第二十四章 第二部 共生のハチ
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
第二十四章 第二部 共生のハチ
「やっぱ台風、来そうだね」
「日数が経つと予測の精度が上がって来るからね。多分この予想コースを通ってこっちにも来るんだろう」
「太平洋側を通るとそうでもないけど、対馬海峡側だと風が強いんだよね」
「そうそう。台風自体の回転方向と進行方向が同じ向きになるから、その速度が合わさって風速も強まる」
「なにか準備をするの?」
「明日中には窓をつっかえ棒で強化しておく。それとガラスにテープ貼って万一の時、飛び散らないようにする」
「まあ、それくらいしかできないよね。でも何もしないよりいい。
ねえ、アルトのお父さんが呼んでるよ」
「ほんとだ。降りてきてくれって合図してる。ちょっと行ってくる」
「なんだって?」
「何か虫に刺されたか噛まれたか、とにかく手がすごく痛いから病院に連れて行ってくれって」
「え⁉ たいへんじゃん。早く連れってってあげて。
で虫刺されなの?」
「わからない。蜂やほかの虫は飛んでなかったし、ヘビだったら姿が見えるだろうからそれも違うらしい。
とにかくちょっと病院に行ってくる」
「気を付けて行かんと」
「はい」
「ただいま」
「おかえり。どうだった?」
「痛みは病院に付くころにはほとんど消えたらしい。少し腫れが残っていたけど、最初の激痛はもうないって」
「で、原因は判った?」
「わからない。だいたい本人が刺されたか噛まれたかわからないのに、さすがのお医者さんも患部を見ただけでは判断できんかった。
痛み止めと塗り薬を塗ってもらって終わり。本人はなんともなさそうだから、まあ大丈夫だろう」
「一安心ね。でも蜂だったら稀にショック死することもあるから気を付けないと」
「この辺はアシナガバチがあっちこっちに巣をかけるから、その巣を触ってしまったのかもね。
アシナガバチだったらいつもその辺を飛んでるし、人間を襲うこともまずない。巣にイタズラしたりしなければ。
それに害虫を食べる益虫だから、居てもいい虫」
「じゃあ見ても無視すればいいのね」
「それはギャグですか? まあ取りあえず大事にはならなかったし、今日書くネタにもなったから良しとしよう」