第二十五章 第四部 呑み会の続き
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
第二十五章 第四部 呑み会の続き
「きらちゃんも基本、ひとりで居る方が好きなんじゃない?」
「どっちかと言えばひとりが気楽ね。わたしもアルくんと同じひとりっ子だから、子どもの頃はだいたいひとりだった。
わたしは室町生まれだから、当然ながら学校も寺小屋もなくて、近所の子とたまに遊ぶ程度。だから人付き合いはあまり得意じゃない。
今はそうでもないけど、でもある程度、距離感を考えて付き合ってくれる意識体じゃないと気疲れする」
「愛凜やゆらちゃんたちと付き合うのはいい感じ?」
「彼女たちはわたしのこと、理解してくれているみたいだから仲良く付き合えるよ。
まりんさんはちょっと苦手だけど」
「あーね。それはわかる気がする。まりんさんは人はいいんだけど、ちょっとうざい」
「だよねー 人畜無害なんだけど、ふたりっきりはちょっとしんどい」
「街にはひとりで行くのが多いんじゃない?」
「そう。ひとりの方があっちこっち好きなようにそっつかれる(※)」
「オレもそう。一通りよく行く店を周って、在庫を確認して結局最初に行った店に再訪し買い物をする。誰かと行けばそんな周回ショッピングはできない。できるかもしれんけど、相手がよっぽど理解があるか趣味を共有していないかぎり、不可能」
「わたしも同じ。好きな店と店の距離がけっこう離れていて、それが何軒かあるからかなり歩く。でも欲しいものってそうやって足で探さないとみつからないもんね」
「そうそう。きらちゃんはどんな店に行ってるの」
「わたしは変な雑貨や古い文房具、かわったデザインのTシャツを扱うお店によく行く。そんな店、あんまりないもんね、市内には」
「オレも中古のCDやレコード、古本店巡りがメインだから、かなり歩く。
東京に行っても歩きまわるのは神田神保町か御茶ノ水界隈だけ。例外は銀座の【山の楽器】本店に行ったこと。あの【銀座山の楽器】の本山に来れたことはエベレストに登頂したのと同然。
あと、渋谷タクレコを訪れたのはアイガーを征服したことと同じ」
「同じかな。わたしは渋谷TATSUYAのスタ場でスクランブル交差点を見下ろしてアメリカン・コーヒーを飲んだ時が至福だった」
「それ、オレもやった。あそこはタモさんと窪田アナが番組でロケ飲みしたんだよね。確かタモさんは初スタ場とか言ってた記憶がある」
「そうなんだ! 窪田アナ、かわいいよね。あの番組に出ていた時はアイドルみたいだった」
「そうそう。現在はラジオセンターに移動してテレビで視る機会は少なくなったけど、今も愛らしさは変わらないし、天然キャラも時々垣間見えてた。
そう言えば一度だけ、出張か何かで福岡局に来ていて、夜のローカルニュースに出ていてびっくりした」
「福岡局に登場したこともあるんだ!」
「あるある。もう随分前のことだけど(本当です)。
ネットではちょっとした騒ぎになった。すごい狭い範囲だけど」
「そりゃなるだろうね。全国網羅の局の、当時は看板アナウンサーだったから、そんな子が予告なくローカルに出たらそれはサプライズ」
「博多駅でフレディ・ハバードとリチャード・デイヴィスを見かけたこともある」
「誰それ」
「ジャズ・トランぺッターとベーシスト」
「それ、わたしにはありがたみがわからないです」
「だよねえ。ジャズ・ファンじゃないと通じない自慢話」
「ねえねえ、これ開けてみて、シュールストレミング」
「ああこれ、なにこれ」
「珍味。美味しいらしいよ。それに…… あとは開缶してのお楽しみ♡」
※そっつかれる(そっつく・そーつく)……うろうろする、ぶらぶら歩く