第二十二章 第一部 ゆきちゃんと散歩です
〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター
〇まりりん・ゆき 寿満寺学校二年生/愛凜の末娘
第二十二章 第一部 ゆきちゃんと散歩です
散歩の時間だが、今日は愛凜は来ない。月に一度の不愉快な日らしい。
ひとりで出かけようとしたらゆきちゃんが降りてきて
「わたしがおつき合いします。ワンちゃんたちのお守役で」
「いいの? 勉強の途中じゃない?」
「気分転換です。一日一回は外歩きしないと」
「そう。じゃあ一緒に行こう。ワンちゃんたちは付いてくるから、私の横を歩けばいい。姿は消したままでお願いね」
「はい、母から聞いてます」
「ゆきちゃんはどうしてライフ・アテンダントになろうと思ったの?」
「いいんですか、おしゃべりして」
「いいよ。半径百メートル以内には誰もいそうにないから」
「そうですか。
母もおばあちゃんもライフ・アテンダントだから、わたしも誰かの役に立とうと思って学校に入りました」
「じゃあ将来はオレの親戚の誰かに付いて、傍らでその人を見守るんだね」
「そうですね。でもまだまだ先のことです。資格試験はかなり難しいらしいし、合格率が低いんです。だから相当勉強と実務を経験しないと」
「そうなんだ。でもお母さんもおばあちゃんもその道を歩んできて、今は立派に独立してライフ・アテンダントになっているんだから、ゆきちゃんも夢が叶うよ」
「だといいんですけどね。
でももしだめだったら、大学に入って物理学の勉強をして博士課程に進みます」
「大学もあるんだ。
ね、今通っている寿満寺学園? だっけ? それって実在の学校なの?」
「国の認可を受けた実在の学校です。昼間は現生の高校生が通い、夜間はわたしたちが使っています」
「それは… 何と言うか、学校や教育委員会には無断で利用しているの?」
「まあ、そうなりますね。夜になると通学して、学校の設備や備品、たとえばコンピュータとかその他もろもろを使わせてもらっています」
「もちろん姿を消しての登校だよね。それはわかるけど、教室の電気やパソコン画面の出す光は大丈夫なの?」
「わたしたちは最小限の明度で充分見えるから、教室の電気を点灯させる必要はありません。パソコンの照度を最小にして、それで学習しています」
「でも使用履歴や電気代が予想外に上がって、学校事務の人に怪しまれたりしない?」
「そこら辺は問題になったことはないみたいですね。学校の管理なんてけっこうずぼらなんです。学校だけじゃなくて役所も同じ。
結局は自分で払うお金じゃないから、担当者は電気の使用量が多少合わなくても気にしてません。
仮におかしいと思われても原因を突き止めるのは無理でしょうね。だって実体のない存在が使用しているわけだから、不正使用の証明ができない」
「そうなんだ。でも授業中に警備員が見回りに来たりしないの?」
「来ないですよ。最近はどこの学校や役所でも赤外線監視だから、わたしたちには反応しません」
「じゃあ自由に利用できるね。
大学は行くとすればどこで勉強するの?」
「九洲大学です」
「じゃあもし物理学の道に進んだら、私にも学んだことを教えてください」
「わかりました。任せてください! あ、誰か来ましたよ」
「ああ、あの人は知ってる人。あの人、話しが長くなる時があるから、そうなりそうだったら先に帰ってね」
「はい、ワンちゃんたちと散歩して、先に帰っています」