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第9話 堕ちに堕ちた男

「これが最後のチャンスだ! どんな手段を使っても構わん! とにかく極小魂石の魂を50個集めて来い! それができなければ貴様はクビだ!」

「……分かりました」


 店の奥でバルウィンに最終通告を受けたベルトランは、トボトボと冒険者ギルドへと向かう。



「……あーん? 何だあの人だかりは?」


 待合室の奥で二人の男女を、冒険者達が囲っていた。


「ハンティングガイドはいらないんで、報酬の1割で装備のレンタルだけさせてくんないすか?」

「馬鹿野郎! 知識は装備以上に重要なんだぞ! それが分からない奴はすぐに死ぬ! ハンティングガイドと装備レンタルは必ずセットだ!」


「す、すみません! 俺の考えが浅すぎでした!」


 若い冒険者が、必死に男に頭を下げている。


「あのー、高難易度の依頼に挑戦したいんで、ハンティングガイドとレンタルお願いしたいんすけどお?」

「勘違いするな。お前達に装備と知識を提供するのは、身の丈に合わない依頼を受けさせる為じゃない。ケガをせずに、冒険者稼業を続けてもらう為にやっているんだ。死に急ぐような真似をするんじゃない。いいな?」


「そ、そうだったんすね! 俺達の事を思っていただきありがとうございます!」


 生意気そうだった冒険者の態度がコロリと変わり、男に敬意を込めたお辞儀をしている。



「――なんなんだありゃ? この前もいたが、新しい商売なのか?」


 冒険者ギルドが始めたのか? いや、それとも鍛冶屋か?

 そんな疑問を抱いていたベルトランだったが、冒険者の輪が割れた事で謎が解けた。



「エージさん。俺達じゃ、まだこの依頼は無理だって分かってます……でもどうしても村に金を届けなきゃいけなくって……」

「ゴブリン10匹か……いや、今のお前達ならいける。もちろん俺のハンティングガイドと装備があればだが。――やってみるか?」


「本当ですか!? ぜひともお願いします!」


 4人の少年冒険者は互いにハイタッチをする。



「……エージィィィィィ! あのゴミクソ野郎……!」


 ベルトランは自分の左腕を見る。

 肘から先はもうない。毒により、完全に壊死してしまったのだ。


「俺の腕をよくもぉぉぉぉ……! すべてテメエのせいだぞぉぉぉぉ……!」


 よだれを垂らしながら、エージを睨みつけるベルトランを見て、周囲の冒険者達がヒソヒソと話をする。



「よし、では行くぞ」

「はい!」


 エージは、犬耳族の女と4人の冒険者を引き連れ、ギルドの外に向けて歩き出した。


「エージさん、これでまた魂10個ゲットですね! ほら見て下さい、もうこんなに溜まってるんですよ!」


 犬耳族の女は背負っていたバックパックを開けて、中身を見せた。


(おいおいマジかよ! 封入済みの魂石が100個はあるぞ!)


「……マルティーヌ。いい加減、店に置いておかないか? 重いし、邪魔だろう?」

「えへへ。これは仕事がうまくいった証ですから、見ると元気が出てくるんです。だからずっと持っていたいんです」


 エージと冒険者達は微笑みうなずくと、外に出て行った。



「……あの魂石、銀貨1枚で買えねえかな?」


 絶対無理なのは分かっている。封入済みの極小魂石1個の相場は銅貨8枚。

 50個買うには、銀貨4枚が必要になる。


「……ん? 待てよ?」


 その時不意に、バルウィンの「どんな手段を使っても構わん!」という声が、ベルトランの頭の中で再生された。


「――そうか! 何もゴブリンを殺さなくたっていいんだ! 持ってる人間から奪っちまえばいい……!」


 ベルトランは自分の柔軟な思考力に酔いしれながら、ガタンッと席を立ちあがる。

 そして、最もガラの悪そうな連中のところまで歩いて行った。


「……なあ、お前ら。ゴブリンよりよっぽど楽に殺せて、稼げる仕事に興味はねえか?」


 本日は、14時、17時に投稿します。それで第二章は終わりです。


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