恋バナ
次の日、星野はあの本を持ってサークル室へと向かった。
「分からないな」
サークルの人たち全員に伝説のことについて尋ねたが、全員同じような返答をするだけだった。
かなり詳しい人に尋ねても答えが返って来ない。
「前途多難だな…」
星野が落胆していると、サークル室に高橋が入ってきた。
色々な人に話しかけているところを見ていたのだろう。
怪訝そうな顔で話しかけてきた。
「何やってるの…?」
星野は特に期待もせずに、伝説のことについて高橋に尋ねる。
返ってきた返事もやはり同じものだった。
それどころか、高橋はすぐに話題を切り替える。
「そういえばさ、俺の知り合い他大の先輩捕まえたんだって。良いよなあ」
高橋がさぞ羨ましそうに話している。
高橋が持っている携帯の画面に映るメッセージアプリには、同級生や大学の先輩など様々な女性とのやり取りが残っている。
ただどの女性からの返事も返ってきていない。
「お前は好きな人とかいないの?」
高橋が突如星野の方に向き、質問した。
突然の質問に星野は固まった。
「恋とかよくわからないんだよね。好きとか愛とか、昔からそういうの疎遠っていうかさ。あれって好きってことだったのかなって思っても自信は持てないし」
「疎遠とか自分で言うか。自信とかそういうのじゃないだろ」
高橋はため息を吐きながら視線を携帯に戻す。
「お前はホント恋愛に興味ないよなあ…」
さっき見えた人とは違う人にメッセージを送りながら、高橋がポツリと呟いた。
その後時間が進みサークル室から人がどんどん出て行っても、星野は残って部屋にある資料を漁っていた。
「何やってるの?」
北川がサークル室に入ってきた。
「例の伝説についてさ、何かヒントは無いかなって。北川は?」
「忘れ物取りに来たの」
そう言って北川は机の方に向かった。
星野も渉猟を再開する。
「さっき高橋くんと恋バナしてたの?」
北川が沈黙を破った。
「え?」
「さっき、高橋くんと好きな人とか何とか話してたでしょ?」
いたんだ、という様な目で星野が北川を見る。
「別に恋バナとかじゃないよ。いつもの如く、一方的にあいつの愚痴を聞いてただけ」
「そうなんだ。恋バナ、私もあまりしないかも」
軽く笑ってそう言うと、北川は部屋を出て行った。
女子が話す恋バナって何となく凄そう。そんなことを考えながら資料を再び読み返す。
どうして伝説のことについて、あの絵本のことについて、ここまで気になるんだろう。
調べたいと思ってしまうのだろう。
その答えは星野自身にも分かっていなかった。
ただ何か衝動的に引っ張られてしまう。記憶の中の本能が背中を押してくる。
しかしこの時はそれはまだ、星野の中には一種の知的好奇心のような形でしか現れていなかった。
ゆっくりと、錆びついた歯車が動き出した。
第1章 「歯車」終了