第二十四章 第七部 日常回帰
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
第二十四章 第七部 日常回帰
「今日からの講習、先月までのクールの講習にも参加していたおじさんが来ていた。
その人は前回の最後の二日、体調を崩して欠席してたんだけど、今日尋ねたらコロナだったらしい。
去年あたりなら、コロナに感染したこと自体、他人にはいい憚られたけど、今はもうインフルエンザ並みの当たり前の病気になってきたね。
身近に感染経験のある人が増えてきた。
オレだってもしかしたら感染したことがあるかもしれない。ただ症状がでなかっただけで、コロナになっていることさえ気づかず過ごしていたかも。
元々O型は伝染性の病気に強いらしいから、オレもかあちゃんも発症しない性質なのかも。おやじはA型だからわからないけど、蜂刺されには強いみたいだし、今のところは感染した様子は見受けられない」
「見る限り、街中はコロナ前と変わらない人通りだもんね。バスや電車の中も」
「そうそう。で、そのおじさんもケロッとしていたから、そんなに酷い症状はなかったんだろう」
「でもまだマスクは外せないよね。マスクしてないと白眼視される傾向はまだまだある」
「そう。非常識人間扱いされるから、マスクなしで堂々と歩けるのはまだ先だろうね」
「じゃあアルトは三時間、マスクしたまましゃべりこき倒してるの?」
「まあ大体そう。途中の休み時間に給水する時、ちょっとだけずらす程度。
最初の頃は十分くらいしゃべると息苦しくなってたけど、今は慣れた」
「マスクは外せないけど、生活習慣はそろそろ元に戻していかないとね。感染の心配なんかしなくていいわたしたち意識体も、気遣いのお付き合いをしなきゃならいから鬱陶しい」
「愛凜の生きてた時代も流行り病はあったんだろ?」
「あったけど、わたしの時代は病気より飢饉や自然災害での死亡率が高かった」
「そうか。もろ自然の影響を受けるからね。
今日通った道沿いは、台風の影響はないようだった」
「そう。おみやげは?」
「チョコパイ(6コ入り)とカピルスソーダ1・5ℓとパンタ・オレンジ1・5ℓ」
「それだけえ? もっとこじゃれたものはないの? ラムレーズンたっぷりチョコとかブランデー封入チョコ」
「まだその季節じゃない。今度は二十七日に行くから、ゆきちゃんとついてくれば? オレの仕事の間、ショッピングモールのマック・ドウナルノやゲーセンで遊んでればいい」
「どうしてもって言うならついていってあげてもいいよ」
「別に無理にとは言ってない」
「そこまでお願いするなら付き合ったげる」
「お願いしてない。くま寿司や駅ソバにゆきちゃんを連れてってあげなさい。あの子、廻るお寿司屋さんには行ったことないだろ? それにミトオカ車輛を愛でながら食べる立ち食いソバorうどんも初めてだろうから」
「そうねえ。仕事が終わったらどこに連れてってくれるの?」
「ジャズ喫茶」
「えぇえ~ ディナーが食べたい」
「またそんな贅沢を。『働かざる者食うべからざる』という諺を知らんのか」
「じゃあわたしたちはディナーコースを注文するから、アルトは横でミックスジュースでも飲んでなさい。『稼ぎの悪い者ディナるべからざる』よ」
「誰が稼ぎの悪い者ぢゃ! それに昨今はミックスジュースなどどこのメニューにも載ってない」
「じゃあミルクセーキでいいよ」
「ミルクセーキも見かけん! 何時代のレストランだよ」
「もう、じゃあ好きなの注文すればいいじゃん。わたしとゆきは美味しいデザート付きのスペシャルディナーにする。オプションで松茸を七輪で軽くあぶった前菜も」
「ディナーに松茸? 洋食に松茸つけるかな。
じゃあオレも同じのにしよう」
「どうぞどうぞ。いつもご馳走になって悪いわね。今度おかえしにケンタッキーフライングキッチンに連れってあげる」
「ディナーとチキンじゃ格差あり過ぎじゃないか?」
「ケチ臭いこと言ってるとゆきに嫌われるぞ、疑似彼さん」
「やっぱり愛凜の入れ知恵だったな、疑似彼」
「わたしは知らん、存じん」