第二十九章 第三部 ゆきちゃんとの対話
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十九章 第三部 ゆきちゃんとの対話
「きのう愛凜から聞いたんだけど、ゆきちゃん進路のことで悩んでるんだって?」
「はい。人生経験の未熟なわたしに、ライフ・アテンダントが務まるのかどうか」
「確かに相転移したのは早かったけど、その分意識体として過ごした年月は長いから、いろんな人間たちの生き方を見てきたでしょ。それは知識の財産だと思うよ。アテンダントとして活かされるんじゃない?」
「わたしもそうだと考えてたんですけど、母やおばあちゃんたちのアテ活を見ていると、はたしてわたしにも同じような対応ができるのか疑問に思えてきました」
「実体化した時に、もう少し上の年齢の女子の姿になってみたら? 自然と齢相応の対応ができるようになるかもしれない」
「でも現実味のある姿は実際に生きた年齢プラス五~六歳くらいまでで、それ以上や全く他の人物になろうとすると、どうしても不自然になってしまいます」
「そうなの? オレは見てないんだけど、愛凜がおばあちゃんの姿になってヤンキーをたぶらかしたことがあって、それはリアル感があったのかな」
「お母さんは九十いくつまで生きたから、〇歳から相転移した齢の姿ならリアルに変幻できます。おばあちゃんやきらさんやゆらさんたちも、それぞれ自分の相転移年齢までの姿なら、実体化した時の再現度は高いんです。
でも自分は十歳までだから、頑張っても十五~六歳までが高再現度の限界値。いくら幻影でおとなぶっても、百歳生きた人と会話したら、多分価値観が合わないのでアテンダントの本筋であるクライアントのサポートはむずかしいと思うんです」
「うーん。オレはライフ・アテンダントの本質が理解できてないから的確なアドヴァイスはできない。だから無責任にああしたらこうしたらって言えない。
ライフ・アテンダントとしての将来については、先輩のお母さんやおばあちゃんと、もう少し話し合った方がいいじゃないかな。
その結果、ゆきちゃんの目指す先が物理学になったら、その時はオレもできる限り協力するから。協力っていっても大学までの送り迎えくらいだけど」
「そのこと、お母さんから聞きました。ほんとにいいんですか、わたしのわがままでそんなことをお願いして」
「いいよ。その程度しかオレにはできないから」
「とっても助かります。自分ひとりで糸島まで通うのは不可能だから、そこが進路変更のいちばんのラムネでした」
「ラムネ?」
「ラムネボトルのネックです」
「あぁあぁ ラムネの瓶ね。ビー玉が引っかかって通らない。つまりそこで行き詰まってたってことが言いたかったのかな」
「……わたしのギャグ、わかり辛いですか?」
「いや、まあ、ギャグセンスはお母さんのDNAをまんま受け継いでるね」
「それは褒めコトバとして受け取っていいんでしょうか」
「いいよいいよ。これから更にセンスを磨くといい」
「ありがとうございます。わかってもらえて嬉しいです!」
「じゃあさ、時間はたっぷりあるから、ゆっくり考えて進路を決めるといいよ。
人の意見を聞くのも大事だけど、最優先するべきは自分のやりたい・進みたい道を行くのが最善の選択、とオレは思う」
「アルト、かっこいいやん」
「わ、愛凜いたのか、びっくりしたあ。後ろに立つな。幽霊じゃあるまいし」
「幽霊よ」
「幽霊あつかいしたら怒るくせに、今日は幽霊でいいんかい」
ゆきちゃんもだが、意識体になっても向学心は持続できることがわかって、私もちょっとこの先の世界に希望が持てた。