第二十七章 第一部 拡大企画会議
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十七章 第一部 拡大企画会議
「おつかれー すごいね、今日三十五万行った」
「わたしたち、チューバ奏者になれるかも」
「チューバ奏者? ゆきちゃんブラバン入ってるの?」
「ほら、あれですよ、動画サイトの有名なやつ」
「それ、ユーチューンでしょ。で投稿する人はユーチューバ」
「そう、そのユーチューバ奏者になれるかも」
「だめよ。ただダベッてるだけじゃ誰も見てくれない。しっかりした企画を考えないと。ねえ愛凜」
「そうねえ。今はわたしたちの器量の良さで盛ってるけど、ユーチューンとなると敷居が高くなる。
シスコンADさんにアイデア出してもらわないと」
「愛凜、ちょっとそこに座りなさい」
「座ってるわよ。もう二時間くらい」
「配信中にオレを貶めるようなプロパガンダは展開しないでくれたまえ」
「なにが『くれたまえ』よ。この辺、都市ガスじゃないの?」
「田舎だから都市ガスじゃない。あったとすれば田舎ガス…… いや、そんなこっちゃない。プロパガンダだプロパガンダっ! プロパンガスと違う」
「いいじゃん。あれくらい大袈裟に言わないと大衆は喜ばない」
「オレが妹の全身写真をプリントした抱き枕カバーをかぶせた枕抱いて寝てるとみんな思ってる」
「大丈夫よアルくん。大衆は忘れるのが早いから、次の配信では話題にもならない。しかもむさい男ADのことなんて、はっきり言えばどうでもいいんです」
「きらちゃん、安心させてくれてるんだろうけど、言ってることが辛辣」
「ねえ、今度いつ配信する? 明日の夜?」
「いや、ちょっと間を開けた方がいいかも。視聴者の期待値が上がってなに言っても受けること必定」
「おかあさん、アルトさんの玉手箱ってどこにあるの?」
「それはわたしの本棚の裏「ゆきちゃんゆきちゃん、そんなことより今日の衣装、すごくかわいかったよ! ゆきちゃんはこれからもロリータ系でいこう」
「ほんとうですか❤ でもかわいい系の衣装はそんなに持ってないし」
「わたしが持ってるよ。コスプレ用のとか。男装だけじゃなく魔女っ娘やアクション・ヒロインのも何着かある。
あとゆらちゃんがそんなの好きだったよ。今も持ってるかわからないけど」
「ねえ、わたしたち三人だけじゃいずれマンネリ化するから、ゆらちゃん姉妹も巻き込もうよ。日替わり組み合わせでやると、会話の方向性も一定にならないから視聴者もたいくつしないと思う」
「だねー。ゆらちゃんたちも入れちゃおう。ちょっとRAINしてみる」
「アルトは出演しないの? たまにお茶濁しで出ればいいのに」
「なんだお茶濁しちゃ。オレは出ません! 裏方に徹する」
「女装してバレるかどうか試してみるとか面白そうなのに」
「すぐバレる。顔の骨格が女と男じゃ全然違うから、オト娘ってわかったらあっと言う間に視聴者減るぞ」
「それはいかんな。じゃあ却下で」
「自分から提案しといて却下かい」
「ねえ、ゆらちゃんたち、乗り気だよ。今から企画会議に来るって」
「今から⁉ じゃあまたお泊りになるじゃん。買い置き菓子ないぞ。ゆきちゃん、コンビニ付き合ってくれる?」
「いいですよ。じゃあきらちゃんとおかあさん、欲しいものリスト書いてください」