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ライフ・アテンダント 人生の付添人  作者: アルシオーネM45
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第二十四章 第四部 疑似彼

〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター

〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘

第二十四章 第四部 疑似彼


 「地震だ」

 「え? 揺れました?」

 「ほんのちょびっとね。風ではない。あの振動は地震」

 「大先生、感覚が鋭いですね」

 「その大先生ってやめてくれない? どうもこそばゆい」

 「震度1くらいですか」

 「0・5くらい。ほら、気象庁のホームページにもこの辺の震度は出てない。それくらい弱い揺れだったんだ」

 今日はめずらしく、愛凜ときらちゃんは二人で天陣へ買い物に出かけている。だからゆきちゃんとふたりきりだ。

 この子は一応高校生だが、愛凜の末っ子なので当然のことながら江戸時代生まれである。

 だが、十歳の若さで病気のためこの世とおさらばしたので、人生経験はそんなにない。だから私を慕っていろいろ質問をぶつけてくる。

 私もできる限り丁寧に対応するし、わからないことは一緒に調べて答えを見つけたりする。


 「先生、質問です」

 「『大』を取ったのね。なんですか、今日の質問は」

 「恋愛についてです」

 「れんあい?」

 「そうです、恋愛」

 「恋愛は苦手だなあ。変愛ならまあそこそこ答えられるかもしれんけど」

 「わたし、彼氏いない歴二百年以上です。つまり生まれてから一度も付き合った男の子がいない。どうやったら恋人ができますか?」

 「そりゃあ…… 機が熟せば恋の花咲くこともある。好きな子がいるの?」

 「特にこれって子はいないけど、モテます」

 「……モテるんだ。じゃあ選り取り見取りじゃない」

 「気軽に声をかけてくるような男の子は苦手です。下心、出し丸で」

 「なんで『出し丸』だけギョーカイ用語なの。言い寄ってくる子がいるのはゆきちゃんに人を、じゃなくて意識体男子をひきつける何かがあるからだよ。

 普通にしていて魅力を発散する性格なんだから、いつかゆきちゃんが惹かれる意識体が見つかったら、その子に普通に接すればいいんじゃない。その子もきっとゆきちゃんに惹かれると思うよ。

 だからそんな子がみつかるまで、焦らずゆっくりじっくり待っていれば、いつかきっとすてきな意識体が現れるはず」

 「そうですか。でもわたしは今すぐにでも、傍に彼が居てくれたらいいなって考えるんです」

 「そうかあ。でも今は夏休みだし、来年まで学校には戻れないから、どうしたもんかねえ」

 「だからですね、アルトさんが疑似彼になってくれるといいんですけど」

 「そこは『アルトさん』になるんだ。オレが疑似彼? 知ってるかどうかわからんけど、オレは恋愛経験少ないよ。少な過ぎて将来は勲三等髄放章が授与されるかも。だから疑似彼と言えども人選はしっかりした方がいい」

 「そうは言っても、まわりにいる男性は先生のお父さんか近所のおじいちゃんくらいだし、若い男は田舎チャラいし、まともな男性は大先生くらい」

 「はあ。なんと言っていいかわからんけど、とりあえずありがとう」

 「じゃあ疑似彼の件はオーケーですね!」

 「いや、まだオーケーとは言ってない。そもそも疑似彼ってどんなことすればいいの」

 「デートです。食事やショッピングやUFOキャッチャーや寺社巡り」

 「まあそれくらいならお付き合いできるけど、一応お母さんに許諾をとってみて」

 「お母さんは了解するはずです。わたしも大先生なら間違いないと思うし。

 それに将来、疑似が本気に変わる事だってあるかも……」

 「いや、それはまずい。ゆきちゃんはオレの先祖だし、もし愛が成就したら愛凜が義理母になって、関係が非常にややこしくなる。そもそも生きてる世界が違う。いずれはオレもそっちに行くけど」

 「じゃあ普通の疑似恋愛でいいです。ね、だから疑似彼になってください」

 「じゃあ一応考えとく」

 「それはオーケーと言うことですね」

 「いやいやまだオーケ「ありがとうございます。やっぱりアルトさんはやさしいお兄さんでした!」

 なし崩し的に疑似彼にされてしまった。『NO』と言えない私の弱みにつけこんだ周到な計画だったに違いない。愛凜が一枚噛んでいるのは明らかだ。

 帰宅したら質してみよう。「知らぬ存ぜぬ」と言い張るだろうが。


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