第二十二章 第三部 路上ライヴ
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇愛凜 ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖
第二十二章 第三部 路上ライヴ
「今日、仕事の帰りに路上ライヴを見たよ」
「路上ライヴ? 誰の?」
「山口まりのあさん」
「どうだった、良かった?」
「良かったよ。いつもはデュオでやってるけど、今日初めてソ路上・ライヴだったらしい。
でも堂々としていた。ステージ度胸があるんだろうね」
「歌はどんな感じの曲?」
「カヴァーとオリジナルとを織り交ぜてた。どっちも良く歌いこなしていたよ。人の曲も自家薬籠中にして個性を示していた」
「そう。見てみたいな。いつもやってるの?」
「しょっちゅうじゃないけど、やる時は事前にSNSで予告してる」
「じゃあ今度ライヴする時は見に連れてって」
「いいよ。でも予定通りの時間には始まらないかもしれない。路上ライヴは基本的にゲリラ方式だから、先に場所を取られてしまって別の所に移動するか、先に演ってる演者の出し物が終わるのを待つしかない。
今日も第一候補地は政治団体が取り留めのない演説を長々とやっていて、お茶を散々濁していたし、別の場所は新興宗教団体が陣取ってにこやかに勧誘活動をしていた。
けっきょくは第二候補地をファンのおじさんが場所取りしといてくれたから、そこで無事に開演することができた」
「そうなんだ。路上ライヴも大変なんだね。
アルトも自分の作品を路上で朗読すればいいのに」
「そんなのやっても、誰も聞かないし足も止めてくれんよ。せいぜい『変なおじさんがなにかぶつぶつ言っている』くらいしか思われない」
「そう? だったら読むだけじゃなくて、なにかパフォーマンスも演ればいいじゃん。暗黒舞踏とか」
「七十年代か! まあでも今そんなことしたら、逆に新鮮かもね。オレにはできんけど。
そう言えば、その山口さんが今度新曲のリリースライヴをするとか言ってたな。フライヤーもらった」
「大妙のライヴハウスね。行こうよ」
「オレはこの日は仕事だから行けないよ。ゆきちゃんと行ってきたら? 迎えには行けるから」
「ゆきはどうかな。きらちゃんやゆらちゃんたちに声かけてみる」
「その面子で行って大丈夫? 誰かライヴハウス経験あるの?」
「さあ。行けばなんとかなるんじゃない」
「騒動は起さないようにしてくれよ。盆踊りみたいに踊ったり、ぺちゃくちゃおしゃべりは厳禁だからね」
「わかってるわよそれくらい。弁当は持って行った方がいいの?」
「弁当は持ち込まない。歌舞伎や芝居じゃないんだから」
「いろいろシキタリが面倒ね。好きなようにさせてくれればいいのに」
「君たちは十一月の九州場所に行きなさい。そっちの方が楽しいぞ、きっと」
「そう? じゃあそっちの方向で話を進める」