第二十六章 第五部 新レギュラー
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十六章 第五部 新レギュラー
「はい、5,4,3、…、…」
「こんばんはー 昨日は停電で切れてしまいごめんなさい。今夜は仕切り直し配信です。
愛凜です」
「ゆきです! 昨日は部屋も真っ暗になってとっても怖かったです」
「怖かったの? ちょっとワクワクしてたみたいだけど」
「停電した時、この部屋には四人いたからね。ひとりだったら死ぬほど怖かったと思う」
「しばらく復旧しなかったから、何もできないんでキャンドル・パーティーしたんだよね。ADさん以外は未成年だからソフトドリンクで盛り上がって、で、けっきょく台風が通過して行った時はみんな熟睡していたから、暴風の音を聞かずに済んだ」
「みなさんの住んでいるところでは被害は大丈夫だったかな? もう台風来ないといいですね」
「さて、昨日は登場できなかったスペシャル・ゲスト、今日はもうさっそくご紹介します。
わたしたちは女の子女の子した衣装だけど、今から出てくる子は、まるで塚宝の舞台から抜け出してきたような男装の麗人で、名前はきらちゃんです。
じゃあきらちゃん、入って来てください」
きらちゃんが画面左側からフレーム・インしてきた。
「こんばんは、きらです。初めまして、よろしく」
ややいつもよりトーンを落とした声できらちゃんが挨拶した。コメントには「おお」とか「かっこいい!」などの言葉が流れていく。
「きらちゃんです。かっこいいでしょ。わたしと同い年なのにとてもおとなに見える」
「ありがとう。一度は男装コスプレして人前に出てみたかったんだけど、今日はその夢を叶えることができました。みなさんからのコメント、お待ちしてます。質問もどうぞ」
「コメントきてるみたいよ。『かっこいい』が圧倒的だって。『結婚してください』って言う方もいるらしいよ」
「わあ嬉しい。男性から? それとも女性?」
「それは書いてないけどどっちだったら嬉しい?」
「どっちでも。わたしは女性も男性も好きだから」
「そう、きらちゃんは性別を超越してるんだよね。だからどちらのプロポーズも受けられます」
「きらちゃん、普段は女の子の姿なんだけど、それもとってもセンスが良くて、わたしにとっても憧れの存在なんです」
「ADさんのカンペによると、きらちゃんが来て一気に訪問者数が上がったって。今は五千人超えたらしいよ。まだ始まって五分も経ってないのに。きらちゃん効果絶大!」
「わたしじゃないよ。愛凜とゆきちゃんがかわいいからだよ」
「フォロワーさんも増えてるって。みなさん、ありがとうございます!」
「ありがとうございます。
でさ、愛凜はナースに憧れてるの?」
「ナース服は着てみたかった。似合ってる? みなさんどうですか?」
「ゆきちゃんもよくイメージにぴったりだよね。コスプレイベントに行ったら大人気だよ、きっと」
「そうかなあ。なんかぎこちない感じが自分ではしてるんだけど」
「そんなことないよ。その色のコーデもいいよね。ゆきちゃんが選んだの?」
「いえ、ADさんのリクエストです」
「そうなんだ。ADさん、センスいいのね。メイド喫茶通いのプロだったりして」
「そうなんですか、ADさん」
「行ってそうだよね。ひとりで行ってるの?」
「首を横に振ってるよ。じゃあ何人かで行ってるんだ」
「違うちがう、メイド喫茶に行ってないって言ってる」
「えぇえ~ 行きそうだよね。今度一緒に行こうよ」
「あ、いいなー きらちゃんからお誘いだよ。だったら行くでしょ」
「行くいくって。女性も行っていいの?」
「いいみたいよ。男性はご主人さまで女性はお嬢さまって呼んでくれるんだよ」
「でもきらちゃんがその恰好で行くとどう呼ばれるんだろう」
「男装してるからご主人さまじゃない?
でね、ちょっとこのトーンでしゃべるの、きつくなってきたから普通にしゃべっていいですか」
「無理してたんだ。いいよ、いつものきらちゃんトーンで話してください」
「ふ~ やっぱり本物の塚宝の人とは違うから、ずっと男性を演じるのは大変」
「きらちゃんって声のトーンが高い方だから、衣装と声のギャップがまたいいよね」
「ねえねえ、一〇五四七人だって。どんどん上がってるよ、数字」
「きらちゃんもゲストじゃなくてレギュラーになってよ」
「それって正式オファーなの? 事務所通さないと」
「事務所って、どこの事務所に所属してるのよ」
「えーっっっとねえ、どすこいプロダクション」
「もうちょっといい名前、思いつかないの」
「急に振られるとこの程度の返ししかできん」
「じゃあレギュラーの仲間入り、OKってことですね」
「あ、はい。なんかどさくさにまぎれてレギュラーにされちゃった」
「と言うことで、きらちゃんの仲間入りを祝してみなさん、コメントで『88888』お願いします」