第二十六章 第一部 配信二日目
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十六章 第一部 配信二日目
≪窓開けてください≫
ゆきちゃんからRAINだ。帰ってきたらしい。窓を開けると
「ただいまあ。アルトさん寂しくなかったですか?」
「すっごい寂しかった」
「そうですか。きらさんが居たし、吞んで騒いで口説きあったんですね」
「吞んで騒いだけど口説きあいはなかった。きらちゃんとはそんな雰囲気にならない」
「そうなんですね。なんとなく想像できます」
ゆきちゃんがどんな妄想しているかは判らないが、まあいい。
「お母さんは?」
「お母さんはコンビニによって、夜の配信で食べるおやつを買い込んでいます。おみやげもあるから外で待っててって言ってました」
「ああそう。じゃあちょっと下りておこう」
玄関を出て通りに出ると、あっちの方から愛凜が両手にショッパーを下げて歩いて来ていた。
近くの神社の参道に入り待っていると、えっちらおっちら歩いてきた愛凜が
「はいこれ」
と言って荷物を私に手渡した。と同時に姿を消し
「さあ帰ろうかえろう。疲れちゃった」
「そりゃあんな遠くまでバスと電車とDENCHAを乗り継いで往復したら疲れるわ」
「ひとりごと言いながら歩いてると変人と思われるよ。変態の上に変人になったら友だち減るからやめて」
「うるさい。元々友だち少ない。あと変態じゃない」
「ばらすぞ性癖」
参道から通りに出たので会話は中断した。
「ほんとに今夜も配信するの?」
「するわよ。旬を逃すと売れ線に乗れないからね」
「誰に売るんだよ。公式じゃないから梅干ししか飛んでこないし、イベントにも出られない」
「別にプロを目指してる訳じゃないし、面白いからやってるだけ。意識体界から軟弱なる現生人に新風を送るのだ」
「なんで使命感に燃えてるんか? そりゃそうと、きらちゃんもえらいその気になってるよ。
くれぐれも正体バレないようにしてくれよ」
「わかってるけど、正体を明かしたところで誰も本気にしないし、むしろ幻のアイドル化してフォロワーが増えるよ。
スポンサーがついて副収入になるかも」
「副収入って、本収入がないのに副って言わないんじゃない? それにゆきちゃんは校則に引っかからないの? こんなのに出て。顔バレしたらやばいっしょ」
「顔バレ? 学校に? そもそも学校では実体化しないし、同級生も教職員の顔も知らないんじゃない? だから偶然配信を見られたとしても誰も気づかない」
「でも『三者面談』だったんだろ。面談ってのは顔を突き合わせて進路や成績のことを話すんでしょ?」
「それは漢字面はそうだけど、意識体は顔見世なし」
「じゃあまあそれは良しとして、二日続けて配信するならちゃんとネタとか企画考えとかないと」
「考えてるよ。今日はコスプレでやる」
「二回目でもうコスプレかよ! なんのコスプレするの」
「わたしはナース、ゆきはゴスロリ、きらちゃんは男装の麗人」
「衣装はあるのか? ハイグレ・モードでも衣装の細かい線を再現するのはむずかしいんだろ?」
「だから今から呑気皇帝につれて行って」
「きらちゃんは?」
「きらちゃんは自前の男装セット、持ってる」
「さすが両刀……二刀流だ」
「じゃあゆきを呼んでくるから、すぐ出られるようにしといて」
「オレは本格的にスタッフ扱いだな」