第二十六章 第七部 ゆるゆるトークがいいのかな
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十六章 第七部 ゆるゆるトークがいいのかな
「そういえば写真集もたくさん持ってるよね。アイドルや女優さんのじゃなくて」
「えー どんな写真集か見たいなー」
「おねえちゃん、カンペ出てるよ。『いいかげんにしろ、配信打ち切るぞ』だって」
「報道の自由を奪うの⁉ わたしには真実を国民のみなさんに伝える義務があるっ!」
「愛凜も今日はそれくらいにした方がいいよ。じゃないと愛凜の本棚の写真をスーパーインポーズされるかも」
「うっ! きらちゃん、それは言わないで。ADに知恵つけちゃダメ!」
「『きらちゃんありがとう。その件は今後検討します』って。やばいよ、報復くるよ」
「ちきしょ…… 残念ですわ。みなさんもきっと知りたいはず、ADの玉手箱の中」
「おねえちゃん、玉手箱ってなに? ADさんの宝物が入ってるの?」
「そう。命より大事な写真集が入ってるの。今度こっそり見せたげる」
「『十八禁書籍だから見たら補導される』らしいよ。もうその件はいいからさ、次の話題に移ろう」
「じゃあ次はね、好きな芸能人。きらちゃんから」
「またわたしからか。女性はジル・アイアランド、男性はチャールズ・ブロンソン」
「それ、アメリカ映画界のおしどり夫婦じゃない」
「そうよ。ブロンソンのジルへの溺愛が映画に反映されている作品多数。プライベートとビジネスの境界を超越しているのが凄い。ってか、まわりは迷惑だったろうけど」
「じゃあゆきちゃん」
「えーとね、えーと女優は原節子、男性は米内光政」
「渋いとこ来るね。米内は芸能人じゃないし。この配信見てるみんなはどちらも知らない人、多いよきっと」
「じゃあ愛凜は? マニアックな人、言うよ」
「そんなことない。女性はオードリー・ヘプバーン、男性はジャン=ルイ・トランティニャン」
「オードリー、キレカワだよね。トランティニャンは……知らん」
「トランティニャンは【男と女】に出演していた俳優さん。ほかに【暗殺の森】やアラン・ドロンの【フリック・ストーリー】にも出てた。独特の世界観を表現できる人」
「やっぱマニアックだ。でさ、わたしたちの好きな有名人ってみんな古くない?」
「いいものに古いも新しいもないです。ねえ大先生」
「大先生ってなんのこと?」
「ああ、ゆきはね、AD兄さんのことを大先生って呼んでるの。人生の師って思ってるみたいよ」
「へえー 人からそんな風に慕われるって素敵だね。AD兄さん見なおした」
見なおしたって、今までどんな風にオレのこと思ってたんだ、きらちゃんは。
「ねえ、ゆきちゃんはどうして米内光政が好きなの」
「近・現代史の本を読んでて、米内のことが書かれてあったんです。その伝記的人物像を読んで興味を持ったんで、いろいろと調べたら好きになってました」
「写真でしか見たことないけど、わりと色男なんだよね」
「そうなんです。そんなに派手に遊興してたわけじゃないみたいだけど、モテてたみたいですよ」
「わたしも同じ時代に生きて知り合いだったら好きになったかも」
「ゆきときらちゃん、趣味が合うね」
「そうかもね。愛凜は個性的。良くも悪くも」
「『良くも』はいいけど『悪くも』は聴き捨てならんぞ」
「『良くも』はよく気がつく思いやり溢れる女性。『悪くも』は時々突っ走る傾向がある」
「返す言葉もございませぬな。だーはっはっはー」
「おねえさんたち、面白いですね。漫才コンビ組んだらいいかも」
「だめよきっと。どっちもボケまくりで話が先に進まない。もしくは思い付いたら前後関係なく話し出すので会話が成立しない」
「それはそれで新しいスタイルを構築できると思います。試しに一度やってみたら? この配信で」
「そうねえ、ゆきちゃんがそこまで言うならやってみようか、相方さん」
「あ、相方ってあたしのこと? いいわよ。でもネタ考えないと」
「考えなくていい。どうせ思い付きだからアドリブでやろう。ジャズみたいにテーマだけ設定して」
「いいよ。いつやる?」
「次の配信でもいつでもいい。気分が乗った時」
「じゃあそれで。あ、視聴者のみなさんもそれでいいのかな。
そう言えば今日は何人見てくれてるの」
「えーっと、三四九、二三三人。もうすぐ三十五万です。やっぱり三人でコスプレてると集まってくれますね。見てくれてるみなさん、来てくれてありがとうございます。ゆきです」
「ありがとう。楽しいですか。愛凜です」
「わたしたち、ほんとにシロートだからこんなしゃべりでいいのかなあ。きらです」
「わ、『88888』ラッシュだ。みんな肯定的に受け取ってくれてるみたい。じゃあ次回以降もこのスタイルを踏襲しますね」