第二十五章 第二部 お泊り
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
第二十五章 第二部 お泊り
「きらちゃんのクライアントはまじめな女性って言ってたよね。だったら特に日常生活で心配することはないんだろ」
「そうね。毎日の生活上のルーティーンをしっかり決めていて、ほぼほぼ毎日、同じようなパターンで生きている」
「じゃあ安心して外出できるじゃない」
「まあね。わたしとしては楽でいいんだけど、クライアントがそんな毎日に満足しているかどうかはわからない。そんなタイプの人がある日突然、性格が豹変することもあるのよね。
今のクライアントの子がそうならないとは言えないから、それが不安材料と言えば言える」
「豹変って、どんな風に変わるの?」
「タコがイカに変わるくらい突然変化する」
「タコからイカに…… それは……そんなにびっくりしないかも」
「タコがイカになるのよ! 足が二本増えるんだよ! すっごい進化じゃない?」
「進化って言うのかな。まあ例えはいまいちだけど、言いたいことはわかる。
イルカがサメ化するみたいな。最近のイルカは人に噛みつくらしいから、いつかは人喰いイルカに進化するかも」
「まあそんなところ。でもわたしの経験上、今のクライアントはそんなタイプじゃなさそう。ずっと平々凡々に冒険することなく、まっすぐなグラフの線のように変化のない一生を送りそう。
アルくんみたいな性格のクライアントが、アテンダントからすればいちばん退屈しないんだけどね」
「それは褒められてると取っていいんかな。オレは好き勝手に生きてるだけなんだけど」
「そんな生き方のできる人がいちばん幸せだと思うよ。だから愛凜もアルくんに正体を明かしたんじゃないかな。だってアルくん、面白いもん。心理学的にも生物学的にも」
「なんか理科の観察対象みたいだな。
きらちゃんは家でなにしてんの?」
「わたしは家に居る時はテレビを視たり本を読んだり、一日中のんびりしてる。
どこかに出かける時は、クライアントが出社のため家を出るタイミングにくっついて外に出る。そして目的地に向かう。
クライアントは戸締りキッチリするから、クライアントが帰宅するタイミングを逃すと家に入れない。だから時々アルくんとこに泊めてもらってる。締め出されて」
「ジョイ福やLOOK OFFに一緒に行って、少し帰りが遅くなるともう諦めてるもんね、帰宅するの」
「そう。だからこれからも度々ごやっかいになるかも。迷惑じゃなければ」
「どうぞどうぞ、ご遠慮なくお越しください!」
「あ、愛凜からRAINだ。『今夜はゆきとふたりで筑後川温泉に泊まって帰ります。おみやげ期待していいよ。アルトとふたりでよければうちにお泊りしてあげて』だって」
「そんなこったろうと思った。透明で出かけたのに財布とか持ってんのかな」
「持ってるわよ。クローキング・デヴァイス装備のバッグがあるから、女性の必需品は持って行ってるはず」
「クローキング・デヴァイス搭載? そんなの初めて知った。それってクリンゴンの艦に標準装備されてる透明偽装装置だよね。その技術、発明したの?」
「だってこっちの世界には天才が何人もいるのよ。それくらいの発明、容易いたやすい」
「すげえ世界。でもそんな技術がこっちに知れたら、悪用するやつが出てくるだろうね。国家単位で」
「でしょうね。だからわたしたちの技術情報は絶対にこっちには漏れないシャットアウト・プロトコルで制御されてるから大丈夫」
「そうなんだ。よくわからんけどよくわかった」
「で、愛凜が泊ってあげてって書いてるけど、泊まってあげようか」
「あ、はい。じゃあ酒とツマミ買ってこないと」
「せっかくだからコンビニじゃなくて、もうちょっと品揃えの多いお店に行こうよ。朝まで語り明かすんだから、ちょっと高いお酒と上物のツマミを用意しとかないと」
「語り明かすのね。何について?」
「宇宙物理から昨今の風俗事情まで」