12.凄惨な現場
広場に出た四人は死臭漂う惨状を目の当たりにします。
そこで思いがけないトラブルが巻き込まれるのでした。
森を抜け、広場に足を踏み入れる。
「これは…」
ひどい、まるで地獄絵図だ。
広間の大きさはそれほどでもない、半径5メートルほどの円形。
そこにさっきの死体と同じ服装の男達がざっと5人、あたりは血の海になり、無残な殺され方をして転がっている。
首が胴体から離れているもの、心臓を抉り出されてあるもの、手足を切り取られているものまでいる。
「ニプロパ、また少しの間アンネを頼む」
アンネをまた離れたところに連れ出そうとするが、後ろの裾をぎゅっと掴んで離そうとしない。
「アンネ、大丈夫。アグニお兄ちゃんのそば、離れたくない!」
また離れるのが怖いんだろうな、裾を掴んだ手が最初に会った時の様にふるふると震え顔はうつむいている。
今アンネを離すのは得策ではないのかもしれない。
「…きついぞ?いいのか?」
小さい顔が小さく頷き、しっかりとその小さな瞳で広間の惨状を見据える。
強い子だ。とりあえず、山賊を殺した犯人が何者なのか手分けしてこの広間を調べよう。
アンネのことは任せていいと思ったのか、すでに二人は死体を調べている。俺もすぐに取り掛かろう。
調べてわかった事、山賊の人数は正確には六人。それぞれ黒ずくめの服を着て黒いターバンを頭に巻いている。
武器も等しく曲刀。いかにもって言う感じだが、この服装が山賊の共通衣装なのかもしれない。
「やっぱり致命傷はさっきの山賊と同じように全て刀傷ですね。でも、殺し方が酷すぎます。一体なんでこんな殺し方をしたのでしょう」
ニプロパが不快感を隠さず顔をしかめる。死体ってだけで本当は相当ストレスなのに、こんなものを見せられたら寝覚めが悪いってもんじゃない。
「わからんな、考えられるのは村を襲撃された村人が追いかけてきて、恨みに任せてこんな殺し方をしたとかか? アグニ、どう思う?」
「確かにありえる。でも、こんな大人数に勝てる程の奴が村にいたら、そもそも村は奪われなかったんじゃないのか?アンネ、お前の村には剣の達人はいたか?」
俺の問いにアンネは首を横に振って答える。
「ううん、剣を使って、村を守ってた人はいたけど、山賊にすぐやられちゃった。その人以外で、剣は使えないと思う…あ、でも」
思い出したようにアンネが裾をくいっと引っ張る。
「山賊が来る少し前に、大きな刀を持った男の人が、村を立ち寄ったの。気付いたらいなくなっちゃってたけど、もしかしたらその人がやったのかも」
大きな刀を持った男、取ってつけたようにぴったりな奴が出て来たな。この惨状はそいつの仕業なのだろうか。
「なるほどな、だがなんだってその男がアンネを追ってきた山賊を皆殺しにしたんだ?その男は特に山賊に恨みもなかっただろうし」
んー、でもこの殺し方はどう考えてもおかしいよな、恨みがないとしたらなんでこんな事したんだろうか。
「おそらく、アンネを追っていた山賊がここの泉で宿を取っていた男を見つけて子供より大人の方がお金も持っていると踏んだんでしょうね。それで目標を変えて襲いかかった。でもその男の方が強くて返り討ちにあったんでしょう」
それなら話が通るな。一人で旅をする男だ、腕には相当自信があるだろう。
「ここまで来るときにはそいつは見なかった。もしかしたらその男はまだこの山にいるか、村に戻って山賊とやりあってるかもしれない。こんな酷い殺し方をする奴だ、敵が味方かもわからんが、とりあえず村へ急ごう」
「だな。気を引き締めて向かった方が良さそうだ。」
「えぇ、危険ですが夜も移動しましょう。明け方には到着するはずです。…アグニさん!」
ニプロパが移動を開始した直前、こっちを見るや否や叫ばれた、なんだ? 敵ならいないと思うが。
「おいおい! アグニお前、なんで目を離した!」
「あぁ? 目を離したって何がだ…ってアンネ? おいアンネ!」
おいおいまじか、アンネがいなくなった! さっきまで後ろにいたのに。
なんだってこんな時にいなくなるんだ、もしかしたらこいつらを殺した奴がまだいるかもしれないってのに…くそ! 俺のミスだ!
「とりあえず探すしかない、手分けしてここら辺を捜索しよう!」
「その必要はナイ」
聞きなれない声に全員、声のした方に向き直る。
「お前らはここで死ぬんだからな」
空気が禍々しく震えるのを確かに感じた。