の本懐。ミッキーがハグしてくれればもう死んでもいい」
「オレは香椎花園とスペースワールドに行きたかった。行くチャンスはいくらでもあったろうに一度も行けてない」
「じゃあいつ行く?」
「いつ行く? どこに?」
「ディズニーランド」
「はぁあ? ディズニー行かんよ。誰が行くち言うた」
「わたしとゆき。多数決で決まった」
「わしゃ知らん! 行ってもせいぜいラクテンチだ」
「甲斐性なし。じゃあジョイ福寄って。チーズハンバーグの洋食セットで我慢する」