11.山賊
ニプロパが発見した一人の死体。この死体の発見を機に物語は少しづつ動くのでした。
リンド村編と言いつつも、まだ村にもたどり着かないゆっくりなアグニ達ですが、ここを描いておかないと物語が成立しないのでよければ見てください。
「ニプロパ! どうしたんだ!?」
「これを…」
ニプロパが指差す方向に目をやると、すでにこと切れた男の死体が横たわっている。後ろをついてきていたアンネに向き直り、目を覆う。子供にはきつい現場だろう。
ニプロパに頼み、目の届く範囲で少し離れたところで待っていてもらおう。アンネもなんとなくわかったのか素直に従ってくれた。
「これは、山賊の死体か?」
少し遅れて来たラルフが死体を調べる。
「こいつが山賊だとしたら、もう何人かいるはずだ。王子、周囲に警戒しとけよ」
確かに、死体は一人だけ、アンネは何人かの山賊が追ってきていたと言っていた。辺りを見回しても死体はこれだけ。ならほかの山賊はどこに行ったのか、答えは三つ。
一つ目、何かしらの理由で山賊は村に戻っている。
二つ目、ほかの山賊はまだ生きていて、側で俺たちを狙っている。
三つ目、アンネを追っていた山賊全員が殺されている。
一つ目は可能性的には五分五分だろう。何者かに仲間を殺されて逃げ戻るか逆上して戦うという線もある。
二つ目の可能性はかなり低い、理由はニプロパが一人になった状況で襲撃されなかったからだ。4人のうち一人が分断された状況は、襲う側にしたら格好の獲物になりうる。それをしてこなかったという事は、二つ目はほぼないと言っていいだろう。
三つ目も一つ目同様に五分五分。一つ目で山賊の一人を殺した相手に、別の場所で全員殺された可能性もある。
「この傷…これは魔物にやられた傷じゃない。これは刀で切られた後だ」
「魔物じゃないのか? ならいったい誰が? 山賊同士が仲間割れしたとかか?」
「分からん、だがこの刀傷、なにか変だ」
へん?
横たわっている亡骸を改めて観察する。男の亡骸はうつ伏せに倒れていて、致命傷は首元に見える深い刀傷だろう。
しかし、傷はそれだけではない。身体のあちこちに無数の切り傷がつけられている。
しばらく苦しんだのか、血とともに地面を這った跡が森の奥に続いている。切られたのは森の奥ってことか。
変なところといえば無数の傷と這った跡があるくらい、傷には特に変なところはないと思うが。
しかしラルフは傷をしばらく観察した後、首をかしげる。
「この無数の傷…自分で自分を切りつけた様に見えないか?」
「自分で切ったって、なんでそんなことを…」
首の傷があるのは右側の首元、確かに相対した的に首を切られるなら喉元に傷が入っていてもおかしくないが、この死体は正確に首の血管を掻っ切っている。
そして身体の傷も、剣を持っていた右手周辺は無傷で自分で切りつけられる場所に傷がある。まるで自分で身体を刻んだ後、とどめに首を切った様な感じだ。
確かに変だな。
「わからん、とりあえずこの血の跡をたどってみるか。何かわかるかもしれない。」
「油断するなよ。アンネには俺の後に付かせて、すぐ逃がせる用にしておこう。いいな?」
ラルフが少しびっくりしたように頷き、ニプロパとアンネに話してゆっくりと血の跡を辿る。
「アグニ、お前いつから子供好きになった?」
「あ?子供好きってより守りたくなっただけだ」
「子供好きと何が違うんですか?」
うるせーやい、色々あったがお前らには教えてやんねー。
「アンネ、大丈夫か?」
「うん、だいじょぶ」
「そっか、ゆっくりで良いからな。気をつけて進めよ」
うん、とアンネは小さく頷くと、俺の背中の裾をぎゅっと握りしめた、そりゃ追いかけられた奴が死体になってたら怖いよな。
「少し拓けたところに出るみたいです。出てみましょう」
薄暗い森の向こう側に日の光が差し込んでいる。おそらくこの先に何かがあるんだろう。
ラルフがいつでも戦闘に移行できる様に半分人狼の姿に変わり、茂みの陰から広場の様子を伺う。
お兄ちゃん耳出てるよ!と小声でアンネがびっくりしているが静かになだめてラルフの反応を待つ。
「おいおい、こりゃなんだよ」
隠れていた茂みからラルフが急に立ち上がり、俺たちの方を振り向く。翡翠色の瞳が驚愕の色に染まり広場を指差す。
「こりゃ、大変な惨劇になってるぞ」
俺とニプロパも立ち上がり広間を見る。
「これは…ひどい」
ラルフの言葉の意味がわかるのにそう時間はかからなかった。
「三つ目だったか…」