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原生魔王と天才勇者×100  作者: 池田池
リンド村編
9/14

9.アウターと人間の子供

山道を登っている途中で泉を見つけ休憩する4人。

そこでアンネと二人っきりになったアグニは予想もしないピンチに直面するのでした。

今回も戦闘がなく平坦なお話ですが、最後まで見ていただけると幸いです。

 しばらく進むと樹々の間から泉が見えてきた。

 近づくと、泉の水には魚たちがキラキラと揺らめき遊んでいるのが見える。

 来た道を見下ろすとさっきまでげんなりしていた入り口が小さく見えている。かなり登って来ているみたいだな。

 案外慣れない山道でも進むもんだ。


「ここで一旦休憩にするか。」


「えぇ、ここの水は、はぁ、飲めるみたいですね。はぁ、いいと思います」


 アンネの為、先を急ぎたいであろうニプロパがあっさりラルフの言葉に賛同する。

 気持ちでは急ぎたくても体力的には一番弱いニプロパは、街のそばにある木に背中を預けてはぁはぁと肩で息をしている。

 少し先を急ぎ過ぎたか、時間はかかっても、もう少しペースを落として進んだほうがいいな。

 しかしアンネはそわそわと、ニプロパの顔を見たり道の先を見たりと落ち着かない様子だ。


「え…ここで? もうすこしで山頂だから、そこで休んだほうが、いいんじゃない?」


「はあ、はぁ…そうね。もう少し先に行きましょうか」


「いや、慣れない山道だ。無理するとどうなるか分からん。それに、アンネを襲った奴が、まだここら辺にいるかもしれない。体力は回復しておいたほうがいいだろう」


 アンネの焦る気持ちはわかるが、ここで俺たちが倒れたら元も子もない。ここは悪いが休ませてもらおう。


「でも、ここは、よく魔物出る場所だし、危ないよ?」


 やけにアンネがしぶるな、少し慌ててるし…もしかしたらこの辺りが山賊から逃げたところなのかもしれない。

 なら、なおのことここで山賊たちがどうなったのか調べないと、敵への対策もできない。


「大丈夫だ! もし山賊や魔物が襲って来ても俺が倒してやるよ!」


 泉のほとりに大きな声が響き渡る。

 今いる泉の周辺は細くて、樹々が密集している山道とは違い、若干ではあるがひらけている。

 それでもアンネは「でも、でも」と言いながらもじもじしている。

 しかし、不安になる気持ちもわかるが少しは俺たちを信用してほしいよな。まぁ、シノブには勝負に負けて試合に勝った感じだが、それでもそこらへんの山賊や魔物なんかにやられる実力じゃない。


「偵察がてら少しそこらへんを回って水を汲んでくる。お前らは休んでてくれ」


 ラルフは水を入れる皮袋を持ち、泉の奥に消える。

 あいつは人間型の時はそうでもないが人狼の姿になると人間の何倍もの五感で危機を察知できる。

 少しひらけているとはいえ、どこに敵が潜んでいるかわからない状況だと、休めるものも休めない。きっと気を使ってくれているんだろうな、感謝感謝。


「じゃあ私もちょっと…」


 少し息が落ち着いたのか、よいしょと背にしていた木を離れ、ラルフに便乗するようにニプロパがこっそり森の方に入って行く。


「ちょっとってなんだよ?」


「ちょっとはちょっとです。」


「…トイレならトイレって言えばいいのに」


「っ!! こんの無礼者!」


 ニプロパがキッと振り返り、足元にあった石ころを投げつける。

 ゴチン! という音と共に頭に激痛と衝撃が走る。


「あがっ! てめ、何しやがる!」


 たんこぶができてやがる。まったく、威力がやばいだろ。普通の人間だったら死んでる威力だぞこれ、あいつ俺を殺りに来てないか?

 文句を言おうと頭をさすりながら振り返るとニプロパの姿はすでになく、俺とアンネだけが取り残されていた。


「…ったくあのやろう、力加減考えろってのっ。アンネはトイレ大丈夫か?」


「…大丈夫、だよ」


「…そっか」


「…うん」


「…」


「…」


 …なんだこれ! 沈黙が気まずい! 話すことがない!

 今まではニプロパとラルフがいたからなんとも思わなかったが、アンネと二人になる事なんて今までなかった。

 どうすればいいんだ、接し方が分からん。

 農家の主人の息子といた時はどうしてた? あの時は確か…あいつがずっと話してたな。

 どうする、アグニ。お前はイフルランドの王子だぞ! こんな事で動揺してどうする! どうにかして場を持たせるんだ。


「あー…今日は天気がいいな」


「え? 木で空見えないけど、お兄ちゃん見えるの?」


「あ、いや、見えないな」


「そうだよね」


「そうだな」


「うん」


「…」


「…」


 チチチチチチっ

 小鳥のさえずりがどこからか聞こえる、サラサラと水の流れる綺麗な音。のどかだなー。

 じゃなくてー! 現実逃避するな俺! やばい、やゔぁい!

 本当になにも浮かばない、どうしよう。

 攻め手がない! ここで終わるのか俺! 頑張れないのか俺! 俺!


「アグニお兄ちゃん」


 突然の助けは目の前にいました。

 内気なアンネから話しかけてくれるなんて、なんと可愛い天使なんでしょう。頭に輪っかと、背中には白い羽も生えて見えるわ。好き、こんな子超好き。



 …いかんいかん、子供相手に何を思ってるんだ。

 冷静に反応しよう、冷静に。


「ん?どないした?」


「どないした?」


 冷静になりきれなかったー!

 変な口調になっちゃったよ。

 でも幸いアンネもそこまで気にしてないみたいだから大丈夫、これから、これからだから!


「アグニお兄ちゃん本当はアウターなんでしょ?」


「にゃんー!?」


…へんな声が出た。

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