第二十六章 第四部 台風接近・通過中
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十六章 第四部 台風接近・通過中
いよいよクラーク・ゲーブルとなったきらちゃんの出番だ。今夜の真打ち登場である。
きらちゃんがフレーム・インしようとしたまさにその瞬間、お部屋真っ暗となる。
「どうしたの? ADさん、どうなってるの」
停電だ。今まさに九州地方に上陸し、縦断してわが街中をどんどん歩いて行こうとしている台風の仕業に違いない。
「オレのせいじゃない、台風の影響だ!」
「パソコン生きてるから配信できてるんじゃない?」
「きらちゃん、だめです。パソコンはバッテリーに切り替わってるけど、モデムは家庭用AC100Vだから落ちてる」
「え~ せっかくキメてきたのにい。がっくり」
「ゆきちゃん、いきなり復活して舞台裏を見られるとカッコ悪いからケーブル抜いといて」
「このグリーンの線ですか。抜きました」
「すぐに復旧するかな。患者さんならともかく、患電さん対応はナースのお仕事じゃない」
「さっき台風情報を見た時は、主に九州南部で十万戸以上が停電って言ってた。
こっちの方に台風が向かってるんならこれから天候が荒れだすんで、もし電柱の倒壊や電線のぶち切れだったら、復旧作業は台風が通り過ぎてからになるんで時間がかかるかも」
「じゃあ今日は配信中止だね。一度回線が切れちゃうと視聴者がなかなか戻ってこないし」
「そうだねー 明日仕切りなおした方が賢明かも。せっかくみんな着替えたのに残念」
「どうせだからコスプレキャンドルパーティーやろうよ。仏壇のローソク持ってきて、揺れるキャンドルの火に囲まれて呑めや食えや歌えの大騒ぎ!」
「愛凜ときらちゃんは吞めるけど、ゆきちゃんはダメでしょう。ソフトドリンク?」
「いえ、別にお酒も呑めますよ。意識体としては二百年以上だし、相転移したのが未成年だったとしても、法律には未成年意識体の飲酒は規制されていないから問題なしです」
「ゆきちゃんお酒呑むんだ!」
「呑むんじゃなくて呑めます。好んでは吞みません。選り好みもしません。赤でも黒でも、ナポレオンでも下町のナポレオンでも、赤玉でもボージョレ―でもなんでもOKです」
わがままを言わない良い子だ。中身をサイダーに入れ替えていても「このドンペリ、さいこー」って言う愛凜ママとは大違いだ。
けっきょくこの夜は台風の暴風爆風音に恐れおののきつつ、それがためかいつもより酒量の消費が増え、午前三時くらいには全員が至寝量に達し、着座位置がそのまま雑魚寝位置となって台風通過の恐怖を体感することなく、昼までぐっすり寝ることができた。
今夜、再集合し改めて配信することにして一度解散。とは言っても衣装を着替えて帰宅したのはきらちゃんだけ、あとの三人はそのままの姿で配信時間まで過ごすことになる。
つまり今日は部屋の中をピンク・ナースとメイドさんがウロウロするわけだ。
いいよね、こーゆー状況❤