第二十八章 第一部 再会元カノ
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
〇或人の元カノ
第二十八章 第一部 再会元カノ
今日は久しぶりに各人バラバラの単独行動だ。
私は町内のディスカウント・ショップに生活用品の買い出し。愛凜は合い鍵コピーで出入り自由になったきらちゃんとこへ表敬訪問。ゆきちゃんは自室で自由気まま時間を満喫。
ついでながら、まりんさんは多分キッチンでつまみ食いの真っ最中だろう。つまみ過ぎで在庫切れとなる貯蔵用食料も時々発生している。
買い物が一通り終わり、セルフレジで支払いを済ませて自分の車に戻っていると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、以前お付き合いをしていた女性が立っている。
「おお、久しぶり。元気してた?」
「元気よ。そっちは?」
「見ての通り、年取った」
「お買い物?」
「そう。何年ぶりかね」
「もう五年くらい経ってない? あなたがアイドルに熱を上げだした頃だから」
「そ、そうね。若気のイタリア人だった」
「もう若くなかったでしょ。三十過ぎてた」
「そうでしたか。これは一本とられましたな」
「もう帰るところ?」
「そう。特に寄るところもないし」
「わたしも帰るところだったの。コーヒーでも飲んでいく?」
「いいよ。どこに行く?」
「あなたの家は?」
「オレの家?」
「まずい? もう結婚して奥さんが留守番してるとか」
「いや、結婚はしてないし彼女もおらん。なんでオレんちでコーヒー飲みたいの?」
「だって、あなたのところのインスタント・コーヒー、美味しいから。銘柄が変わってなければ」
「変わってないよ。前のまんま」
「じゃ、それ一杯いただいたら帰ります。ご都合悪い?」
「いや、そんなことないけど、散らかってるよ」
「別に気にしないわよ。前からそうだったし」
「そうね。じゃあどうする? オレの車に乗ってくるか、後ろから付いて来るか」
「後ろから付いていきます。長居はしないから」
「じゃあ安全運転で。
あ、ちょっと待ってて。茶菓子がないから何か買ってくる。すぐ戻ってくるから」
「いいわよ、気を使わなくても」
「食べたいのがあるから、それを買ってくる。すぐだから」
「あ、もしもし、ゆきちゃん? アルトです。
あのね、お願いがあるんだけど、いい?」
「いいですよ。今ちょうど昼寝から起きたとこです。何ですか?」
「いま買い物に来てるんだけど、帰りがけに駐車場で元カノ的女性に偶然会っちゃって、今からコーヒー飲みに家に連れて行くことになってね。
で、多分部屋に上がることになると思うんだけど、愛凜の本棚とか見られるとまずいし、昨日のコスプレ衣装が壁にかかってると誤解されるんで、そういった類のものを目の届かない場所に隠してほしいんだよね。やってもらえる?」
「いいですよ。お安い御用です。どれくらいで帰ってきますか」
「そうねえ。たぶん十五分くらい。なるべくゆっくり運転する」
「わかりました。じゃあ今から大急ぎで片付けます。終わったらRAINで知らせます」
「ありがとう。ゆきちゃんがいちばん頼りになるよ。じゃあ余計な仕事おしつけて悪いけど、宜しくお願いしますね」
「わかりました。任せてください!」
「ありがとう。じゃあ後で」
「買ってきたよ。じゃあ行こう。道順は覚えてる?」
「覚えてるわよ。なんなら先回りして早着してもいいし」
「あはははははは。狭い日本、そんなに急いで何処へ行く。ゆっくり走ろうOh Ohローレル♪」
「どうしたの? なんか変」
「変なのはむかしから。冴えないギャグも変わりません」
「まあいいわ。確かに変わってない。行こう」
たのむぞゆきちゃん、表面上の痕跡だけでいいからなんとか消しといてくれ!