第二十四章 第六部 キャンプ(於室内)
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
第二十四章 第六部 キャンプ(於室内)
台風は去った。幸い被害はなく、窓などの防護材の片付けがめんどくさいだけだった。
昨夜は朝五時まで、まりんさんは台風情報を見続け、ゆきちゃんは私に宇宙物理から昨今の風俗事情の質問攻め。愛凜だけ唯我独寝で我関せずと爆睡であった。
心配していたBS番組の録画への影響は、最も雨が強かった〇時半から一時前後に録った三本に画面のびらびらが残っており、一本は途中から完全に視聴不能だったので録画リストから消去。あとの二本は、まあ我慢できる程度のびらびらだったのでBD―Rへダビング。
明日の予報では完璧な秋晴れらしい。そんな日に仕事とはまったくツイてない。
避難する場合の事も考えてガソリンは満タンだ。どこかへドライブするにはもってこいの快晴。
なのに仕事とはっ!
明日は誰も付いてこないので、ひとりで回転寿司でも食って帰るか。
「ゆきちゃんは?」
「まだ寝てるみたいね。遅くまで話してたんでしょ」
「遅くまでと言うか、朝早くまで」
「お母さんも?」
「まりんさん? まりんさんは台風情報を見ながらあーでもないこーでもないとひとり言を言ってた」
「で、アルトは寝たの?」
「三~四時間は寝たかな。台風いやだね。また熱低ができてるそうだから、近いうちに接近するかも」
「またあ。今度はきらちゃんやゆらちゃんたちも呼んで、台風の夜にタイフーン・パーティーやろう」
「そんなことやってたら家ごと吹っ飛ばされるぞ。バチが当たって」
「そんなことない。台風を噴き飛ばす祈願イベント」
「そんなこと言ってなさい。自然を甘く見ちゃならん」
「二~三十年前は台風と言えば停電で、キャンドルパーティーしてたのに、今は風情がないよね」
「今そんな頻繁に停電してたら大変だ。バッテリーやバックアップ機能がなかったら、コンピュータで作りかけの小説データは消えるし、冷蔵庫の生モノは腐りコーラはぬるくなる。
キャンドルパーティーするなら、むしろ天候の安定した夜、家中キャンプごっこの一環でした方がいい」
「じゃあ今度の週末やろう」
「いつものメンバーで? ただのいつもの呑み会になるよ」
「だからあ、テント張ってそれなりに雰囲気だせばいいじゃん」
「テント? 誰が持ってる」
「誰も持ってないから買う」
「買ってもこの部屋にテント張る広さがないやろもんて」
「だからテントはひとり用」
「ひとり用テントでどうする。代わりばんこに入るか?」
「それよ。一時間ごとに交代する」
「それじゃキャンプ気分は出らんでしょうもん」
「だからこれはキャンプじゃない。キャンプごっこ」
「ひとりだけ一時間、テントに籠るのか?」
「いや、テントに腹ばいに寝そべって、上半身は出して呑み会を続行する」
「はあ、そうですか。電気消してランタン点けて、三脚代に網を乗せてアルコールランプでサバ缶ややきとり(タレ)缶をあぶる」
「そうそう、アルトも乗ってきたね!」
「乗ってない。乗せられてる」