第二十四章 第一部 同窓会記念アイテム
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
第二十四章 第一部 同窓会記念アイテム
「今年の梅雨明けが一か月うしろにずらされたって」
「どーゆーことなの?」
「だから、晴れが続いたから梅雨明け宣言出したけど、そのあと長雨で、結果的にそれも梅雨に含めることになったんだろ。じゃないと辻褄があわなくて、来年以降、梅雨明け宣言しても各方面から『ほんとに大丈夫か? 信用していいのか?』と疑いの目で見られる。来年からは簡単に宣言だせなくなるだろうね」
「自然相手に人間がそんな簡単に判断できるわけがないよね」
「そう。特に気象はね。スーパーコンピュータの導入で精度が上がったと言っても、あっさり予報が変わること頻繁」
今近づきつつある台風は六日頃に対馬海峡あたりを通過すると出ている。これは当たってほしくないが、そんな時に限って見事に予想は的中する。六・七日は仕事で隣県に行かなければならない。勢力が落ちるかコースがずれれば予定通り講習は開催されるだろうが、現在の予想と大きく変わりなければ中止の可能性も出てくる。
只でさえ少ない仕事なのに、これで中止となるのは痛い。
たぶん中止ではなく延期になるのだろうが、それはそれでスケジュール調整がややこしくなり、やはり影響は大きい。困ったものだ。
「アルトの高校、創立百周年なの?」
「そう。なんで知ってるの? ああ、その手紙か。寄付金募ってるやつだろ」
「そうみたいね。なにこれ、理科ちゃん人形も販売してるじゃん。制服着てるやつ」
「一体八千八百円。高いのか安いのかわからんけど、このセーラー夏服バージョンはちょっと食指が動く。この制服は当時の近隣高校の生徒からもかわいいって言われてた。
今はブレザーになってるし、学校名と場所も変わってしまっているから、母校意識が薄くなってる」
「同窓会とかあるでしょ。行かないの?」
「行かないねえ。部活動とか入ってなかったし、同級生はともかく、知らない先輩や後輩連中と話したり吞んだりする気にもなれない」
「出た! アルトの一匹狼論! もうそこそこの齢なんだから、少しは丸くなったら?」
「いや、オレから尖りを取ったらふにゃふにゃしか残らん。だけん丸くならん」
「んじゃ寄付もしないのね、当然」
「当然っ! 理科ちゃんは一個だけ買うかもしれんけど」
「いい齢して理科ちゃん人形かよ。意味わからん。尖がったりやおなったり」
「いいじゃん。それがオレだ。それにこの理科ちゃん、もしかしたらプレミアつくかもよ」
「プレミアあ? どうだか。こんな企画、ほかでもやってるでしょう。こんな田舎の高校が思いたつくらいだから」
「いいじゃん。プレミアつかんかったらオレの部屋がこの子の永住の場所だ」
「でもほかの三体に比べて、この制服はかわいいね、実際」
「でしょうが。反対に冬服はすごくダサかった」
「で、買うの?」
「んー 余裕があればね」
「余裕あるの?」
「ない」
「じゃあだめじゃん」
「まあ、ほかにほしいものは沢山あるし、アマゾネスのカートには十万円分くらいのアイテムを放置したままだ」
「そう。でもこれ、かわいいと思うけどな」
「じゃあ愛凜が買ったら? 振込用紙が同封されているから、コンビニで払い込めばその子は君のものだ」
「でもなー わたしはフィギュアやドールを集める趣味ないしなー。やっぱやめとくわ」
「知らないよ、プレミアついても」
「でもほかにほしいもの、沢山あるもん」
「結局オレと同じじゃん。じゃあ二人で半分ずつ出して買おう」
「で、所有権はどっちになるの」
「そりゃあオレ名義で買うんだからオレでしょ」
「じゃあいらん」
「けち」
「どっちがけちねっ!」
と言うことで、理科ちゃんはうちには来ないことになりました。