第二十五章 第六部 一〇〇、〇〇〇突破
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十五章 第六部 一〇〇、〇〇〇突破
「今日初めてこの温泉に来たんだけど、とてもいいお湯だったよねー」
「そうだねー あまり刺激が強くないし、熱くもぬるくもない、丁度いい湯加減」
「ねえ、コメント来てるよ。『ふたりの関係は』だって。見てわからないかなあ。似てるでしょ」
「でも双子じゃないよ。年子の姉妹でーす」
「なんかてきとーな事を言ってるよ。家でも配信やってるの?」
「いや、やってないと思う。オレは見たことない」
「確かに場慣れしてる感じじゃないよね。風呂上がりでリラックスしてるし、カメラの向こうが見えないから緊張感もなさそう」
「でもスゴイよ、このコメントの流れの速さ! 素人配信なのに五万人も……もう六五〇〇〇までいってる。平日の深夜なのにヒマ人が多いよね、ニッポン」
「だって深夜は若者の時間でしょ。アルくんだってオールライト・ニッポン聴いてたじゃない」
「そうだった。地元局は午前〇時で放送終了だったので、当時は大分県に住んでいたけど、BCLラジオでニッポンLF放送の直接波を受信して、フェーディングに耐えながら聴いていたなあ」
「フォロワーも一万近くいってるよ。わたしもフォローしとこう。アルくんは?」
「一応義理フォロしとく」
きらちゃんのハンドルネームはなんて言うの」
「Kirra」
「そのまんまやん。オレはペンネームと同じ」
「芸能人にコメント拾われるとうれしいよね。そんな頻繁にコメントしないけど」
「きらちゃん、SHOW部屋とか見てるんだ」
「見るよ。一応女の子だから好きなアイドルとかいるもん」
「男の子? 女の子?」
「どっちも。だってわたし、二刀流ですから」
「二刀流じゃなくて両刀じゃない?」
「そうとも言う。でも男×男は好きじゃない」
「腐女子会のコミック、読んでないよね。そこが不思議」
「個人の性癖なんて多種多様だよ。それこそ人の数だけ、意識体の数だけ性癖のタイプがある」
「『ゆきちゃんは何才ですか』だって。女子に年齢訊いちゃいけないんだよ」
「いいじゃん別に。わたしが十七でゆきが十六。齢が近いから服とかも共有できるのよね」
「でもお姉ちゃんのセンス、ちょっとわたしと合わないからあまりお姉ちゃんのは着ない」
「わたしはゆきの、よく着てるよ。部屋着にちょうどいいから」
「ちょっと、わたしの街歩き用ファッション、部屋着にしないでよ」
「いいじゃん。ちゃんと洗濯してるし」
「洗濯し過ぎると色落ちするよ。だからわたしの服、買った時は原色系なのにしばらくして着たらパステルになってるんだ。おかあ……お姉ちゃんが下手人ね」
「『五十七分』だって。教えてくれありがとう。じゃあ壇上読みして終わろうか」
「そうだね。代わりばんこに十位から。
十位、『メソポタミン』さん」
「九位、『田が為に鐘は鳴る』さん」
「八位、なんてよむんだろう『はまちのり(浜血糊)』さん?」
「七位、『ジェームズ・セメダイン』さん」
「六位、『あのボタ山の頂を目指せ』さん」
「五位、『天狗の鼻はなぜ長い』さん。なにこの十八禁ネーム」
「四位、『あらましの要塞』さん」
「三位、『勝負下着はスク水』さん。そうなんですか?」
「二位、『青海と青梅を間違えた』さん」
「そして一位は、せーの『フリートウッドマップ』さんでしたー ありがとー‼」
「また配信しますね。いつやるかはわからないからチャンネル登録だけしといてね」
「じゃあ、えーっと……一〇五、二七二人の訪問者のみなさん、見てくれてありがとうございました。またいつかお会いしましょう。じゃあねー ばいばーーーい」
「ばいばーい (機械操作の音がしばらく聞こえる)」
画面が切り替わり「この配信は終了しました。次回配信は未定」と表示されている。
「すげえなあ。初めてなのに最後は来訪者が十万人超えてた」
「ねえ、わたしたちもやってみようよ、配信」
「だめだめ。男が出てると人は、特に男は寄ってこない。ウメボシ拾いに覗いて出て行くだけ」
「やってみたいな、配信」
「あ、そう言えば意識体は実体化してもカメラには映らないんじゃなかった?」
「出力をマックスにしておくと大丈夫だよ。今の配信ではふたりとも最大限のハイグレード・モードだったのよ」
「あれだけ来訪者があると、きっと芸能関係から引きがあるよ」
「そうかもしれないけど、実在はしても実体はないもんね。まさに幻の存在」