10.守りたい者
アンネに魔族だとバレたアグニ。
そこからアンネの人となりがわかってきます。
私的にはアンネはすごい好きなキャラなのでもっと掘り下げてもっともっと物語に絡ませていこうと思います。
「アグニお兄ちゃん本当はアウターなんでしょ?」
「にゃんー?」
「…」
これは動揺するよね? ね?
知られたらまずい事をなぜか自信を持ってバレてるんですからね?
どうする、なぜかはわからないけどアンネには俺の正体がバレているのか? いや、これはカマをかけられているのかもしれない。
ここはとりあえずしらを切るか。
「そ、そんなわけないじゃないか! 何度も言ってるがこの角は魔王ごっこで…」
「うそ、アンネ、わかるもん。アウター達には何度も会ったことあるし、なんとなく人間とアウターの違いがわかるの」
魔族と人間の違いだと? たしかに魔族にはいろいろな奴らがいるが、俺やラルフの様に人型の魔族と人間では見分けがつかないほど同じはずだ。
それを見分けられるなんて聞いたことがない、もしそれが本当だとしたら相当厄介だな。
アンネはともかく俺たちが魔族なのが見分けられる奴が村にもいるかもしれない。
「…仮に俺たちがアウターだったらどうするんだよ? 親に言って退治してもらうか? それとも勇者に報告するか?」
どちらにしても二つに一つだ。
でもまぁ、これが通常のアウターへの対応なんだよな。
人間は決して俺たち魔族の自由を許さない。
魔族がいたら捕らえるか、無理だったら勇者に報告して処分。それが当たり前なんだ。
だからバレてはいけない、自分たちの命を守る為に。
しかし、アンネは訝しげな表情一つせず、大きく首を横に降った。
「…ううん、そんなこと、しないよ? お兄ちゃん達はアンネを、助けてくれたいい人だもん。アンネ、この事は誰にも言わない」
「!? いいのかよ?」
「うん! 秘密にする。だからおねがい、村を、お父さんとお母さんを助けて?」
正直びっくりだ。
過去にも人間を救った事は何回もある。
でも、俺たちがアウターだとわかった瞬間、手のひらを返したように罵倒し、殺そうとする。
そんな理不尽な事が当たり前だった。それがこの少女は俺たちがアウターであることを知っていながら、それでも助けて欲しいと頼んでいるんだ。
「…」
「お兄ちゃん?」
少しの間、言葉が出なかった。
泉からの涼しい空気が二人の間を抜けていく。
正直戸惑っている。
今まで魔族と知っていてもなおこんなに頼ってくれている人間は初めてだ。
この子は俺たちを利用しているんじゃない、頼ってくれているんだ。
「あぁ、あぁ任せとけ! 俺たちが必ず村を取り戻してやるからな! 俺は魔族の王、アグニ・イフリート。魔王の約束は絶対だ!」
この子だけは絶対助けなければならない。
これから先、この子の様な人間がいれば、またいずれイフルランドとシルフランドは手を取り合っていけると思える。
「魔族の王さま?イフリート…そうか。魔王なんだ」
「ん?アンネどうかしたか?」
アンネを見ると、手で顔を覆ってうつむいている。
前にも山での事を話してた時に顔を隠していたけど、何か考える時の癖かなんかなのかな?
「…ううん、なんでもない。ありがとうアグニお兄ちゃん、約束ね?」
すぐに顔を上げてニコッと笑顔を見せてくれる。
気にしすぎだな、心配する事ないか…
「あぁ、約束だ。…ところでアンネ、少し気になったんだが、聞いていいか?」
「ん?なぁに?」
おれに慣れたのか、少し距離を置いて座っていたアンネがトタトタトと走ってきておれの横に座り、腕にギュッと抱きつく。
若干気恥ずかしいが、悪くない。
「村人もみんな人間と魔族を見分けられるのか?それと、お前さっきアウター達・には会ったことあるって言ってたよな? どこでそいつらと会ったんだ?」
アウターと人間を見分けるなんて、できるとしたら相当魔族を見ていないとできない事だ。しかも俺とラルフの様に人型ならなおさらだ。
村人がそんな能力を持っているとしたら、最悪村人とも戦わなければならない。
「あーそれか。村の人たちは見分けつかないよ? それと魔族はね…」
思い出にある宝箱を開ける様にアンネはニコリと笑ってポツリとこぼす。
「7年前、いっぱいみたよ?」
「!! それはどういう意味だ?」
さっき頭に石を投げられた時の様な衝撃が走る。
なんでアンネが7年前にそんなにアウターを見ている?
7年前、それはイフルランドがシルフランドに滅ぼされた年、魔族の大量虐殺があった年って事だ。
それを見ていたってことはアンネもその場所にいたってことなのか?
という事はアンネは魔族を、父さんを殺した勇者の仲間って事になるのか?
そんな、まさか。
「アンネの村は、イフルランドとシルフランドを繋ぐところだったから、沢山のアウターが降参した後ここを通ったの。」
そういうことか、自然と背中の槍を握っちまった。
さっきアンネを守るって約束したばっかりなのに、しっかりしないと。
「そ、そうか。そういう事だったのか。びっくりしたぜ」
「ふふっ、アグニお兄ちゃん、びっくりしてる。なんでかな?」
また顔を覆ってうつむいている。
でも今は笑ってるのがわかる、やっぱり癖なんだな。
とにかく良かった、もしアンネが子供でも勇者だとしたら、自分で魔王だとバラしてしまった事になる。
ニプロパが言うには、転生した人間は子供の時から魔王は悪だと刷り込まれていると言っていた。
なら魔王と知った途端襲いかかってきてもおかしくなかった。アンネは違ったにしろ、今後気をつけよう。
「アグニさん!ラルフさん!こっちに来てください!」
「ニプロパ? どうした!? アンネ、行くぞ!」
「うん!」
突然、森の中からニプロパが大声で呼びかける。
声から察するに、あまり良いことではなさそうだ。アンネを引き連れ、急いでニプロパの声がした方に向った。