第二十六章 第六部 暴露ネタで
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十六章 第六部 暴露ネタで
「凄いっ! 『88888』ラッシュだ! 止まらないとまらない」
「みなさん、わかりました! きらちゃんレギュラー決定です! もう88大丈夫です」
冗談のつもりで始めた配信が、わずか三回、実質二回目でこの動員力と発信力だ。
恐ろしい気もするがここは波に乗っていくべきだろうなあ。こりゃ本格的に企画とか考えんといかん。ヤバいね。
「で、今日は何するの? 企画考えてる?」
「考えてない。コスプレしてただおしゃべりするだけ。きらちゃん、最近面白かった出来事ある?」
「いきなりわたしなんだ。
最近のおもしろいこと? 紙コップで【松茸の雰囲気お吸い物】を啜ってたら、コップが熱くて手を離して床にブチこぼした。Tシャツとジーンズにもかかって松茸オーデコロンつけてるみたいでずっといい香りしてたよ」
「紙コップに熱湯はヤバいよね。洗濯して香りはとれた?」
「とれたよ。シミにもなってない」
「良かったね。じゃあ次、ゆき」
「な…… わたし? メモに『次、振る』って書いて渡しといてよ。だいたいおかあ……おねえちゃんが回しなの? 誰が決めたのよ」
「必然的にわたししかいないっしょ。ぢゃあゆきちゃん、腸がねじ切れるくらいの面白話しをして」
「なんでハードル上げるのよ! もー プロじゃないんだからそんな急に思いつかないよ。
あ、思い出した。こないだわたしの好きな曲を聴き始めたら、なぜかすごく甲高い声になってたの。テンポもいつもよりぜんぜん早いし。なんで?って思ってプレーヤーを見たら78回転になってた。LPだから33 1/3回転にしなきゃいけないのに。
これってあるあるよね」
「ゆきちゃん、それあるあるだけど、78回転がかけられるってことはずいぶん昔のプレーヤーだよね。オーディオ・マニアなの?」
「あ、わわたしのお父さんがね、マニアなの。それで時々古いレコード聴いてる。ズートルビやピンクキラーズや南京豆ツインズとか。ね、おねえちゃん」
「そうなんだ。お父さん、そんなの持ってるんだ」
「持ってるよ。(ちょっと、フォローしてよ!)」
「そう言えばなんだかラッパみたいなのがついた、手回しプレーヤーがあるね」
「質問きてるよ。『ADさんって愛凜ちゃんとゆきちゃんのお父さん?』だって」
「違います。ADはわたしたちのお兄さん。ちょっと齢の離れたお兄さん。妹たちが可愛くてしょうがないの」
「そうそう。可愛すぎてちょっとシスコンの気があるのよね。ね、AD兄さん」
なに言ってんだこいつら。こっちに話題振るな! 声出せねえのに。カンペカンペ。
「カンペで反論してるよ。『オレはシスコンじゃない! 愛凜いいかげんなこと言うな』って書いてる。
えぇえ~ シスコンじゃないんだあ。がっかり」
「そうよねー てっきりわたしたちを溺愛しちゃって結婚しないんだと思ってました」
「あかりちゃんのお姉ちゃんみたいに、妹の抱き枕カバー作ってひとり寝の寂しさを紛らわせているのかと想像してた。わかる人にはわかるアニメエピソード」
「ちょっと、ふたりともADさんいじり過ぎよ。ほら、つぎは愛凜の面白話しの番」
きらちゃんありがとう。あの母娘にはあとでお説教だ。
「わたしの番かあ。わたしそんなに観察眼するどくないしなー。日常生活でそんなに特筆すべき出来事なんて…… あ、あったあった。わたしこないだナンパされそうになったの。お兄ちゃんとファミレス行っててね、お兄ちゃんがトイレに立った間に地元のヤンキーからナンパされかけたの。
そしたらトイレから戻ってきたお兄ちゃんが事態を察して、そのヤンキーを誘拐犯人に仕立て上げようとしたのね。スマホで警察に電話をかける芝居をしたり、店長に証人になってもらおうとかになって大事になりそうにしたの。
そしたらそのヤンキー、ビビッちゃって『用事があるから』とか言ってあわてて店から出て行っちゃった。
出て行く時にレジでわたしたちの食事代を払ってくれて、おつりはわたしに渡してくれだって。実は人のいいヤンキーだったのよ」
「おつりっていくらあったの?」
「実際の食事代金の倍以上あったかな。でもさすがに貰うのは気が引けたから、レジにおいてある募金箱に全額入れてきちゃった」
「シスコンのADさん、なかなかやるじゃない。そんな頼りになるお兄さんがいて心強いね」
「でもシスコンだよ。それに百合コミックばっかり読んでる。そういえば(つづく)