第六章 第二部 衣装探し
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十六章 第二部 衣装探し
「ちょっとこれ、ひざ丈短くない?」
「いいんじゃない、どうせ座ってやるんだから」
「だから角度によっちゃ丸見えになるよ」
「だったらこっちのひざ下まであるやつにしたら」
「ああ こっちの方がいいかも。ピンクだし。ピンクナース服の看護師さんって気がなごむよね。でしょ?」
「オレに訊いてるの? ナース姿ならなんでもいい。ただパンツスタイルはいただけないね。
昨今は機能性重視なのかワンピースの病院が少ない!
院長の趣味がモロに出る個人医院が頑張ってるから、なんとか日本のナース服文化は維持できている」
「じゃあこれにしてあげる。ナースキャップも付いてるし白のパンストまで。
ついでだからナースシューズも買っちゃおう。
アルト嬉しいでしょ」
「オレに訊いてるの? 嬉しいにきまってる! 愚問だ」
「次はわたし。ゴスロリって呑気皇帝にあるの?」
「ざっと見たけど、安っぽいぺらぺらのやつしかないみたい。これじゃ安物ってすぐわかる」
「あ、これにする! このメイド服、かーいー❤」
「かわいいねー でもぜんぜん路線が違うじゃない」
「違わない。どっちも女の子らしいし、オトコの子の憧れスタイル上位ランク。
ね、大先生、これでいいでしょ」
「いいんじゃない。ゆきちゃんならなに着ても服の方で似合ってくれるよ」
「うれしー❤ 色違いがあるけどどれがいいですか。白、緑、赤、青、黒」
「うーん 黒ワンピに白エプロンが王道だけど、緑にピンクエプロンもかわいいね」
「じゃあ緑にピンクの組み合わせにします。王道は王道だけにめずらしさに劣るから」
「アルトもコスプレしたら? スパイダーマンとかスーパーマンとか」
「全身タイツ系じゃん。これは股間が……「わかったわかった。ゆきがいるのになんですかっ!」
「そこを見るのが目的なんだろが、女子は」
「そりゃ確かにそれもあるけど、アルトは」
「やめなさい! 大先生を困らせてはいけません。お母さんはおとなになりなさい!」
「ばかね、おとなだから興味があるんじゃない ぐふっ」
「こんにちは。どうだった、三者面談」
「それがさあ、担当の職員が鹿児島県人で、ちっとも日本語がわからなかったの。『~でごわす』とか『~もさんか』とか。でわたしたちも福岡弁で対抗したの。『やおいかん』『にあがって』などを随所に挟んで。
けっきょく会話が成り立たなかったけど、まあ理解できた単語だけ組み合わせると、ゆきは良い子だってことが言いたかったみたい」
「そう。それは良かった。ねえゆきちゃん」
「はい!」
いいのかそれで、と思ったが口には出さなかった。まあゆきちゃんのことだから、実際に優等生なんだろう。
「きらちゃんは男装するって聞いたけど、どんな格好するの? 仮面ライダー? バットマン? タイガーマスク?」
「塚宝の男役。クラーク・ゲーブルみたいな感じ」
「クラーク・ゲーブルか。似合いそう」
「ねえ、わたしたちってさ、出てくるヒーローや俳優の名前が古くない?」
「そう? でも今の人気俳優やアイドルの名前を言われてもぜんぜんわからん」
「そりゃ齢をとったからよ」
「いや、興味がないからだ。だっていいと思った子は覚えてるし。本橋カナンとか嶋水鈴とか最高雪とか。ほかに」
「もういい? そろそろ家に着くから消えるわよ。荷物お願いね」
「あ、はい。なんか芸能人のマネージャーみたいだな」