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ライフ・アテンダント 人生の付添人  作者: アルシオーネM45
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第二章 第四部 ハイグレードモードだとね、

〇藤咲 或人 パートタイムのフリー・ライター

愛凜(あいりん) ライフ・アテンダント/或人の遠い先祖

〇ゆらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人

〇きらり ライフ・アテンダント/愛凜の先輩アテンダント・友人

第二章 第四部 ハイグレードモードだとね、


 シャワーを浴び終え、スッキリした風呂上がりには、冷たい炭酸飲料が冷蔵庫で待っている。

 キンキンに冷えたビールを、腰に手を当て一気にあおる姿がカッコいい。しかし私は家ではまずアルコール類を呑まない。

 呑めない訳ではないが、体質的に気持ちよく酔えないのだ。

 それにビールよりも洋酒の方が好きで、色んな銘柄の酒を少しずつ味わって楽しむタイプである。

 だが、それも今はやっていない。とにかく家呑みは控えている。

 両親が八十代半ばで、数年前、深夜に病院へ連れて行かなければならない事態が起こった。

 幸いこの時、私は飲酒していなかったので、自家用車を運転して夜間診療の病院まで飛ばせたのだが、もしアルコールが入っていたら、救急車を呼ぶ状況になっていたかもしれない。

 深夜に救急車でも来ようものなら、それこそ自宅周辺は静かに大騒ぎとなる。なのでこの辺の家庭では、救急車の出場依頼をする際、かならず『半径一キロ以内になったらサイレンを切ってください』とお願いするのだ。

 車の多い街だと、緊急車両がサイレンを鳴らさず走るなど危険極まりないが、うちは田舎なので、まあ赤色警告灯が点いていれば、大方の対向車や先行車は避けたり道を譲るのが暗黙の了解である。

 で、話を風呂上りの時点に戻す。冷蔵庫から取り出すのは、最近嗜好が変わってコーラより好きになったパンタ・オレンジだ。

 意外と強炭酸で、一気に飲めないほど刺激のあるところが良い。

 炭酸の刺激に酔っていると、耳元で

 「ちょっと冷蔵庫を開けてよ」

 と愛凜が囁いた。

 すでに両親は帰宅していて、キッチンのとなりの居間でテレビを視ている。だから愛凜は実体化できないのだ。

 冷蔵庫を開けると冷気が足元に降りてきた。愛凜は私に取り出してほしい物を物色しているのだろう。

 愛凜が飲めそうなものはスポーツ・ドリンクかミネラル・ウォーターくらいしかない。

どっちか選んでまた囁きかけるのを待っていると、なんとまあ、冷蔵庫の中で彼女の手だけが実体化して、ミネラル・ウォーターのペットボトルを持ち上げると、居間からは死角となる方向に移動していった。

 事情を知らないと、単にペットボトルが空中を飛んでいるように見える。しかしよく目を凝らすと、ボトルのキャップをつまんでいる愛凜の指先だけが不気味に実体化していた。

 「ははーん、これがポルターガイストの正体か」

 と私がひとり納得していると、居間から

 「冷蔵庫ば閉めんね」

 と母の諫める声が聞こえた。

 「気ままなお嬢さんだ」

 と心で呟きながらペットボトルを追って二階に上がる。


 部屋に入るとすでに空になったペットボトルがテーブルの上に放置されていた。愛凜はTシャツから白のタンクトップに着替えている。

 白だから透けて見えるかと思うだろう。が、残念ながら愛凜にはボディすなわち肉体がないので期待しているものは、ない。

 そのような劣情は頭から追い出して、私の定位置に座ると愛凜が聞いてきた。

 「それで、どうだった? わたしの友だちの第一印象」

 単刀直入に入ってくる。

 「それぞれかわいかったよ。彼女たちもライフ・アテンダントなんだろ」

 「そうよ。わたしにとっては業界の先輩。だけど年齢は関係ないからタメよ」

 「でも、ふたりともむかしの人だろ。いつだったっけ、石器時代と縄文時代?」

 「奈良と室町よ。名前はね、奈良の方がゆらりちゃん、室町がきらりちゃん」

 「あの、どっちが奈良でどっちが室町なんだよ」

 「奈良のゆらりちゃんが長い髪の子。室町のきらりちゃんはショート」

 「ふーん。愛凜もだけど、みんなキラキラネームだね。本名はもっとシンプルなんだろうな。知らなくてもいいけど」

 「で、どっちを紹介しようか」

 「紹介って、誰が付き合うって言った?」

 「あらあ、彼女ほしいんでしょ? わたしはアルトの彼女になれないし、人間の彼女ができるまでふたりのどっちかとお付き合いしたら? 楽しい日々が過ごせるわよ」

 「いや、そう言うんじゃなくてさ、ひとりと付き合うよりみんなで過ごした方が楽しいんじゃない?」

 「あのね、いいこと教えてあげる。わたしたちは通常モードで実体化すると、表面上だけ人間の姿なんだけど、ハイグレードモードだと内部まで、ほぼ人間と同じように実像化するの。

 今日会ったふたり、地面にしっかり足を着けて歩いてたでしょ。通常モードだと軽すぎて、人間と同じように歩けないんだけど、ハイグレードモードだと人間の平均的な体重になるから支障なく歩けるのよ。本物の人間と変わらないの。だからさあ、何が言いたいかわかるわよね」

 なんだこいつは。私の劣情を煽っているのか?

 「なんか気を使ってくれてるのは嬉しいけど、いいよ付き合うとかそんなのは。もし仲違いしたら気まずいだろ。

 そんなことよりも、さっき言ったみたいに私も含めて四人でドライブ行ったりキャンプする方がいいよ。四人って数え方でいいのかどうかわからんけど」

 やせ我慢しなくてもいいのに、こんな状況に置かれると私は腰が引けてしまう。でもふたりより小グループで楽しく過ごす方が好きなのは本当だ。

 「もう、せっかくきっかけを作ってあげたのに。

 でもわかったわ。アルトのそんなところが好ましいと思うし、逆にもどかしく感じるけど、じゃあグループ交際と言うことで」

 「グループ交際って、男はオレだけじゃん。これは状況だけ見ればハーレムだ」

 「あなたハーレムなんて状況に置かれたら君臨できるの? 無理でしょ」

 「……無理です。オレにはそんなリーダー性も甲斐性もない」

 「とりあえずさ、今夜ふたりとも遊びに来るから、親睦を深めてちょうだいね」

 三人もの女子がこの部屋に集まるなんてことは、この家の有史以来、初めての出来事だ。

 やばいなあ。

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