1.魔王の息子
はじめまして池田池と申します。
同じ物語を小説家になろうで描いていたのですがログインができなくなったため新しくアカウントを作ってこっちで書くことにしました。
更新頻度は高くないとは思いますが良ければ見てやってください。
流れ星が降る。
夜空一面の流れ星。
あぁ、またこの夢か…
いつものように見る昔の記憶の夢。
そこで俺はいつも城のベランダにいて、もう顔も覚えていない父親と一緒に炎の灯りで照らされ、活気付いた城下町を見下ろしていた。
空を見上げながら2人で笑い合い優しい時間を過ごしていた。
とても幸せだった記憶。
でもこの夢はこれだけでは終わらない。
「敵襲ー! 敵襲ー!ぐはぁっ」
門を警備していた兵士が頭と胴体が離れ離れになり、主人失った胴体はゆっくりと倒れ落ちる。
突如として城に火の手が回り人間が魔族を無慈悲に、冷酷に蹂躙し始めた。
早く逃げなきゃ、石畳の廊下を父さんに連れられて悲鳴や叫び声の合間を走り、城中心にある大広間に出る。
そこはあたり一面、血の海だった。
切られた死体、焦げた死体、凍りついた死体など、見るも無残な死体が無数に転がっていた。
「…い」
いつのまにか手を話していたとうさんが遠くで俺を呼んでいる。
早く行かないと、殺される。
勇者たちはもう真後ろまで来て捕まえようとこちらに手を伸ばしている。
しかし走っても走っても、逃げても逃げても、距離は縮まるどころかどんどん離れていく。
「…おい」
待ってよ父さん…僕を置いていかないで!
怖いよ! 父さん!
手を伸ばしても見えない壁で届かない。
乱れる呼吸、むせ返る死臭に焼ききれそうな炎。
父さんはその燃え盛る炎の中に消えて行った。
その瞬間、なにかの衝撃で強制的に現実に引き戻された。
「おいアウター!いつまでも寝てんじゃねぇ! 」
声がはっきり聞こえた時には枕がわりにしていたカバンをとられ、頭をもろに地面に強打した。
「った! …あれ、父さん?」
「誰がお前の父さんだ! 寝ぼけてねぇでさっさと支度しろ!」
目の前にいるのは父さんではなく、住み込みで働いている農家の見た目はダルマの様な人間の主人で、今いる場所は城ではなく従業員が寝泊まりする納屋。
夢とはえらい違いだ、まぁ炎が出てないからまだましか。
「ったく、これだからアウターは。次やったら国王軍に引っ立ててもらうからな!」
悪夢から起こしてもらったことには感謝だけど、朝から主人の仏頂面を見るのもなかなかの目覚めの悪さだなー。
「はいはい、今から支度しますよ」
ったく、なんだその言い方はっ!と悪態を垂れながらそそくさと主人が納屋から出て行く。
あまり関わりたくないんだろうな、まぁ俺が主人の立場だったらそもそも雇いもしないんだろうな。
主人の言っていたアウターというのは、俺のような人間ではない、悪魔や人狼、ヴァンパイアなどの昔は魔族と呼ばれた種族のことだ。
元は魔族の国イフルランドで生活していたが、七年前に人間族の国シルフランドから送られてきた・勇者・という大勢の人間達に滅ぼされて以来、魔族という括りを奪われて、アウターという呼び名になっている。
詳しい話は、まぁおいおい話すとして滅んだ国の民は散り散りになり大半は奴隷になって、家畜以下の生活を強いられている。
人間に捕まっていない魔族の一部は、未だに人間に歯向かったりしているのだが、稀に俺のような表向きには素性を隠して雇用賃金が安いからとアウターとわかっていながら雇い入れるところでその日暮らしをしている。
ここでは俺ともう一人、そんな奴が住み込みで働いている。
今の仕事は割と条件が良く、食事もついて寝床もあるため、主人の機嫌に目をつぶれば結構住みやすかったりする。
起き上がり、枕にしていたバックから作業着を出して袖を通し農作業で鍛えられたお腹をぽりぽりとかきながら外に出た。
太陽が煌々と黄金色の畑を照らし、主人がイライラ顔で早くしろっと俺を急かしている。
もう少し痩せて、仏頂面でなければまるで金色の野に降り立った青き衣を纏いている虫使いの有名人みたいにな幻想的な風景なのになー。
…さて、この黄金色の作物は俺のいた国にはなかった麦という植物で、粉にして色々使えるらしい。
イフルランドが滅ぼされてからというもの、ある事情によりシルフランドの文化レベルは飛躍的に上がり、今では他国とは比べ物にならないくらい豊かになっている。
納屋の隣にある井戸から水を汲んで顔を洗い、袖で顔の水を拭った。
忘れてはいけないのが、頭の横から生えている2本の角を腰に巻いていた布で頭に巻いて隠すこと。こいつを隠しておかないと人間の従業員に見られると軍に密告され勇者が捉えにきて人生終了。
全く、生きづらい世の中だよホント。
さて気を取り直して仕事…と言いたいところだが、一つやらねばいけないことがある。
「俺を裏切った犬っころを探すとするかねー」
納屋で生活しているもう一人のアウター、あいつに用事がある。
朝はいつも起こしてやってるのに、俺が寝坊したら起こしもしないでそのまま仕事に行く薄情者を捜索しなくては。
まぁ奴も職場は同じだから結局は行くところは同じなんだけど。
傍にあった仕事で使う古びたくわを携え、どんな仕打ちをしてやろうかと考えながら意気揚々と職場に向かった。