第二十五章 第一部 独身貴族の性癖をネタに
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人
第二十五章 第一部 独身貴族の性癖をネタに
今日はひとりだ。愛凜とゆきちゃんは三者面談で寿満寺学園に行った。
送ると言ったが、現生人といっしょのところを職員に見られるとヤバいらしい。
朝早く家を出て、電車と汽車とバスを乗り継いで学園に向かった。無論姿は消しているので無賃乗車だ。
もっとも料金規定に意識体は含まれていないので、支払い義務はない。ハズだ。
最近は愛凜が居るのが当たり前なので、話し相手がいないと寂しい。居ても双方自室で何かしている時は何時間も会話なしだが、存在感は常に感じるので孤独ではない。
一人っ子なので部屋にひとりきりが当たり前だったのが、今はそうでなくなった。人間とは単純で勝手なものだ。
さて何をするかと考えていたところ、RAINが来た。きらちゃんからだ。
『窓開けて』と書いてある。
窓を開けるといつものように、部屋に入った部位から姿が見え始めた。大体は手からだが、今日は足から実体化している。Gパンなので股がして入室したのだろう。
「今日は愛凜いないよ。なにか用事だったの?」
「知ってるよ。愛凜からたのまれたの。『今日はアルトがひとりだから相手してやって』って」
「ああそうなんか。きらちゃんはオレの子守り役ね」
「まあそんなところ。子守りと言うより大守りだけど」
「うまいっ! はい、座布団」
「ありがとう。で、今日はアルくん、何して過ごそうと思ってたの?」
「何も考えてなかった。どうしようかと身の振り方を練っていたらきらちゃんのRAINが届いた」
「そうだったんだ。タイミング良かったね。じゃあ今日は語り合おう」
「語り合うって、何について?」
「宇宙物理から昨今の風俗事情まで。台風の夜はゆきちゃんと語り明かしたんでしょう、その議題で」
「なんで知ってんの?」
「アルくん関連の情報はぜんぶ流れてくる。愛凜かゆきちゃんから」
「あっそお。それはご丁寧なこって」
「別にわたしが情報を送ってってお願いしてるわけじゃないよ。愛凜もゆきちゃんもアルくんとの会話や行動が面白いから、それをわたしやゆらちゃんたちにも共有してもらいたいみたい」
「オレよりオレのこと知ってたりして」
「それ、あるあるよね。だってわたし、アルくんの性癖や黒歴史も知ってるもん」
「うっ なんでそこまで書いて送る、愛凜のやろう」
「やろうじゃくてめろうよ。
まあいいじゃない。逆に隠し事しなくて済むし、アルくん程度の性癖や黒歴史なら、何回も見てきた。特に異常じゃないから心配しなくていいよ」
「はあ そうですか。じゃあオレなんか足元にも及ばないド変態のクライアントもいたんだ」
「いたわよ。アテンダントでさえドン引きするくらいの超ド級変態。でもそれも人間だからこその性格。そもそも多かれ少なかれ、誰でも変態要素は持っている。だから【ヒト】と言えるのよね。他人を傷つけたり殺したりしなければ、アテンダントは介入しない」
「え⁉ 介入することもあるの?」
「よほどのことが起こりそうな時はね。でもアテンダントは四六時中、クライアントにくっついているわけじゃないから、傍にいない時に事件を起こしてしまうこともある」
「愛凜はどうなのかなあ。いつもオレの近くにいたのかな」
「いたみたいね。だからわたしもゆらちゃん姉妹もアルくんの事は我がクライアントのように知ってるし、親近感があってかわいい」
「……喜ぶべきか恥ずかしむべきか。まあ親近感を持ってくれているなら良しとしましょう」
「で、今日はわたしが来てよかったの? 独身貴族を謳歌したかったんじゃない?」
「独身貴族、久しぶりに聞いたなそのコトバ。いや、そんなことないよ。来てくれてよかった。きらちゃんが来たから今日のストーリーが書けた。
近頃はネタを探すのがひと苦労で」
「そりゃ毎日書いてればそうなるよね。書きネタが思い浮かばない時はどうするの?」
「待つ。書き始めのとっかかりが浮かんだら、あとはススッと書ける。
今日はめずらしくもう一本ネタを思いついていたから、わりとサクサクっと書きあがった。きらちゃんありがとう」
「それは良かった。どうしてもネタが出なかったらわたしとのアダルト小説でもいいよ」
「いや、それはちょっと…… もしいいストーリーが書けたらペンネーム変えて投稿する」
「どうぞどうぞ。アルくんの性癖全開で書くと隠れベストセラーになるかもよ」