第2話 希望にあふれた奴隷生活
1か月後。
一命を取り留めた俺は、囚人奴隷強制労働場にいた。
「112番、作業開始だ。牢から出ろ」
「はい、看守殿」
牢屋から出ると、看守に引き連れられ、いつもの作業場へと向かう。
錬金と付呪の道具が置いてある小部屋だ。
俺はここで、ツルハシやクワのメンテナンスや、奴隷達に飲ませる薬を作製している。
「今日はツルハシが2つにクワが3つだ。あと解毒剤を10頼む。腹を空かした奴隷どもが、変なキノコを食べたらしい」
「かしこまりました看守殿」
俺は解毒剤を調合し、抽出をおこなっている間に道具の魔力充填をおこなう。
このツルハシとクワには、威力上昇の魔法が付呪してある。
この魔力は使用するたびに減って行くので、魔力が切れたら魂石を使って補充してやる必要があるのだ。
「――ああ、それとクワが一本折れたんだった。新しく作っておいてくれ」
「かしこまりました。お任せください看守殿」
新規に付呪する仕事は、俺の密かな楽しみだ。
自分でルーンを彫る事は、ただ魔力を補充するよりもずっとやりがいがある。
それともう一つ理由が……。
「やはりそうだ……俺は低能なんかじゃない……!」
威力上昇のルーンを刻み終えたクワを鑑定して、俺は感動してしまう。
今回使った魂石は下から二番目の小魂石だが、このクワには大魂石を使った時と同等の魔力が宿っているのだ。
これは、俺の付呪スキルが極めて高い事を示している。
「今まで低品質な物しか作れなかったのは、過労状態だっただけなのか……!」
よく考えてみれば、当然の事ではあった。
どんなに優れた戦士だって、何日も休まずに戦っていれば、そこらの雑兵よりも弱くなるだろう。
「1か月が経ち、肉体的疲労と精神的疲労が癒された事で、本来の力を取り戻したという事か……ん? まだ魂石に力が残っているぞ?」
これはまだ付呪ができる事を示している。
俺は試しに、耐久力強化のルーンを刻んでみた。
威力上昇と耐久力上昇のルーンが鈍く光る。
「信じられない……! 俺に二重付呪ができるなんて!」
一つの物に同時に二つの付呪ができるスキル、二重付呪。
それを持つ付呪師は、世界に数人しかいないと言われている。俺は類まれなる才能の持ち主だった。
「どうした112番? 終わったのなら、奴隷達の元へと道具を届けに行ってくれ」
「はい! 看守殿!」
俺は囚人奴隷という立場に落とされていながらも、自分が優れた付呪師である事が分かり、嬉しくてたまらなかった。
「――まさか、自分の本当の力に気付くのが、奴隷になってからとはなあ……」
殺人未遂の罪はまぬがれたものの、ベルトランとロックウェルへの傷害の罪で、俺は2年間の強制労働の刑となった。
一方、マルティーヌを殺したベルトランの罪はと言うと……。
「クソ! マルティーヌがただの物扱いなんて……!」
俺は嫌な記憶を思い出してしまう。
ベルトランの罪は、ただの器物損壊罪だった。
法律上、犬は物でしかない。奴は罰金銀貨2枚を払っただけで釈放された。
「俺はあいつを絶対に許さない……! 必ずマルティーヌの仇を討つ!」
奴への復讐を果たすまでは死ぬわけにはいかない。
この過酷な強制労働場で、その意思は最大の生きる糧となっていた。
「――皆さん、お待たせしました」
「おお、もう終わったのか! さすがだな、エージ!」
囚人奴隷たちが、クワとツルハシを受け取りに来る。
(……皮肉なものだな。犯罪者の方が、俺の仕事を認めてくれるのだから)
この強制労働施設の囚人達は粗暴な者ばかりだ。
だが、愛犬の仇を討とうとして捕まった俺に同情的で、好意的に接してくれる。
サルヴァトーレ錬金付呪店の奴等より、はるかに良い人達だ。
俺は自分の分のクワを手に取り、畑を耕し始める。
「――お! なんかこのクワ、いつもと感触が違うぜ!」
俺の隣にいる囚人が話し掛けて来た。
「ええ、実は耐久力強化の付呪もしてあるんです」
「ほおー! よく分からんけど、何かスゲエって事だけは分かるぜ!」
俺は微笑む。
彼の左足は義足だ。――と言っても、ただの木の棒なのだが。
この強制労働施設にいる囚人たちは、ほとんどが手足を損傷した元冒険者だ。
依頼を受ける事ができなくなった彼等は、そのまま野垂れ死ぬか、食べ物を盗んで生きるかを選ぶしかなかった。
彼等は生きる道を選び、捕まったのだ。
だが、ここは強制労働場。働く事ができなければ殺処分の運命が待っている。
それを何とか避けるため、俺は余った木材で彼等に義肢を作った。
「お前のクワと義足のおかげで、俺は何とか殺されずに済んでる! ありがとな!」
「いえいえ」
威力強化があれば、粗末な義足のせいで踏ん張りがきかなくても、それなりに耕す事ができる。
俺はここに来て、初めて錬金付呪師として人の役に立てているという実感が湧いていた。
――数日後。
「エージ、ちょっと来てくれ」
「どうした?」
隻腕の囚人ティモンに連れられ、用具入れのドアの前まで連れて行かれる。
「――中をのぞいてみろ」
何となく想像はつきながら、俺はドアの隙間から中をのぞく。
「……やはりな」
この強制労働場で最も体がデカく、腕っぷしが強いと言われているアシュワルドが、先日入ったばかりの12歳の少年を暴行しようとしていた。
「――どうする、もっと仲間を呼んでくるか?」
「いや、俺1人で大丈夫だ」
バンッ!
俺は用具入れのドアを勢いよくあける。
「な、なんだ!?」
「アシュワルド、弱い物イジメはやめろ」
「うるせえ! ぶっ殺すぞ、この野郎!」
俺はすぐ近くに置いてあったホウキを手に取ると、突っ込んで来たアシュワルドの喉目掛けて柄で突いた。
「オゴ……オゴゴ……!」
これでまともに呼吸ができなくなった。戦闘不能だ。
「――さすがだな、エージ。後は俺達に任せてくれ」
ティモンは少年に仲間を呼びに行かせた。
俺はホウキを置き、また畑へと戻る。
アシュワルド程度では、俺の相手にならない。
何せ俺は“ソロ”で魂収集をしていたのだから。
バルウィンは、魂収集の経費をごくわずかしか支給しなかった。
なので、普通に冒険者を雇っていたら、自腹を切る羽目になってしまう。
俺は、ある程度の魔物なら、1人でも倒せるように戦闘技術を磨いたのだ。
翌日、アシュワルドが用水路で浮かんでいるのを発見される。
複数人から殴られた形跡があったが、看守たちは特に犯人捜しをする事はなかった。
――そして1年後。
模範囚であった俺は、本来より半分の刑期で出所する事ができた。
看守たちも、比較的俺には同情的だったのも大きかったのかもしれない。
「さて、これからどうやって生きて行こうか……」
わずかな貯金も、罰金として全て没収されている。
俺はこの身一つ以外、何も持たざる者だった。
この世界には回復魔法がありますが、使用するには高額な触媒を用いる必要があります。
その為、よほどの金持ではない限り、手足の接合は不可能となります。
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