第二十四章 第三部 今夜の寝る前映画
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
第二十四章 第三部 今夜の寝る前映画
ここのところ台風絡みの話題が多いが、昨日の午前中に講習開催の担当者から電話があって、やはり六日は講習中止となった。七日は予定通りで、今回のクールは七日が初回となる。
毎月火・水の二日間開催で九・十・十一月の三か月間で計六日、一日三時間講習の十八時間で表計算の初級をやる。
中止となった一日分をどこに入れるかは七日に参加者の都合を聞いてみないと決められない。できれば今月中に行いたいのだが、どうなるかわからない。
そんなことはどうでもいいと、これを読んでいる方は思っているだろうが、こんな余裕のあり過ぎる日程の講習なのに、狙い撃ちしたように台風が来る私の運の悪さを象徴するようなケースなので敢えて書いております。
「ねえ、あいりちゃん、引退するのかな」
「ん? ああ、そのツイートだろ。芸能活動を終わらせるとははっきり書いてないから、どうなのかな。『表』って言葉をわざわざ使っているから、裏方にまわって若い子を育てる側になるのかもね。ダンスのスキルはとても高度な子だから。
あいりちゃんのファンなの?」
「そう。名前が似てるからね」
「それだけか! 実際に見たことはある?」
「いや、テレビでしか見たことない」
「オレは何度かあるよ。とっても面白い子だった。
途中からだったけど、オレの好きになった唯一のアイドル・ユニットのメンバーになって、それからはライヴ後の物販でよくお話しした。
ユニット解散後は個人でオーディション受けたりして、メジャーのユニットメンバーとして活躍してたな。
あの子には恩義があって、オレのプレゼントしたオリジナル・デザインのTシャツを練習着で着てくれたり、解散記念に贈ったTシャツは配信で着てくれていた。ファンとしてこれ以上の幸せなことはない」
「この飾ってある写真ね。ほんと、あのTシャツだ。嬉しかったろ?」
「そりゃ嬉しいくさ! でもオレはその時の配信は見てなくて、あとで知り合いから聞いて、動画を見せてもらった」
「そう言えば、今や国民的人気女優になってしまった子の映画初出演作のブルーレイが届いてたね。その子やあいりちゃんに限らず、元メンバーの子たちが活躍してたり幸せを掴んだことを知ると、やっぱり嬉しいでしょ」
「そりゃそうだよ。オレは永遠のレヴラーだから、疎遠になってても心の深いところではいつも応援している。オレにとってはみんな姪っ子みたいな存在だから」
「じゃあ今夜はその子の出ている映画視て寝よう。ビッグネームの俳優さんもけっこう出演しているね」
「そう。それと引退間近の485系国鉄色が踏切ですれ違うお宝シーンもある。
それから九州新幹線全線開業は二〇一一年三月十二日。映画の設定は、この日起こるある出来事を見ると奇跡が起こると信じた小学生たちが、そのシーンを見るために目的地へ向かう準ロードムービー的内容なんだけど、実際の三月十二日の前日、つまり二〇一一年三月十一日は東日本大震災の発生した日。
映画とは直接関係ないけど、そんな現実も思い起こさせる。主役の子が願おうとした奇跡を思いとどまったことも、偶然とは言え、自然の驚異の恐ろしさに想いが至ったのかも」
「あまり言うとネタバレになるから、語りはそのくらいにして視よう視よう」