第二十七章 第三部 いい感じ
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十七章 第三部 いい感じ
「コメントいっぱいきてるぞ。読んだ?」
「読んでない」
「ゆきちゃんは?」
「ちょっと読んだけど、みんな同じような内容なので何通か読んでやめました」
「おもしろいの、来てるよ。『愛凜ちゃん、ぼくと結婚してください』『ゆきちゃんは許嫁がいますか? いなければうちの息子とお見合いしてください。息子は三十七歳の未婚者で、金物屋のあととりです』『きらちゃんの男装姿、素敵です。わたしのご主人さまになってください』『わたしも兄の抱き枕カバー、作って持ってます』。
芸能関係っぽいところからも来てるよ。『うちの事務所でユニットを組みませんか? 80~90年代の洋楽ポップスを二十一世紀アレンジしたもので売り出します』『山形の温泉ホテルで専属タレントを探しています。三人そろってお越しくださいませんか。グループ名は【玉こんにゃくっ娘】を予定してます』。いいネーミングだねえ。山形行く?」
「山形はちょっと遠いわね。月一で小遣い稼ぎに行くくらいならいいけど」
「当然マネージャーはオレだから、オレも同行する。移動は新幹線を基本に陸上移動」
「えぇえ 陸上移動だと時間かかるでしょ」
「船旅でもいいよ」
「そうじゃなくて、距離と時間を考えたら飛行機でしょ、当然」
「いいえ、陸上移動です!」
「なんで? 交通費節約? 往復の交通費はむこう持ちでしょ。て言うかそれが大前提」
「確かに交通費は主催者持ちで交渉するけど、陸上移動じゃないと遠方の仕事は受けない」
「なんでよ。意味わからん」
「あーた、オレのライフ・アテンダントでしょーが。オレのことはなんでも知っているはずだが、思い当たらんかね」
「……ああ、高所恐怖症か! そんなんわたしたちの知ったこっちゃない。どうしても新幹線で来たいならアルトだけ後から追ってくればいいじゃん。もしくは先乗りしとく」
「そんな勝手は許しません!」
「それはこっちのセリフです! なんでアルトの趣味に付き合わされなきゃいけないのよ。わたしたち、そんなにヒマじゃないんです。早く着いたら観光したり美味しいもの食べたりで忙しいの!」
「ひとつ大事な事わすれてないか? 飛行機乗るには金属探知機を通らなきゃならんのぞ。あのペンダントは反応せんのか?」
「そりゃあ……わからん」
「ありゃどう見ても金属製だから、ペンダント着けたままだと通れないよ、探知機。
そこで外す外さないの騒ぎになったら探知機(乱痴気)騒ぎだ」
「仕方ない。その代わりグリーン車以外はだめだからね」
「なに大物タレントみたいなこといってんだ。いま超売れっ子の女優だって、アイドル時代は十人乗りの車にぎゅうぎゅ詰めで東京往復してたんだぞ。新幹線に乗れるだけでもありがたく思え!
それによく考えたら、単にメッセージできた軽い気持ちのお誘いだろ。なんでそんなことで議論白熱せにゃならんのよ」
「そーよそーよ。しっかりしてよねジャーマネさん」
「ね、面白いでしょ、ゆきちゃん。このコンビの妄想発展漫才」
「はい、似た者同士でやっぱり血は争えないですね」
「そう言うゆきだって同じ血が流れてるんだからね」
「あ、そうだった。ヤバッ!」
「じゃあゆきちゃんの衣装、次の配信までに持ってきてあげるからね。それとも家まで見に来る?」
「あれ? きらちゃんとこ、クライアントが帰って来るタイミングじゃないと入れないんじゃないの?」
「それがさ、めずらしくクライアントがカギをしまい忘れていたから、急いで合鍵屋さんに持ってってスペアキー作ってもらった。だから今はオールタイム出入り自由」
「そうなんだ。良かったね。これで好きな時に外出帰宅ができるじゃん」
「そうなんよ。やっとわたしも自由にお出掛けができるようになったよ」
「じゃあいつでもアルトをデートに誘ってあげてね。『待つ身はつらいのよ』ってアルト、いつも言ってるから」
「言ってないいってない!」
「あら、じゃあアルくん、わたしのデートのお誘い、待ってないんだ」
「待ってるまってる」
「ね、面白いでしょ、ゆき。このふたりの女と男の会話」
「うん。対お母さんとはまた違う展開が聞けて飽きない」
「そう言うゆきちゃんだって大先生を妄信している姿、純情でかわいい」
ゆきちゃんは目いっぱい照れて、なぜか思いっきりオレの背中を叩いた。
「痛たっ‼ なんでオレをひっぱたくの」
「照れ隠しです。きらちゃんに文句言ってください」
ひっぱたかれたのは痛いが、全体的にいい感じの部屋内の雰囲気に満足感を覚える私であった。