14.山賊殺し
とうとう始まった山賊を殺した男との対決、不気味な雰囲気を漂わせつつも戦闘は激しくなっていきます。
先手を打ったのは大男、不気味に刀身が光る大太刀を肩に担ぎ一直線に突進して来る。
大きな体だからか、そこまで早いとは思わない。
いや、実際には早いんだろうな。
でも、もっと早い奴とこの前戦ったばかりだからか、対応できない早さじゃない。
色々な事が経験値になるんだな。あの野郎に感謝感謝。
―私が足止めを、アグニさんとラルフさんは正面と背後からの攻撃で決めてください!―
ニプロパが頭の中に直接話しかけて支持すると同時にラルフがビクッと体を飛び上がらせている。
「うぉっなんだこれ! 頭に直接声が聞こえる! これがアグニが言ってたニプロパさんの能力なのか?」
―えぇ、私は一度触れた人間には頭に直接話しかけることができるんです。前にも言いましたが私も勇者ですからね。まぁその他にも色々できますが、おいおい説明します。とりあえずはこれが私のスキル、テレパシーだと思ってください―
「なーるほどなー って! それなら早く言っててくれよ! いきなり頭に声が聞こえたらびっくりするわ!」
そうだった。ラルフは今まで聞こえてなかったんだったな。ニプロパは自分のことはあまり話さないからな、それに転生勇者のスキルっていうのはきっと自分の命綱のようなものだからあまり話したくないのかもしれない。
―あっれー?言ってませんでしたっけ?言ってたかなーと思ってたんですけどね。てへぺろっ! ―
……もしかしたら俺の深い読みは全く間違っているのかもしれない。てへぺろって……ニプロパがアホで、ただスキルのことを忘れていたかもしれないな。
「まったく、ホウレンソウは大事だからな。とりあえずわかった!」
お前は仕事の上司か! とツッコミたくなる気持ちを抑え攻撃に備える。
あれ? でもシノブとの戦いの時、俺ニプロパに触られてなかったよな? なんで最初から話せたんだ?
そうこう考えているうちに男が目前まで接近し、上段から大振りの一撃が振り下ろされる。
ひょいと横回転して攻撃をいなし、背後に回る。
今は考えている暇はなさそうだ。
ズドンという音とともに大太刀が血に染まった芝生を巻き込みながら地面にめり込む。
男の動きが一瞬止まった瞬間、ニプロパが足に投げナイフを放ち、足止め。
こいつの武器は投げナイフだったんだ、一緒に戦ったことがなかったから初めて見るな。
さっきの話によるとニプロパのスキルは直接人を攻撃するものではなく、サポート向きなスキルなのだろう。
だから後衛で戦える遠距離武器にしたんだろうなと勝手に考察してみる。
続けてラルフが地面に深く刺さった大太刀の棟(太刀の背の部分)を器用に歩き、大男の横っ面を殴りつける。
どんな強靭な人間でも脳しんとうを起こしてしまえば体は言うことを聞かなくなる。フラついているところに横回転の遠心力を利用して威力が増したトドメの突きをちょうど心臓がある位置であろう脇腹に穿つ。
ぐさっと刃物が骨と骨の間に入り込む感触、手応えあり!
怒涛の三連撃、付け焼き刃にしては悪くない。
「ぐはっ……なン、ダと。これが、一瞬デ……?」
フラつきながら数歩歩き、膝をつく。
咳き込むと同時に口から血を流し、地面に力なく倒れ込んだ。
脇腹からはどくどくと血が溢れだし、男が事切れた事を悟らせる。
「案外、そうでもなかったな」
ふぅー、と大きく息を吐き、背中に槍を戻す。
人間と比べると身体能力も反応速度も魔族が上だ。
ただの人間だとこんなものなのかもしれない。
「あぁ、手応えがなさ過ぎるくらいだ。本当にこいつが山賊数人を殺ったのか?」
たしかに、山賊たちを倒したにしては弱過ぎる。
でもこいつについていた傷を見ると山賊と一緒にいたことはまず間違いない。が、今はそんな事言ってる暇はない。
アンネ、アンネはどこだ!
「手分けしてアンネを探すぞ! きっとそこまで遠くに入っていないはずだ」
「だな、俺はこいつが来た方向を探す……! アグニ! 後ろだ!」
「なにがだ? っ!! がっ!」
ラルフの声と同時に背中に衝撃が走る。後ろを見るとさっき倒したはずの大男が笑った様な目で大太刀を振り抜いていた。
「油断ハ大敵だロぉー」