第二十四章 第五部 逆垂直避難
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
〇まりん ライフ・アテンダント/愛凜の母
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十四章 第五部 逆垂直避難
台風の夜だ。私の住んでいる県への最接近時刻は午前三時から六時の間。北寄りのコースを進んでいるため、暴風域に入ったとしても対馬海峡に面した沿岸部をかすめる程度。
風は吹いているし雨も降っているが、今のところどちらもそれほど強くはない。
しかし二階はまわりにさえぎる建物や木がないので、風が当たると音が激しい。そのため今夜は一階の仏間にお泊りだ。
愛凜とゆきちゃんも一緒だし、なぜかまりんさんまで混ざっている。
「仏間って怖いよね。幽霊出そうで」
「夜中に目が覚めて、誰か知らない人が立ってたらどうする?」
「見てないふりして、目を固く閉じて寝たふりしてる」
「金縛りとかなったらどうしよう。ね、金縛りって目は見えるけど身体が動かないんでしょ?」
「そうみたいね。なったことないからわからないけど」
「あのお、ちょっといいですか?」
「わたしたちこっちよ。どこ見てしゃべってんの」
「仕方ないだろ、姿が見えないんだから」
「で、なに?」
「あのさあ、私からすれば君らは幽霊みたいなものだけど、幽霊っているの?」
「さあ。意識の低い意識体が人間を怖がらせているってことはあるかもしれない」
「じゃあさ、そう言う意識体に出会ったらどうするの?」
「だからさっき言ったように気づかないふりをする」
「見たことない親戚かもしれないだろ。何か用があって立ち寄ったか、近くに来たんで挨拶に来たとか」
「かもね。でも意識体か幽霊かわからないから目は合わせない」
「で最初の質問に戻るけど、幽霊っているの?」
「或人くん、それは永遠の謎でいいんじゃない? 浪漫があって。
イギリスは幽霊の出る屋敷は高値で買い手がつくそうよ。ここもそうやって売り出せば物好きな金持ちが五十億円くらい出すかもよ」
「やめてよお母さん。わたしたちの住む家がなくなるじゃない」
「いいじゃない。五十億で新しい屋敷を建てて、そこで豪華に暮らせばいい。ねえ、或人くん」
「はあ、そうですね。所得税とかたくさんもっていかれて、まりんさんの想像しているベルサイユ宮殿みたいな屋敷を建てるのは無理でしょうけど」
「あら、そうなの? じゃあせめて明治時代の成金くらいの住居でいいわ」
「おばあちゃん、不毛な妄想を夢みるより台風情報を見ましょう。暴風でこの家自体が倒れたら元も子もないわよ」
「それは大変! 或人くん、テレビ点けてください」