第10話 隠れた才能
「止まれ。――地面をよく見てみるんだ」
4人の少年は、洞窟の地面を兜から放たれる光で照らす。
「……藁が敷き詰められていますね」
俺はメイスで藁を払う。
その下には鋭い木の枝が埋め込まれた、浅い穴があった。
「こ、これは……!」
「落し穴だ。10匹以上を従えられるゴブリンのリーダーには、こういった罠を仕掛けられる個体もいる。藁や獣の皮などの敷物があったら注意しろ」
「はい!」
ゴブリンの恐ろしさと賢さを目の当たりにして驚いてはいるが、恐怖にとりつかれてはいない。
彼等は戦士として良い資質を持っている。
――カンッ!
俺の頭に石が当たった。
「前列! 盾を構えろ! 投石だ!」
「はい!」
俺と隣にいた2人が革の盾を構える。
「後列! 背後からの奇襲に注意!」
「分かりました!」
後ろの3人が盾とメイスを構えた。
ちなみにマルティーヌは左手が無いので、盾を左腕に固定している。
ガンガンガンッ!
石が盾に弾かれる。
「エージさん、後ろから3匹来ました! 刃物を持ってます!」
「そいつには毒が塗ってある! だが心配しなくていい! 盾でしっかり防いでから反撃しろ!」
「了解!」
横穴が無いかしっかり確認したつもりだったが、見逃していたようだ。
しょせん俺はアマチュア。この辺りがプロとの違いという事だろう。
「ギャイ!」「ギャアッ!」「ギイッ!」
「うお!?」「おっと!」「わうん!」
ガンガンガンッ!
後列組はうまく攻撃を盾で防いだ。
「シャアッ!」「死ねやああ!」「おりゃあ!」
3人は見事ゴブリンを倒した。
俺は魂縛の魔法をかける。
「よし! しっかりとどめをさしてくれ! 前列は投石を防ぎながら、このまま徐々に前進だ!」
「はい!!」
背後からの奇襲をうまく撃退した事で、士気が向上している。良い感じだ。
ガンッ! ガンッ! ……投石が途切れる。
石が無くなったようだ。
「よし、後列も背後に注意しながら前進だ!」
「了解!」
俺は罠に注意しながら、ジリジリと前進する。
そして最奥の部屋の手前にたどり着いた。
「――エージさん、ゴブリンの姿が見えませんが……?」
「入口の影に隠れている。俺達を左右から挟み撃ちするつもりだろう」
「部屋で迎え撃って来る事もあるんですね」
「いや、この前説明した通り基本的には通路で襲ってくる。部屋まで後退したのは、もうそれしか手がないからだ。つまり俺達は確実に奴等を追い詰めている」
「なるほど! よし、みんな! あともう一息だ!」
「おおおお!」
彼もだんだんリーダーらしくなってきた。
できれば、さらに壁を乗り越えて欲しいところだ。
「この奥には群れのボスがいる。他の個体よりも手強い。俺がやってもいいが、どうする?」
「俺にやらせてください!」
迷わずよく言った! 俺はリーダーの勇気に惚れ惚れする。
「よし、では周りのザコは俺達で片付ける。お前1人でボスを倒してみせろ」
「任せて下さい!」
「では作戦を伝える。前列3人は盾を構えながら一気に部屋の奥まで突っ込む。奴等はそれに動揺し、俺達に向かってくるだろう。そこを後列3人が背後から仕留めてくれ」
「了解!!」
俺は全員の顔を見回しうなずく。
「前列! シールドチャージ!」
俺と二人は盾を構えながら全速力で部屋の奥に突っ込む。
「ギギィッ!?」
慎重に攻め込んでくると思っていたゴブリン共は混乱したようで、慌てて俺達に向かってきた。
「守りを固めろ!」
「はい!!」
俺達は攻撃を捨て、盾によるブロックに意識を集中させる。
ガンッ! ガンガンッ!
奴等の攻撃を完全に防いだ。
「後列突撃!」
「うおおおおおおおお!」「わおーん!」
バキッ! ドコッ! ミチッ!
リーダーが率いる後列3名が、背後からゴブリンをタコ殴りにする。
「前列反撃!」
「うおおおおお!」
俺達は盾で攻撃を防ぎながら、メイスでゴブリンどもを打っていく。
残り7匹。全部で16匹か……予定よりかなり多い。――ここのボスは手強そうだ。
「グギャアアア!」
一際体格の大きいゴブリンが、ロングソードを振り回した。
「うわあ!?」
リーダーは盾で受けたが、その衝撃で後ろに転んでしまった。
「ゲゲゲゲゲッ!」
リーダーにとどめを刺そうと、ボスがロングソードを振り上げる。
――ドスッ!
俺が投げたダガーが背中に刺さり、ボスが怯んだ。
「えいっ!」
ガァンッ!
マルティーヌが、裏拳を打つように盾でボスの顔面を殴りつけた。――うまい!
「グギャッ……!」
ボスはバランスを崩し、よたよたと後ずさる。
「せいやっ!」
ボコォッ!
ボスの側頭部にマルティーヌのメイスがスイングされる。――見事だ!
俺は急いで魂縛の魔法を掛ける。
頭に直接雷撃を食らわせると、脳が焼け死んで一瞬で死亡してしまうからだ。
シュゥゥゥゥゥ……。
ボスの魂が小魂石に封入された。体の大きな個体は、魂も大きいのだ。
「敵将討ち取りましたー! わおーん!」
「よし、いいぞ! このまま敵を殲滅する!」
「おおおおおお!!!!」
――ズブッ。
最後のゴブリンにとどめを刺し終わった。
「ごめんなさーい! 私が横取りしちゃいましたー! わうーん!」
「ははは、いやいいっすよ! みんなが無事っていうだけで満足です! ――しかし、見事な戦い振りでしたね姉御!」
「えへへ! もしかして私、錬金付呪師より、戦士の方が向いてたりして!」
少年達が笑う。マルティーヌは冗談で言ったつもりなのだろうが……。
シールドバッシュからの流れるような連撃。熟練の戦士のような動きだった。
間違いない。彼女には戦士としての優れた才能がある。
「――さあ、みんな。まだ終わっていないぞ。隠し通路を探そう」
「はい!」
すでに全員が、子供ゴブリンを殺す事に抵抗が無くなっていた。
だが彼等は、決して冷酷になった訳ではない。
こうする事が、自分の大切なものを守る事につながるのだと、理解できただけなのだ。
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